特集2021.06

ジェンダー平等に向けてビジョンを共有する
職場で、労働組合で、何をめざすのか
IT業界のジェンダーギャップの解消へ
女性にITエンジニアという選択肢を

2021/06/14
IT業界のジェンダーギャップをどう解消すべきか。女性のためのプログラミング講座を開講する「Ms.Engineer」代表のやまざきひとみさんに聞いた。
やまざき ひとみ Ms.Engineer代表

選択肢にならないITエンジニア

IT業界で働きながら、ITエンジニアは、女性に向いている仕事だと思ってきました。コードを書いたり、システムを構築したりするITエンジニアの仕事は、性別に関係なくでき、実力で評価してもらいやすい仕事です。特に、コロナ禍でリモートワークが広がったことで、その思いが強くなりました。

ただ、ITエンジニアの女性比率は低いのが実情です。女性にとって、男性の多い環境に入ること自体、一つの障壁になります。ITエンジニアは、歴史的な経過の中で、男性の多い職場になってしまいました。そこで生まれた「カルチャー」が女性の参入を阻む障壁になってきたのではないかと思います。

そもそも、プログラミングやシステム構築は「理系の仕事で、男性技術者がやるもの」というイメージが強く、女性がITエンジニアを職業の選択肢として挙げることがほとんどありません。そうした現状を変えたいと考えています。

女性にもたらすメリット

女性エンジニアの育成には、たくさんの利点があります。

まず、IT業界では、高度IT人材が不足しています。女性エンジニアの育成は、業界の人材不足の解消や、その先の経済成長につながります。

また、ダイバーシティの観点から女性エンジニアを増やすことも重要です。大規模なシステム開発ほど、チームでの開発が求められますが、そこにダイバーシティやインクルージョンがなければ、システムの品質は確保されません。

女性にとっても、労働環境の向上が見込めます。高度IT人材は、給与水準も高く、リモートワークなどで働きやすさも実現できます。業界が人材不足で悩む中、求人のニーズも高く、働き口に困りません。修了した人材を採用したいという問い合わせも、企業からすでに寄せられています。

女性だけで学ぶことの意義

IT業界で働きながら、私自身はジェンダーギャップを感じたことはありません。ただ、いろいろな方の話を聞いていると、実力評価されたという人は少数で、「男性社会」から生じるひずみによって、多くの女性がキャリアを諦めていることを知りました。そうした課題を解消したいという思いが、今回の取り組みの原動力になっています。

今回、立ち上げた女性のためのプログラミングブートキャンプ「Ms.Engineer」は、日本で初めてハイクラスのエンジニアをめざす女性だけのオンライン講座です。即戦力として活躍できるようにするため、グーグルなどへの転職実績もある、非常にレベルの高いカリキュラムを提供する企業と連携し、準備を進めてきました。

女性だけのクラスにしたことの背景には、男性ばかりの環境下で、女性が学ぶことの難しさがあります。女性比率が1〜2割という環境だと、女性は不必要なことまで気にしなければならず、男性は意識しない負担が生じてしまいます。かつて女性は教育を受けるべきではないという時代の中で、渋沢栄一は、あえて女性だけを集める女子校を設立し、女性の知識を育てました。私も女子大の出身ですが、今回はその構図を意識しました。

講座はオンラインですが、オンデマンド形式ではなく、同じ時間に出席し、クラス単位で受講する形式にしました。そうすることで、クラスの横のつながりが生まれ、経験を共有することもできます。

学び直しが大切

女性のキャリアチェンジや学び直しを後押ししたいとも考えています。「生涯現役時代」といわれる中で、学び直しが重要になっています。今、テクノロジーを学ぶことはとても合理的な選択だと考えています。出産や育児でキャリアが中断してしまう問題にも、こうした学び直しが有効だと考えています。

すでに、連携するカリキュラムを修了した人の中では、看護師やダンサー、専業主婦の方など幅広い人たちが転職を実現しています。「理系じゃないけど、大丈夫ですか」という質問をよく受けますが、「ものづくりが好き」とか「プロダクトを人に提供することが好き」という人の方が向いているという話もよく聞きます。未経験者から修了する人もいるので、ぜひチャレンジしてほしいと思います。

女性エンジニアを増やすためには働き方の見直しも大切です。女性が働きやすくなるかどうかはリモートワークの定着、ひいてはさらに踏み込んだフルリモートの定着が鍵になってくると考えています。女性が働ける時間や負担を大幅に改善できるからです。また、多重下請け構造を見直し、自社開発のエンジニアを増やすことも、働き方の見直しのためには重要だと考えています。

今回は、ITエンジニアになりたいと思ってもらえるよう、アピール方法もかなり意識しています。実際、私の知っている女性エンジニアはかっこいい人ばかりです。ITエンジニアは、高い給与水準で、好きな場所で働くことも可能です。

プログラミングやシステムに関する知識を持っていれば、世の中のさまざまな仕組みを理解することができます。学び続けることに対するリターンも多いです。人生の選択肢が大きく広がると考えています。ITエンジニアのイメージを変え、女性のキャリアに新しい選択肢を提供していきたいと考えています。

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