特集2021.12

「安い日本」
労組の力で転換を
賃上げには労働組合の力が必要だ
男女間賃金格差の是正へ
「職場重視モデル」への転換が必要

2021/12/15
男女間の賃金格差は依然として残り続けている。仕事の割り当てをはじめとした、格差の要因となっている職場の問題を、これまでの前提にとらわれず、大胆に見直す必要がある。現状と課題を識者に聞いた。
大槻 奈巳 聖心女子大学教授

男女間賃金格差の要因

男女間の賃金格差に関する研究はたくさんあります。それらによると、男女間の賃金格差は、▼女性の管理職が少ない▼男女で業務の難易度や職種が違う▼女性の平均勤続年数が短い──といった要素が決定しています。

こうしたことは、ここ30年近く言われていて、その構図はいまだ変化していません。女性管理職は徐々に増えているものの、「課長相当職」でも10%強程度で2割にも届きません。また、仕事の割り当てという点でも、1986年施行の男女雇用機会均等法の後にできた「総合職」「一般職」のような雇用管理区分に基づく人事管理が、いまだ賃金格差の要因になっています。

男女間の賃金格差には、雇用形態間の格差も大きく影響しています。非正規雇用の賃金は、正社員に比べて低く、かつ、非正規雇用労働者に占める女性の割合が7割近くに上ることで、賃金格差が生じています。

仕事の割当の平等化を

男女間の賃金格差を是正するためには、女性が管理職などの基幹的な仕事に就くことが大切です。そのための政策的な対策は、これまで「家族重視モデル」でした。具体的には、育児休業や保育所の充実のような、女性の家事・育児負担の軽減をねらった対策が中心でした。

しかし、それだけでは不十分なことも明らかです。「職場重視モデル」の対策を強化する必要があります。

「職場重視モデル」とは、職場の中にある問題の解決を重視するモデルのことです。職場の中には、女性が仕事へのモチベーションを下げる要因がたくさんあります。例えば、職場で期待される役割が男性と違うとか、割り当てられる仕事が違うとか。男女で期待される役割が異なると、女性のモチベーションが低下するという調査結果もあります。周辺的な仕事しかしていないと、中核的な仕事をするための知識やスキルも身に付かず、賃金格差の要因になります。

人のやる気や志向性は、その人が置かれている状況に左右されます。例えば、将来の役割を期待されていれば、やる気を持って取り組むようになりますが、将来の役割を期待されず、周辺的な仕事を割り当てられていれば、やる気を失っていきます。現状では、将来期待の男女差などによって、多くの女性がモチベーションを低下させています。

仕事の割り当てをするのは、経営層というより、管理職層です。男性の管理職が多い現実の中で、部下に対する上司の配慮は、男女で大きく異なります。例えば、男性の部下には、将来のために少し難しいと思える仕事でも割り当てていくのに、女性の部下にはそうしない。また、「こつこつやる仕事が女性に向いている」とか「女性はユーザーサポートの仕事が向いている」というように、管理職層のジェンダー観に基づいた仕事の割り当てが行われている職場もあります。女性には「狭く深くやる仕事」を任せて、男性には「広くマルチにする仕事」を任せるとはっきり言う管理職もいました。

ただ、そうした性別に基づく仕事の割り当てにどれだけの根拠があるでしょうか。これまでの仕事の割り当てを漫然と続けてきただけではないでしょうか。男女の仕事の割り当てを見直し、平等にしていく必要があります。そのためには、管理職の意識を変えることが重要です。

管理職の育児中の女性へのよかれと思った「配慮」──仕事の重要度を下げたり、出張なしにしたりなど──が女性の知識・スキルを得る機会を減らし、やる気を下げる場合もあります。

女性管理職を増やしていくためには、このように、女性が仕事を続けていけなくなったり、続けていきたくなくなったりする現状や、管理職を志向しなくなる構造を見直していく必要があります。

仕事の評価の見直し

さらに、基幹的な仕事に就く女性を増やしていくためには、長時間労働を是正し、時間当たりの成果で評価する方向へ働き方を変えていくことも必要です。

長時間働ける人が評価される現状は、育児休業や短時間勤務の取得者を直撃しています。それらの取得者にインタビュー調査すると、特に短時間勤務の取得者では昇進が遅れたとか、低い評価になったという人が少なくありません。

それらの制度の取得者の評価が低いということは、育児休業や短時間勤務を取得するのが女性の方が多い現状では、女性の昇進や昇格が進まないということです。この現状を変えなければ、女性管理職を増やせません。

そのためにも、長時間労働を是正したり、時間当たりの成果で評価したりすることが重要です。そのためには、仕事の内容によって賃金を決める「職務評価」を取り入れていくことも一つの方法です。仕事の内容によって賃金を決めることで、同じ仕事をしているのに転勤の有無や将来の責任の違いなどによって、賃金に大きな格差が生まれる状況を是正することができます。職務を評価するにあたっては、どのような尺度で評価するのか、性別や雇用形態などを問わず、納得性の高いものにするために議論を深める必要があります。

仕事の内容で賃金を決めることは、男女間賃金格差の是正だけではなく、若年層にとっても大切です。年功型の賃金や長期雇用が衰退し、若い頃は低い賃金で我慢して、中高年層になって元を取るという働き方ができなくなっている中で、その時々で働く内容と報酬が一致するようにしなければ、多くの人が不満を抱えるようになります。その意味でも、仕事の内容と報酬をリンクさせる改革の必要性は高まっています。

問われる転勤のあり方

転勤の是非も問われるべきだと考えています。共働き世帯が増える中で、転勤で夫婦のどちらかが仕事を辞めなければいけなくなると、世帯年収は大きく減少します。夫が単身赴任したとしても、妻に家事・育児負担が偏ることになり、フルタイムの仕事が続けられないこともあります。30歳前後の労働者にインタビュー調査をしても、転勤をしたくないという人が大半です。転勤がモチベーション低下や離職にもつながりかねません。転勤には、不正防止や人的交流などの効果があるとされていますが、その効果を検証し、見直していくことも重要です。

職場重視モデルへの転換

男女間賃金格差は徐々に縮まってはいますが、格差の要因となる構造は残っています。仕事の割り当てを見直したり、短時間労働者でも評価されるよう、時間当たりの成果で評価するようにしたり、格差の解消のためには、これまでの前提にとらわれない大胆な取り組みが求められます。経団連は女性の両立支援を強化するとしていますが、「家族重視モデル」に加えて、「職場重視モデル」の対策の強化は不可欠です。労働組合には、これまでの前提にとらわれない起爆剤となるような取り組みを期待しています。

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