特集2021.12

「安い日本」
労組の力で転換を
賃上げには労働組合の力が必要だ
有期契約労働者への賞与支給
労働組合の要求から始まる

2021/12/15
昨年10月、最高裁は有期契約労働者への賞与や退職金の支給を巡って、それらの不支給は不合理ではないという判決を出した。「正社員確保論」が背景にある。だが、労働組合の運動があれば、状況を変えることができる。要求を積み重ね、社会に広げていこう。
嶋﨑 量 弁護士
日本労働弁護団常任幹事

裁判での闘いは難しく

最高裁は2020年10月、労働契約法20条を巡って争われた裁判で、正社員と有期契約労働者との労働条件格差に関する判決を出した。その中でも特に、賞与と退職金に関する扱いが注目された(「大阪医科薬科大学事件」「メトロコマース事件」)。

最高裁は判決で、使用者が退職金や賞与を支払うのは、「正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図る目的」のためとし、それぞれのケースについて検討した上で、使用者が有期契約労働者にそれらを支払わないのは不合理ではないと結論付けた。いわゆる「正社員確保論」だ。

労働契約法20条に関する最高裁の判断は、労働契約法20条を引き継いだパート・有期法8・9条にも基本的に反映されるとみられている。こうした判決を受けて、日本労働弁護団の嶋﨑量弁護士は、「一連の裁判で諸手当の支給は認められやすくなったが、賞与や退職金について判決を活用した闘いは難しくなったのは事実」と指摘する。

「正社員確保論」で終わらせない

一方、基本給や賞与の支払いなどについて、嶋﨑弁護士が今後期待を寄せるのが、労働組合の運動だ。

「判決では賞与などは認められなかったが、格差是正のための労働組合の役割はむしろ高まった」と強調する。

「賞与などについての判決は厳しいものだったが、新たにパート・有期法8・9条に基本給と賞与が明示された意味は大きいし、使用者の説明義務がなくなったわけではない。待遇ごとの性質や目的などに即した労使の議論は引き続き求められている」と指摘する。

パート・有期法8条は、賞与など待遇のそれぞれについて、不合理と認められる相違を設けてはならないと定めている。パート・有期法14条2項は、パート・有期契約労働者からの求めに応じて、使用者に待遇の違いや理由を説明させる義務を課している。その説明が、使用者の主観的・抽象的な説明では不十分であることは、「同一労働同一賃金ガイドライン」に記載されている。待遇格差の不合理性の判断には、労働組合との協議も含まれている。

「労働組合の要求に対して、使用者は『正社員確保論』を主張するかもしれないが、抽象的な説明で終わらせず、労使で議論を深める作業が欠かせない。それぞれの待遇の性質や目的について、労働組合が会社と議論を深めてほしい」と嶋﨑弁護士は強調する。

労働組合からの波及を

そうした運動が広がれば、社会全体の底上げにもつながっていく。

「労働組合は、まずは要求していることを社会にアピールしてほしい。満額の回答は得られなくても、有期契約社員の基本給が上がり、賞与支給が当たり前になっていけば、裁判所の判断にも影響する。裁判でも圧倒的に勝ちやすくなる」

労働契約法20条が制定された背景には、雇用形態間の格差の拡大が、社会の活力を奪っているという認識もあった。「だからこそ、労働組合が雇用形態間の格差是正を要求することは、社会の活力になる。要求する組合が増えれば、他の労組での要求にもつながり、社会全体の活力につながる。自信をもって要求してほしい」と嶋﨑弁護士は訴える。

賃金が長らく低迷する「安い日本」の背景には、非正規雇用の広がりがある。広がりすぎた雇用形態間格差を是正するツールがパート・有期法だ。その活用には労働組合の力が欠かせない。「安い日本」からの脱却の鍵は、労働組合が握っているといえる。

特集 2021.12「安い日本」
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