若者と労働組合
労働組合の意義を伝えるには?悩みの解決こそ人材育成の強化
若者の教育訓練を企業と社会で支える
職業に就くための教育の必要性
バブル崩壊後、非正規雇用の増加で十分な教育訓練を受けられない若者が増えています。
日本の労働市場は、少子高齢化が進み人手不足だといわれていますが、その一方で若年層の失業や無業という問題もあります。このことは、「人手不足で働き口はあるはずだ。より好みしなければ仕事に就ける」という「悪者探し」につながります。
人手不足なのに、なぜ失業や無業が併存するのでしょうか。そこを埋める手掛かりの一つが、教育訓練です。教育訓練だけで問題が解消するわけではありませんが、教育訓練が重要なのは確かです。
これまでの教育訓練は、学校が若者の勤労観をしっかり育てていないからだめだ、という「心構え」に原因を求めることの繰り返しでしたが、それで不十分なのは明らかです。見知らぬ人とコミュニケーションを取れるソーシャル・スキル・トレーニングや、個別具体の職業スキルの養成に努めるなど、職業に就くための具体的な教育を拡充していく必要があります。
できることから始める
企業のコスト削減マインドは、バブル崩壊やリーマン・ショックで肥大化し、人材育成への意識は萎縮したままになっています。その背景には、人材育成に投資しても、見返りを得られる自信がなかったり、見返りが何かわからなかったりする企業の意識があるからではないでしょうか。
まずは大上段に構えずに、ロー・リスク、ロー・リターンの投資でもいいから、少しずつでも人材への投資を増やしていくことが必要です。現場で起きている困りごとを一つずつ解決する手伝いをする。これも立派な人材投資でありリターンである、とマインドをリセットしていくことが大事です。
政策的なリソースを集中して投資するために、ターゲットを絞ることも一つの手法です。例えば、企業のタイプを教育訓練の意思が「あり」「なし」と、教育訓練の余裕が「あり」「なし」をクロスさせて4つに分類します(図表)。このうち訓練の意思はあるけれど、余裕がないというタイプⅢにターゲットを絞り、政策資源を振り分けていくことが考えられます。そこで成果が出れば、訓練の余裕はあるけれど、その意思がないタイプⅡに広げていく、ということも考えられます。
中小企業の困りごと
では、タイプⅢに当てはまる企業、とりわけ中小企業は、人材育成に関して、どのような悩みを抱えているのでしょうか。その悩みの解決こそが人材育成の強化だと言えます。
聞き取り調査をすると中小企業は次のような悩みを抱えています。
・非正規雇用で現場を回してきたので若手育成のメニューが消えてしまった。・若年層を長い間採用してこなかったので、直近に採用した社員との年齢差が大きくなりすぎて、接し方がわからない。
・家族関係でメンタル問題を抱えている新人に、仕事のミスをどこまでしかっていいのかわからない。
最後の項目は説明が必要かもしれません。例えば、家族の介護を抱えていて、精神的に不安定になっている新入社員に仕事のことでどこまで注意していいかわからない、とか、家庭環境に問題がある新入社員にどう配慮していいかわからない──というような問題です。
この場合、新入社員の人材育成には、福祉やソーシャル・ワーク的な要素が含まれることになります。仕事を教えるだけではなく、生活面での支援も必要になります。こうした問題に対応するためには、企業外の支援団体などと連携して取り組むことが重要です。
例えば、大阪では、高校の卒業生を継続的にサポートする取り組みも行われています。事業を受託した非政府組織の中小企業診断士や就労支援員が、卒業生が就職した職場を訪問して、本人や企業から就労状況や悩みなどを継続的にヒアリングする取り組みです。
家庭に問題を抱えている新入社員に対する接し方を上司に学んでもらう。そのことで新入社員の表情が少し明るくなる。これも立派な人材投資です。就職前のお試しの職業体験の場を増やすこともそうです。自分がどのような仕事に向いているのか、若者が気軽に「お試し体験」できるような環境を企業が提供する。こうしたささやかな取り組みも、人材投資であると捉え直すことが大切です。
スウェーデンのCWLプログラム
スウェーデンのある地域では、自治体や労働組合、公共雇用事務所、社会保険事務所の連合体でつくる「大都市圏調整協会(MCA:Metropolitan Coordination Association)」という組織が、失業などで労働市場から退出した労働者を再び労働市場に参加させるCWLプログラム(Complementary Work Life)という活動を行っています。
このプログラムでは、MCAのメンバーが、職場の訪問などを通じて現場の困りごとを見つけ出し、それを仕事として切り出し、新しい雇用に結び付けるという活動をしています。雇用主がプログラムに基づいて新規雇用をしたら、行政から補助金が支給されます。ポイントは、現場の実態に基づいた仕事であることから、現場の職員からも喜ばれるということです。雇用される若者などにとっても現場のニーズを伴った仕事に就くことで職場に入っていきやすくなります。
このように、ヨーロッパやアメリカでは、社会政策学と人的資源管理論の合流が起こっています。企業の人材育成だけではなく、他方で、企業の社会的責任を強調するだけではなく、その両方を包摂した取り組みが進んでいます。
一つの企業だけではなく、より広い視点から若年層への教育訓練を支えていくことが求められています。