特集2021.07

政治に変化を
政治に対する見方を変える
ジェンダーの視点でチェックし
既存の仕組みを一つずつ変えていく

2021/07/13
政治分野におけるジェンダー平等が遅れている日本。女性議員や候補者を増やすためにはどうすればいいか。ジェンダーの視点から仕組みを一つずつ精査することが重要だ。
辻󠄀 由希 東海大学教授

女性のいない民主主義?

日本は、女性の国会議員や地方議員が他国に比べて少なく、その面では、日本の民主主義は、「女性のいない民主主義」と言えます。

ただ、その一方で、男女の投票率に大きな差はなく、たくさんの女性が選挙運動を支えてきた実態もあります。その意味では、女性のいない民主主義とは言い切れません。

しかし、女性の意思や声が、議会を通じて立法に反映されてきたというと、十分ではありませんでした。立法分野に女性の声が反映されない分、行政の分野でそれを補おうとする動きもありました。例えば、かつての労働省婦人局や、現在の内閣府男女平等参画局がそうです。女性が民主主義の中にいなかったわけではなく、偏った場所でしか声が反映されなかったと言えます。

女性議員が増えて変わること

女性議員の少なさは、社会にどう影響するでしょうか。

議会は、その構成が偏った人たちばかりになると、その正当性を問われます。男性、しかも偏った経歴の男性ばかりの議会も同様です。そこで決められたことは果たして正しいのか。プロセスは納得のいくものなのか。そうしたことが問われるようになります。

また、女性議員やリーダーの少なさは、ロールモデルの少なさにもつながります。アメリカでは、女性の議員や候補者が増えると、家庭内での政治に関する会話が増えて、女性の政治的関心が高まるという研究結果があります。女性の議員やリーダーの少ない日本では、女性が政治を身近に感じることが難しくなっています。

他方、女性議員が増えれば、国の政策がすぐに変わるわけではありません。劇的な効果を期待するとかえって失望することになりかねません。例えば、女性議員が増えても、党内の意思決定の場に女性が少なかったり、そこに党議拘束があったりすれば、アウトプットはなかなか変わりません。女性議員が増えても、アウトプットを簡単に出せるわけではないと理解しておくことも大切です。

女性議員が増えて最初に期待される効果は、幅広い問題が認知されるようになることです。例えば、最近では「生理の貧困」が問題として認識されるようになりましたが、議会のメンバーが多様化することで、これまで見過ごされてきた問題が認知されやすくなります。

また、女性議員が増えることで、女性の中の多様な意見が反映されるようになります。女性の中にもさまざまな意見があります。多角的に議論が進むことで、地に足のついた判断につながりやすくなります。

ジェンダーの壁を取り払う

女性議員を増やすということは、単に数を増やすだけではなく、女性議員が増えない理由や仕組みを一つずつチェックし、仕組み全体を見直していくことです。

例えば、女性候補者を最低何割擁立しなければならないといったルールなどのクオータ制を導入している国でも、女性候補者が男性実力者の身代わり的に擁立される国もあります。それでは女性議員は増えても、アウトプットは変わりません。

政党の候補者選びは、チェックすべき仕組みの一つです。候補者選定の基準があいまいであったり、選考委員会の構成が男性に偏っていたりすると、女性候補者が増えない要因になり得ます。

カナダ連邦議会(下院)では近年、議員の正当な欠席理由に出産と育児を加えるために規定を改定したり、翌年度の開会日程を早めに公表したり、柔軟な保育サービスを提供したり、議員の家族が使える旅費補助制度を改善したりしています。また、議員間のセクハラを防止する規定や告発・調査・処罰の手続きが議員の行動規範に明記されたことも注目すべき点です。

日本でも、女性候補や議員へのセクハラ防止策を明記した法律が成立しました。このように既存の制度をジェンダーの視点から一つひとつ精査していき、ジェンダー平等を妨げる制度を一つずつ変えていくことが必要です。その結果として、ジェンダー平等の政策が実現すると言えます。

民主主義の質を上げる

議会のジェンダー平等を進めている国では、議会の多様化によって民主主義の正当性や質を上げていくという認識が前提としてあるように思います。

背景には、代議制民主主義に対する不信の高まりがあります。その危機感から、民主主義の質を上げる重要性が共有され、議会の多様性を阻んでいるものはなにか、一つずつチェックする作業をしている、と言えます。こうした前提が日本で共有されているかどうかも課題です。

日本は政治分野のジェンダーギャップ解消のスピードが、他国に比べても遅すぎます。規範が変わるのを待つのではなく、クオータ制を導入するなど、制度を先に見直した方がいいように思います。

クオータ制を導入するに当たっても、多様性を促進するために、女性だけではなく、若者などの候補者枠(割合)をあらかじめ割り当てることもいいかもしれません。日本では、学校の中で代表者を選び、ルールを決めるという経験が乏しいので、学校教育のあり方を見直す必要もあります。労働組合は、職場の声をまとめる組織です。職場の民主主義という観点からも重要な役割を果たしています。

総選挙の争点は?

次の総選挙に向けた争点は何でしょうか。ジェンダー平等の視点では、選択的夫婦別姓制度やLGBT法案がどのように取り扱われたのかを選挙まできちんと覚えておき、選挙の際に意思を示すことが大切だと思います。

安倍政権下での「働き方改革」では、経済とジェンダーが結び付いた議論がされました。女性が職場で活躍するシステムが整っていないと、日本経済にとってもマイナスという認識はある程度共有されたと思います。コロナ禍でも、経済のダメージが女性に重くのしかかることが示されました。

ジェンダーギャップの問題は、経済や社会保障の問題に結び付いています。ジェンダーギャップは一部の問題ではなく、社会全体の問題として認識する必要があります。ジェンダーギャップの解消に向けて、例えば、政党のマニフェストをジェンダーの視点からチェックすることもできます。マニフェストの中にある経済・社会保障政策がジェンダーの視点から見て、どのような影響を及ぼすのかチェックする。実効性ある改革をするのはどの政党なのか。そうした基準で投票先を選ぶといいのではないでしょうか。

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