特集2021.06

ジェンダー平等に向けてビジョンを共有する
職場で、労働組合で、何をめざすのか
「保護と平等論」を乗り越え
真の男女平等のための構想を

2021/06/14
男女平等と労働法はどのような関係にあったのだろうか。真の男女平等のために必要なこととは何だろうか。識者に聞いた。
神尾 真知子 日本大学特任教授

女性保護という前提

戦前の女性労働者は、「工場法」という1911(明治44)年に成立した法律で、保護の対象になっていました。背景には、農村から動員された女性労働者が酷使された実情がありました。女性が疲弊すると、富国強兵という国家戦略の側面からも問題があります。国はそうした観点から子どもを産む身体を持つ性として女性を保護の対象と位置付けたのです。深夜業は、当時最も女性労働者を疲弊させていたので、工場法の深夜業禁止は、女性労働者の母性を保護するものと捉えられていました。

こうした女性保護の考え方は、戦後の労働基準法に引き継がれます。1947(昭和22)年の労働基準法施行当時の労働省婦人少年局は、女性労働者は男性労働者と異なる「特殊の立場」にあるとしていました。すなわち、(1)女性労働者は母となるべき人であること(2)身体的特質に基づき労働から受ける影響が男性より大きいこと(3)女性労働者は職場労働と家事労働の二重の負担を余儀なくされていること──などです。真の意味での男女平等ではなく、固定的性別役割分業が前提とされていました。

労働組合の中にも女性差別はありました。そうした中で、女性たちが力を入れたのが、生理休暇の法制化運動でした。背景には、若い女性にわかりやすい要求運動であること、母性保護という観点から、男性の反対にあわずに運動を正当化できたという側面もありました。

「保護と平等論」

男女平等が真正面から扱われるようになったのは、1978年に国連で女性差別撤廃条約が採択されてからです。この条約を批准するために、国内で、募集・採用から昇進、定年・退職という入り口から出口までの男女平等を扱う法律の制定が必要になりました。当時は、労働基準法4条が男女同一賃金を定めるだけで、採用や昇進など、さまざまな場で女性差別が横行していました。

条約批准に向けた法制定の動きの中で出てきたのが「保護と平等論」です。1977年の「労働基準法研究会報告」は、女性に対する保護を、母性保護と一般女性保護に分け、その上で、一般女性保護については、女性の職業選択の幅を狭めるなどとして、最小限に限る必要があるとしました。男女平等を徹底させるためには、できるかぎり男女が同じ基盤に立つことが必要だという考えに基づいたものです。

経営側はこの報告に基づいて、法制化の前提として、一般女性保護の廃止を掲げました。法律の制定のためには、女性だけにある保護規定を解消して、「男女平等」にすべきだと訴えたのです。

一般女性保護規制の中には、クレーンの運転・操縦への就業制限など、女性の職業選択の幅を狭める時代遅れの規定があったことも確かです。しかし、時間外労働の上限規制や深夜業禁止をなくすことは、時間外労働の規制がないに等しい状況においては、女性が働き続けることができなくなってしまいます。

労働側は、労働時間の短縮や週休2日制の実施などの労働環境の基盤整備や保育施設の充実などの女性の家庭責任を軽減する対策を進めた上で、一般女性保護規定を解消すべきであるとしました。また、深夜業は人間らしい労働・生活という観点から男女ともに規制すべきであると訴えました。男女共通で人間らしい暮らしのできる労働条件の改善を求めたのです。

しかし、結果的に、労使の力関係の中で、議論は経営者の提示した枠組みの中で進んでいきます。すなわち、一般女性保護を選ぶのか(法成立を諦めるか)、男女雇用平等の法制化を選ぶのか(保護規定を解消するか)という二者択一の方向で議論が進んでいったのです。

こうした議論の結果、労働基準法の一般女性保護の規制が緩和され、男女雇用機会均等法が成立しました。しかし、その後の「コース別人事制度」の下、長時間労働や配置転換ができない女性労働者は「一般職」になり、実態として男女別の雇用管理が残り続けました。

均等法の成立過程では、男女共通の人間らしい暮らしができる労働条件の実現という課題は残ったと言えます。

賃金格差は男女平等の物差し

私は、男女平等の取り組みのゴールは、男女の賃金格差がなくなることだと考えています。例えば、男女平等のために、女性の管理職比率を上げたとしても、男性が「中核的な管理職」になり、女性が「周縁的な管理職」になるだけでは、賃金格差は残り続けます。採用や昇進をはじめ、男女間のさまざまな処遇の違いが最終的に表れるのが賃金なのです。賃金格差は男女平等の物差しだと言えます。

均等法には、賃金に関する規定がありません。労働基準法4条がある、というのがその理由です。日本でも、均等法に賃金差別に関する規定を設け、男女間賃金格差の是正の取り組みを企業に義務付けるべきです。そのために男女間賃金格差の情報開示を義務付けるなどの方法も考えられます。フランスでは、50人以上の企業に対して、男女間賃金格差の是正に取り組むよう義務付けています。

男女間賃金格差を是正しようとすれば、それは働き方の見直しにつながります。時間外労働や配置転換、昇進・昇格など、何をすれば賃金格差を小さくできるのかを分析し、行動に移していく必要があります。

職場において真の男女平等を実現するために何をすべきなのか。「保護と平等論」を乗り越えて、労働組合として構想を持つことが大切だと思います。

特集 2021.06ジェンダー平等に向けてビジョンを共有する
職場で、労働組合で、何をめざすのか
トピックス
巻頭言
常見陽平のはたらく道
ビストロパパレシピ
渋谷龍一のドラゴンノート
バックナンバー