特集2022.03

若者と労働組合
労働組合の意義を伝えるには?
若者に労働組合の必要性を
どうやって伝えるのか

2022/03/15
若者に労働組合の必要性をどう伝えればいいだろうか。若者の現状を踏まえながら、その必要性や意義を伝える方法を考える。
常見 陽平 千葉商科大学准教授

「Z世代」のリアル

私が約10年前に「意識高い系」という言葉を紹介した頃、何か目立った活動をする若者には、自分が有名になるとか、成功したいという思いがにじみ出ていました。でも、最近の活動する若い人たちは、社会をどうするかに目が向いています。意義のあるアクションですし、その感覚を大切にしてほしいと思います。

ただ、彼ら、彼女らが若者を代表しているのかというと、疑ってみる必要があります。

私は大学で学生と日常的に接していますが、「若者の○○離れ」ではなく、時間とお金が「若者離れ」していると感じます。多くの学生はアルバイトで忙しく、社会的な活動をする余裕もありません。学生の労働者化が進んでいます。家計の事情で高校生の時からアルバイトをしたり、奨学金を利用する学生もたくさんいます。

アルバイトをしながら、「社畜魂」を刷り込まれている学生もいます。上司や店長、客の言うことに従うのは当たり前。勉強は苦手だけれどアルバイト先は「成長させてくれる」という学生もいます。社会や会社に対して怒るより、素直で従順な若年労働者が増産されているようにも感じます。

メディアが「『Z世代』が声を上げた」というのも半分以上がうそです。社会的な活動をしている若者はごく一部に限られています。若者は多様だという前提を押さえないといけません。

悪い刷り込み

若者に労働組合運動を伝えるにはどうしたらいいでしょうか。

アルバイト先での不条理に気付くにはワークルール教育が必要です。これを知らなければ、問題に気付くこともできません。講義で基本的なワークルールを教えると、「高校1年生の時からの常識が間違っていた」と感謝されます。「サービス残業は当然だ」などとアルバイト先の大人から、都合よく刷り込まれているのだと感じます。

就職活動になってもそれは変わりません。学部のキャリア委員長として学生には日ごろから「内定承諾書」には拘束力がないという話を繰り返ししていますが、それでも会社の言うことを真に受けてしまう学生は少なくありません。

悪い刷り込みをする大人にだまされないように、労働組合などが正しいワークルールを発信する必要があります。

ルールや環境は変えられる

一方、最近の学生を見ていると、いわゆる「ブラック企業」に非常に敏感で、業界研究のつもりが、「ブラック企業」研究ばかりしています。これは10年以上にわたる社会運動の成果の一つではありますが、教員としては、働くことの喜びにも目を向けてもらいたいところです。

こうした傾向から感じるのは、若者たちが「会社や社会に完成品を求めている」ということです。いくら下調べをして入社しても、事業環境が変化して労働条件が悪化することは起こり得ます。完成品を手に入れたつもりでも、その状態が維持されることの方がまれなのです。

むしろ大切なのは、「会社も社会も変えられる」という考え方だと思います。労働という行為が多くの人と組織がかかわる組織的、社会的行為である限り、環境は常に変化します。完璧と思えないような会社に入ったとしても、ルールや環境は変えることができる。そう思うことが大事です。大人たちは、若者にこうした価値観こそ伝えていかなければいけません。

「会社も社会も変えられる」。この価値観を育てるためには、労働組合が実際に会社や社会を変えてきた体験を若者に伝えることが大切です。例えば、労働組合が職場の働き方をどう変えてきたのか、どんな権利を勝ち取ってきたのか。労働組合が団体交渉などで職場の問題を解決してきたという、その事実を若手社員と共有することがとても重要だと思います。

若者たちは、労働組合が自分たちの味方なのか、自分たちの問題を解決してくれる組織かどうかを見ています。労働組合が、若者たちから味方だと思われるためには、若手の意見をまずは受け止める必要があります。私がある労働組合の学習会で講演したときのこと、20代のエンジニアが「高度プロフェッショナル制度は結構いい制度だと思います」と発言して、会場の空気を凍てつかせました。でも、労働組合はそういう声に対して説教するのではなく、まずは受け止めて、なぜそう思うか、そう思わせる職場の要因は何かを探る必要があります。若手組合員の感覚にアンテナを立てておくべきでしょう。

若者が企業に求めるものも変化しています。金銭的な報酬や名声だけではなく、ワーク・ライフ・バランスや環境、ジェンダー平等など社会的な課題に企業が取り組んでいるかを重視する若者が増えています。労働組合が、若者たちが望む職場環境づくりにかかわれるのかどうかも問われています。

労組に必要な翻訳力

最近の若者に「団結」とか「連帯」などと連発すれば、左翼用語だと受け取られ確かに引いてしまうでしょう。でも、若者たちは「推し活」では、ハッシュタグで「連帯」しています。労働組合は、そういうノリで若者とつながれるものを生み出せるといいと思います。

若者に労働組合の必要性を伝えるためには、社会問題を個人の問題に置き換える翻訳力が求められます。例えば、賃金に関して言えば、成果が問われる賃金制度が広がる中で、給料が上がるかどうかが競争の論理にすり替えられています。競争で分配される要素とベースアップで社会全体の賃金を上げていくことは別の要素であり、切り分けて考えないといけません。いい評価を取れば自分の賃金は上がるというだけではなく、労働組合がなぜ春闘に取り組んで賃上げを訴えるのか、きちんと説明できるようにしなければいけません。

メディアでは、働きやすさを売りにした新興企業がもてはやされる傾向がありますが、働く人にとっては危険な側面もあります。そうした企業が働きやすさを売りにするのは、離職防止や企業のネームバリュー向上のためで、労働者の権利がきちんと反映されていない場合もあります。その意味では、安倍政権の「働き方改革」に似て、労働組合の活動が経営者に侵食されています。

最近では新卒でも年収1000万円クラスで採用するという企業も出てきていますが、きつい働き方でも1000万円しかないとも言えます。その一方では、その他大勢の普通の人たちが非常に安売りされている現実があります。競争社会のうそに気付く必要もあります。

このように若者たちに労働組合運動の必要性を伝えるためには、一見自分には関係なさそうな問題でも、巡り巡って自分たちの問題になる。そのように社会の問題を個人の視点にきちんと置き換える翻訳力が必要になると思います。

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