特集2022.03

若者と労働組合
労働組合の意義を伝えるには?
「テレワーク」「ジョブ型」で
人材育成はどう変わるのか
日本企業の長所を生かす

2022/03/15
テレワークや「ジョブ型」の人事制度の導入など、労務管理が変化する中で、若者の人材育成はどうあるべきなのか。変化に対応しつつ、日本企業の強みを生かすにはどうすべきか聞いた。
藤村 博之 法政大学教授

若手に迎合する会社

最近の動向を見ると、会社が若者に迎合している感じがします。若者が嫌がることを言わなかったり、やらせなかったりする。なぜかというと会社は新入社員を一人採用するのに約200万円かけているといわれます。すぐに辞められては困るからです。でも、言うべきことを言わずにいて、本当にいいのでしょうか。

パワハラと言われたら困るから注意しないという管理職もいます。確かに、普段話したこともないような上司からいきなり注意されたら若者も反発するでしょう。でも、自分のことをよくわかってくれている先輩からの注意なら、多少きついことを言われても受け入れられます。

企業の採用方法にも問題があります。採用担当者は、自社の社風を学生にきちんと伝えているでしょうか。飲み会がある職場なら、それを最初に伝えておくべきです。

人材育成とテレワーク

人材育成とは、お互いの持っている情報を増やしていく側面があります。先輩の経験を後輩に伝え、互いの情報を増やしていくということです。

そのとき、オンラインと対面では伝わる情報量が圧倒的に異なります。職場に集まって仕事をしていれば、業務に詳しい人にすぐに聞けるようなことが、テレワークだと聞けずに自分で調べるようになり、かえって効率が悪くなります。

テレワークでも業務処理は相当程度できます。しかし、新しい業務の創造や革新はテレワークだと難しい。今までと違うことに挑戦するための合意を取りにくいからです。新しいことを始めるためには対面で議論をした方が効率的です。

テレワークはあくまで道具です。目的に合わせて使い分ける必要があります。

「ジョブ型」でいいのか

日本企業の人材育成の長所は、上司や先輩が、自分の経験や知識を惜しげもなく後輩に伝えることです。

でも、「ジョブ型」社会になると、そうした日本の人材育成の長所が生かされなくなる懸念があります。いわゆる「ジョブ型」社会では、自分の知識やノウハウを他人に教えると、その人に仕事を奪われてしまう恐れがあるからです。そのため、先輩は後輩に仕事をやすやすと教えません。でも、日本の職場では教えてくれます。どうしてでしょうか。それは、日本の職場では、部下や後輩がその仕事をできるようになれば、教えた側は別の仕事に移っていくからです。

「ジョブ型」社会の前提は、働く側が人事権を持っていること。一方、「メンバーシップ型」社会の前提は、企業が人事権を持っていることです。だから、「ジョブ型」社会では、隣の課で人が足りなくなって会社がAさんに異動を打診しても、本人が嫌だと言ったら異動はできません。一方「メンバーシップ型」社会では会社が異動を命じることができます。このように「ジョブ型」と「メンバーシップ型」では、人事権の所在が決定的に異なります。「ジョブ型」になれば、隣の課で人が足りなくなっても簡単に異動できなくなってしまうのです。

企業の人事部はそのことをわかっているのでしょうか。労働組合からすれば、企業が「ジョブ型」を導入するというのならば、「これは私の仕事ではありませんと言いますよ。それで仕事が回るんですか」と訴えるべきでしょう。

「安全」な環境

日本の正社員は「職務無限定」だといわれますが、日々の仕事の中で誰が何をするのかが決まっていない職場はありません。担当は必ず決まっています。でも、担当外の仕事も手伝うのが日本の職場です。周りの人の仕事を手伝って、職場全体で課題解決に取り組む。そういう日本の職場の良さをなくしてしまっていいのでしょうか。

1990年代後半に成果業績制度が導入されると、社員同士がノウハウを教えなくなるという弊害が起こりました。教えてしまうと他人の業績が上がってしまうからです。

上司や先輩が自分の経験や知識、ノウハウを惜しげもなく教えることができるのは、そのことで自分のポジションが脅かされることがないからです。近年、「心理的安全性」という言葉がキーワードになっていますが、先輩が後輩にノウハウを教えることができるのも「安全」だからです。そこにはある種の雇用保障があります。企業にとっても、このように組織全体の力を高めることが競争力向上につながると捉えるべきでしょう。

人材投資と長期雇用

企業は、従業員に教育訓練のコストを掛けるからにはリターンを求めます。2〜3年で辞めてしまう人には投資をしたがらないし、投資をしたからには長く勤めてもらい、リターンを受け取りたいと考えます。そうすると結果的に長期雇用になります。

一方、転職を繰り返し、企業を渡り歩く人に企業は投資をしたがらなくなります。能力育成にはマイナスではないでしょうか。

日本企業はOff-JTにかける費用は少ないが、OJTで教育しているとも言われます。ただ、やみくもに仕事をさせているだけではOJTになりません。OJTに目標や期限、フィードバックなどを持たせ、計画的に行う必要があります。その意味で、日本企業がきちんとOJTをできているかどうか検証が必要です。

企業や社会は、さまざまな仕組みが組み合わさって一つの結合体を形成しています。雇用の仕組みを「メンバーシップ型」から「ジョブ型」に変えるといっても、1箇所だけ変えても仕組みはうまく動きません。環境の変化に対応しながら、日本企業が持つ強みを生かす方法を探っていくべきです。

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