ジェンダー平等に向けてビジョンを共有する
職場で、労働組合で、何をめざすのか女性の管理職はなぜ増えないのか
管理職の働き方の見直しを
「昇進したくない」気持ち
私は、スーパーマーケットや生命保険産業の研究をしてきましたが、それらの業界では、管理職の長時間労働や転勤が、女性の管理職昇進を阻む大きなハードルになっていました。
日本では、転勤のない雇用管理区分を選択すると、昇進の上限が低く設定される場合がほとんどです。一方、長時間労働や転勤を避けるために、そうした雇用管理区分を女性自らが選択するという実態もあります。昇進できない、または昇進したくないという両面の課題があるということです。
『女性活躍推進法』は、対象企業に、自社の状況把握や分析、行動計画の策定を義務付けています。総合職の女性従業員が少ない企業の中には、昇進の対象ではなかった雇用管理区分の女性従業員も含めて管理職にしようとする企業もあります。
しかし、これまで昇進が期待されていなかった雇用管理区分の女性たちは、「昇進してほしい」と突然言われても、素直に受け止められません。まず、それまでの自分の仕事にプライドやアイデンティティーを持っていますし、その仕事を離れることへの抵抗感があります。また、突然キャリアが方向転換されることへの抵抗感もあります。「今さら言われても」という気持ちや、「処遇が低いまま仕事だけが増え、利用されるだけ」と疑いの目を向ける女性も少なくありません。
そうした姿勢は、会社の視点からすれば、「やる気がない」とか「昇進したくない」というように映ります。総合職として採用され、管理職への昇進を想定していた人たちと、そうでない人たちでは、経験も意識も異なります。処遇と職責のバランスなども含め、企業は、そうした女性たちの気持ちをしっかりくむ必要があります。
気持ちを解きほぐす取り組み
こうした課題に対応するために、一般職向けに女性リーダーシップ研修を実施する企業が増えています。中には、人事部と一般職の女性、職場の管理職と三者面談を行う企業もあります。人事部が間に入ることで、職場の管理職の意識を変えていく狙いもあります。
また、社内トレーニングの一環として、半年や1年間という期限を設けて、人事異動を行う企業もあります。あらかじめ期限を明確にしておくことで、異動に対する抵抗感をなくすことができます。
こうした取り組みは、一般職の女性従業員の提案から生まれたものです。自分たちが何にハードルを感じて、何がいやだったかを踏まえて行われるものなので、効果があります。女性管理職を増やすために何がハードルになっているのか。企業は、時間をかけて女性従業員の気持ちを解きほぐし、実効性ある施策を実施する必要があります。
総合職を巡る現状
他方、総合職はどうでしょうか。1990年代には、同じ総合職でも男女で職場配置が異なるとか、任される仕事が違うなどの実態がありましたが、近年ではそうした実態は大きく変化しています。
2000年代前半の論文では、総合職の女性であっても、昇進意欲が男性よりも低いことが量的調査の結果として示されています。近年のインタビューを通じた質的調査を読むと、総合職の女性が、管理職になることを想定していることがわかります。
とはいえ、転勤や労働時間の課題は依然としてあり、総合職の女性従業員も、結婚や子育てをしながら働けるのか不安を抱いています。実際、現在の管理職の女性には、結婚していなかったり、結婚していても子どもがいなかったりする人が圧倒的に多いです。
子育て中の女性従業員が昇進コースから外れてしまう「マミートラック」の問題の背景にも、長時間労働や転勤の問題があります。そのため、女性管理職を増やすためには、やはり、管理職自体の働き方を見直す必要があります。
管理職の働き方の見直し
女性管理職を増やすためにも、企業の中核的な人材の時間拘束性、空間的な拘束性を見直すことが不可欠です。
近年では、転勤をしないでも管理職になれる制度を設ける企業もあります。中には、全国型と地域型でキャリアを分けることなく、どちらでも同じキャリアに到達できるようにした企業もあります。
転勤を昇進の要件にする企業は少なくありませんが、企業の本音は効率的に人材を配置すること。転勤のあり方そのものを見直す時期に来ています。
現在の管理職は、夜間・休日の顧客対応やトラブル対応、部下のケアなど、さまざまな役割が任されています。「管理職はいつでも、どこでも対応すべき」という意識や制度を見直していく必要もあります。管理職の残業など、労働時間規制のあり方を議論する必要があります。
また、昇進しても処遇とのバランスが見合わなければ辞めてしまうという問題もあります。
管理職に女性を割り当てるクオータ制は、海外の事例を見ると導入後に管理職比率は確かに高まっています。ただ、日本の現状ではほかの男性管理職と同じような経験を女性に積ませてこなかったこともあり、拙速に導入すれば逆効果になる懸念もあります。30〜40代では、総合職など企業の中核を担う女性も増えているので、そうした動向を踏まえながら検討すべきだと思います。
女性従業員を増やすだけではジェンダー平等は進みません。さまざまな施策を実践する際に、ジェンダー平等に与える影響を考慮し、その施策がジェンダー平等にどのようなインパクトを与えたのかを分析し、反映していくことが大切です。