特集2021.07

政治に変化を
政治に対する見方を変える
声を上げて社会を変えるには?
成功体験の積み重ねが大切

2021/07/13
社会を変えるにはどうすればいいのか。一人ひとりがめざすビジョンに向かって行動すること。声を上げる人が増えれば社会は変わる。
能條 桃子 一般社団法人
NO YOUTH NO JAPAN代表

若者の政治意識

若者が政治に無関心かと言われると、そうではないと思います。10代、20代の投票率は、他の年代よりも低いので、その面では確かに政治に無関心と言えるかもしれません。でも国際調査を見ても、日本の若者の政治意識は、投票率が高い他の国と比べても大きな差はありません。

投票率が低い背景には、投票する習慣がなかったり、「シルバーデモクラシー」と言われる中で、「自分たちが投票しても何も変わらない」という諦めみたいなものがあったりするのではないかと思っています。今後ますます日本社会が厳しくなると言われる中で、これ以上悪くなってほしくないという思いが、現状維持を望む気持ちにつながっているのかもしれません。

「行動しても変わらない」という思いの背景には、小さな成功体験の積み重ねの少なさもあるのではないかと感じています。「声を上げたら変わるんだ」という経験の少なさが、投票に行っても変わらないという意識につながっているのではないでしょうか。

ビジョンを語って

若者は政治に関心がないわけではありません。濃淡はありますが、さまざまな社会課題に関心を持っています。例えば、「NO YOUTH NO JAPAN」の活動をフォローしてくれる人の中には、ジェンダーやLGBTQ、気候変動や難民問題に関心を持つ人がいます。

安保法制の議論当時、私は高校生でした。正直なところ、この問題に関心を持ちきれませんでしたが、若者が法案に反対の声を上げたことは、とてもよかったし、変化をもたらしたと思います。

あのときは、与野党が激しく攻防する政局を含んだ運動でした。あれから5年たって変わったことは、今の若者たちは、政局よりも一つずつの政策に関心を持つ人が増えているということです。ジェンダー問題に関心を持っている人、気候変動に関心を持っている人というように、個別の政策ごとに活動する人が増えている印象です。

私たちの世代では、互いに意見も立場も違うのだから、お互いの意見の間を取った方がいいという感覚が、かなり共有されています。

一方で、はっきりしたNOを示すことは敬遠されます。今の若い世代は基本的にNOと言いたくありません。その感覚と、野党が与党にNOを突きつける感覚は相性がよくありません。

野党のメッセージを伝えるには、めざすべきビジョンや社会像をもっと示した方がいいと思います。例えば、8時間働けば普通に暮らせる収入が得られる社会にするとか、現状の問題点を指摘するだけではなく、そういう社会になったらいいねというビジョンやストーリーを示す方が若い世代に響くし、受け入れられやすいと思います。

私が五輪組織委員会の森会長の発言に対して署名活動をしたときも、森会長個人への署名ではなく、組織に対して再発防止や女性委員の割合の引き上げなどを求めるものにしました。その根本には、「個人攻撃」が好きではないというのがあります。

ただ、NOと言えない若者の性質をそのまま受け入れる必要もないと思っていて、問題について言うべきことは言った方がいいし、問題の所在をはっきりさせることも大事だと思います。例えば、LGBT法案が成立しなかったのは、一部保守派の反対があったからですが、そうした議員がいることを知った上で、政治について会話ができるようになるといいと思います。

声を上げて変える感覚

私が留学したデンマークでは、選挙はみんなが参加して楽しいもの、わくわくするものでした。

日本の選挙運動は街宣車や街頭演説が一般的ですが、デンマークでは候補者と市民が対話する機会がとても多いことが日本との大きな違いです。有権者は候補者と話してみてから選ぶのが基本。投票権のない小学生たちも、候補者にインタビューする宿題が出ます。街中には、政党や候補者のテントが張り出されて、そこでおしゃべりする。選挙は単に投票するだけではなく、にぎやかで楽しいものというイメージがあります。

自分たちが社会に参加しているという感覚も違います。幼稚園の段階から自分の意見を持つように教育され、学校のルールや授業の進め方などについても、自分たちで決めていきます。

加えて、政党の青年部というものがあり、そこに参加する若者は、さまざまなキャンペーンやアドボカシーを展開して、声を上げて社会を変えるという体験を共有しています。気候変動問題が選挙の重要なテーマになったり、若年層のメンタルヘルスに関する医療費が無料になったりしたことも、若者たちの運動があったからでした。

声を上げれば変えられると感じている若者は日本にもいます。最近では、「生理の貧困」という言葉が広がり、各地で取り組みが進んでいますが、私の友人が署名を集めたり、問題提起したりする活動をずっと続けてきました。活動している人にとっては、声を上げれば変えられるという感覚はある程度、共有されていると思います。その感覚を社会全体のものにすることが大きな課題です。

そのためには、政治家やメディアの姿勢が変わるべきだと思っています。例えば、何かのアクションがあって、それが達成された時、政治家の皆さんには、声を上げた人の存在をきちんとアピールしてほしい。メディアも報道の際に、ただ単に若者が声を上げたというだけではなく、その背景にどういう活動があって、なぜそれがうまくいったのかなどを事例として掘り下げてほしいと思います。

何かのアクションが起きたとき、そこにはその人の周りを取り巻く社会課題や困難があるはずです。一部の特別な若者の行動としてフォーカスするのではなく、そこにある社会課題などに目を向けてほしいと思います。

社会を変えるには

活動を続けるコツは、自分一人で社会を変えられると思わないことだと感じています。一人では大きな成果は生み出せません。仲間との役割分担が大切です。

労働組合が、若い人を巻き込んだ活動がしたいのならば、当事者のいないところで議論しても意味がありません。若者たちの意見が大切にされたり、活動しやすかったりする場であれば、参加の輪は自然と広がっていくと思います。そのためには、「声を拾う」のではなく、当事者に活動の主体になってもらうことの方が重要です。

活動している人自身が楽しんでいれば、それは周りの人に伝わります。他人を変えるのではなく、まず自分自身を変えようと思う人が増えれば、社会は変わっていくのではないでしょうか。

選挙は、投票したらそこがゴールではなく、それはプロセスに過ぎません。自分たちがどういう社会に生きたいのか、そのビジョンに向かって行動する人が増えることが大切だと思います。

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