若者と労働組合
労働組合の意義を伝えるには?アメリカの「Z世代」はなぜ行動するのか
日本とアメリカの若者の違いは?
深刻な学生ローン問題
2016年に続き2020年のアメリカ大統領選挙でも、左派政治家であるバーニー・サンダース氏が若者たちから熱烈に支持されました。要因の一つとして、若年層の経済的な苦境が指摘されています。
アメリカの学生ローン問題は日本で考えられている以上に深刻です。アメリカでは、学士号や修士号がないといい仕事に就けないという縛りが強くなる一方で、学費が高騰しています。私立大学の学費は年間400万円以上、州立でも居住州外の大学なら300万円以上かかります。
これだけ高額になると自腹で払える世帯は限られます。若者はいい仕事に就くために学生ローンを借りて進学しますが、卒業時点で平均300万円の借金を背負います。ロースクールなら1800万円です。いい就職先がなければ返済に追われ生活に困窮する一方、経済的に恵まれた学生との格差が広がるなど、不平等感が高まっています。アメリカの若者は、政治に興味がないと言っていられないほど追い詰められているといっていいかもしれません。
その一方、アメリカで1990年後半から2000年代に生まれた「Z世代」は、社会を良い方向に変えていける意識が、上の世代より強いという意識調査があります。40代、50代の「X世代」が政治に幻滅しているのに対し、「Z世代」は楽観的な特徴があるともいわれていて、社会や政治をいい方向に変えていけるという政治的有効性感覚も強い傾向にあります。背景にはSNSの普及などで、若者でも発言力を持てるという実感もあるかもしれません。若者が社会運動に参加するのは、切迫した状況に直面していると同時に、自分の発言や行動が意味を持つと感じられるからだと思います。
運動のメインストリーム化
「持たざるもの」の武器とされてきた抗議運動は、急進的・無秩序といった否定的イメージを負わされがちです。ところが、2020年には抗議運動に参加する人が急増しました。
「Black Lives Matter」のような運動の広がりを支えたのは、公的な社会保障の弱さを補うために発達してきた地域の活動や組織です。そこに、教育水準が高く経済的にも恵まれた層が合流したことで、それまでマイノリティーの人たちの運動だと認識されていた「Black Lives Matter」がメインストリーム化し、運動にかかわるスティグマが払拭されました。
高学歴の若者たちが、労働組合運動をけん引する動きもあります。例えば、スターバックスにおける労働組合の組織化です。運動の中心にいるのは、若くて教育水準が高く、リベラルな考えを持つ従業員たちです。
スターバックスは元々、高学歴リベラル層を顧客のターゲットにし、従業員にもそうした若者を積極的に雇用して、大学(通信教育)の学費さえ支援してきました。その結果、リベラルな考えを持つ従業員が、労働組合の結成に取り組むようになりました。組織化を妨害してブランドが損なわれるコストの方が高いと判断すれば、同社は組合結成を容認していくのではないかといわれています。
また、最近ではコロンビア大学のティーチングアシスタントとして働く大学院生たちが、10週間にもわたるストライキを実施し、賃金アップや医療保険の拡大などを勝ち取った事例もあります。大学側は長年抵抗してきましたが、大学院生の組合運動は、全米に広がりつつあります。
アメリカでは教育水準が高くなるほどリベラル化する傾向が従来からはっきりありますが、若者が歴史上最も高学歴化している現在、こうした若者たちが、アメリカで低調だった労働組合運動を活性化させています。
日本の若者をどう見るか
日本ではどうでしょうか。大学の授業で、ある学生が「気候危機に関するデモに参加したいか?」と他の参加者に質問したところ、ほとんどの学生は参加しないと答えました。気候変動問題には関心があるものの、「自分一人が行動しても変わらない」「悪目立ちしたくない」という理由でした。他人からどう見られるか、相手と考えが違うことで関係が壊れないか、恐れているようでした。あつれきを生まないことを重視する社会規範が、政治を語ることを難しくしているのかもしれません。
アメリカでは、相手の発言をさえぎらず、発言を促すことをとても重視します。考え方の多様性を前提とし、相手の考えを聞く必要があると捉えているからです。だからといって、意見を必ず一致させなければいけないわけでもありません。そこには、同意しなくても共存できるという感覚があります。そういう感覚がなければ、政治を議論することも難しいのかもしれません。若者たちが、安心して議論したり、行動したりできる環境を整えることが重要だと感じています。
自分一人でも声を上げる、一人ひとりが集まって社会を動かすという感覚がなければ、投票にも意義を見い出せず、民主主義を支えることもできないでしょう。何かを変えたかったら、まずは仲間を増やすという発想を持つことも大切です。例えば、今の若者たちはLGBTQの人たちの存在を自然と受け入れていて、その権利保障のためなら熱心にアイデアを出します。大学や職場では、若者たちが政治的な抵抗感なく取り掛かりやすい課題を突破口にすることで、社会を変えていくという成功体験を積み上げていきやすいのではないでしょうか。