常見陽平のはたらく道2021.10

失業とどう向き合うか
立ち上がれる安心感が大切だ

2021/10/13
経営者の「45歳定年発言」が炎上した。その背景にあるのは、人々の失業に対する不安だ。何が求められているのだろうか。

サントリーの新浪剛史社長が経済同友会のオンラインイベントで「45歳定年制」を提案し、物議を醸した。組織の新陳代謝、成長分野への人材の移動などを目的としたものだ。

やや炎上気味になり、新浪氏は釈明に追われることになった。働き盛りであり、教育や介護などでも出費がかさむ時期に定年退職というのは現実的ではない、新種のリストラではないかなどの批判が殺到した。

高齢者雇用安定法が改正され70歳までの就業機会の確保(努力義務)が盛り込まれた後でもあるし、「人生100年時代」だとも言われてきた。時代に逆行しているようにも見える。リカレント教育などによる学び直しや、副業・兼業などで次の仕事への助走期間を設けること、転職を支援する仕組みなども必要だ。

この提案は10年前なら20〜30代のビジネスパーソンに一定の支持を集めたことだろう。ロスジェネ世代からは、バブル世代が居座っており自分たちは必ずしも課長以上になれないので、上の世代に退場してもらいたいという声が上がっていた。実は雇用の流動化は経営者ではなく、ビジネスパーソンの側からも提案されていた。もちろん、「就社」による弊害、個人と企業の関係については見直しも必要ではある。

今回、この件が炎上気味になった理由の一つは、雇用に関する不安だろう。新型コロナウイルスショックによる影響は大きい。非正規雇用においては、「失業」ではなく、シフトが組まれないことによる「隠れ失業」が問題となった。特に非正規雇用は、サービス業で働く女性の割合が大きく、これはコロナの影響を受けやすい。ゆえに「女性不況(シー・セッション)という言葉も広がっている。

日本においては、失業率は低い水準で推移してきた。緊急事態宣言が発令されたものの、厳格なロックダウンにはならなかった。雇用維持を目的とした賃金補助などの支援も行われた。もっとも、それでも心から安心して働くことができないのはなぜだろうか。特に非正規雇用においては、常に不安が渦巻いていた。

労働者が不安にならないように、失業は避けるべきだ。ただ、突然の倒産や、失業ではなくともシフト減などもあり得る時代である。例によって「自己責任」で終わらせてはいけない。私は「手をあげやすい」サポートが必要だと考える。つまり、もし仕事を失ってしまっても、さまざまなサポートを受けることがスティグマ化されないこと、さらには次の職業に就くことが円滑にサポートされることだ。リスキニングや、マッチングのための具体的な金銭的、さらには機会のサポートを特に期待したい。

この件は45歳定年論ともつながっている。自分を自分で支えろと労働者を突き放すのは酷である。具体的に次の機会をいかにつくるかだ。転んでも立ち上がれるという安心感がなければ、チャレンジなどできまい。人々がこぼれ落ちない会社と社会づくりのために、いま、仕事に忙しい人も失業問題は自分事として捉えなくてはならないのだ。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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