若者と労働組合
労働組合の意義を伝えるには?「批判嫌い」の「ソーシャルメディア・ネイティブ」
「Z世代」の政治・社会意識をどう読み解くか
──若者の社会問題に対する意識をどう見ていますか?
大学進学層は、社会問題に一定の関心を持っています。関心を向けるのは自分に関連することが中心です。例えば、経済問題は自分の就職活動にも影響するため比較的関心が高いですが、政治にはあまり興味がありません。
ジェンダー平等に関する意識は男女ともに親世代より高くなっていますが、男性より女性の方が意識は高いです。
格差や貧困問題に対しては、自分が経済的な困難を経験していれば関心が高くなりますが、比較的恵まれた環境で育った層では高いわけではありません。
大学非進学層にインタビュー調査をすると、自分の周囲のことに関心はあるのですが、社会問題に対する意識はあまりありません。先行研究でも大学に進学しない20歳前後の若者は、今を楽しめればいいという「現在志向」が強いという結果が示されています。平日は低賃金・長時間労働で働く一方で週末は思いっきり遊ぶ。社会問題に関心を持つほど、自分の生活や気持ちに余裕がないとも言えます。
そうした厳しい労働環境は、社会問題に必ずしも結び付くわけではありません。自分が行動を起こして解決できるとは思わなかったり、諦めて受け入れてしまったりすることの方が多いです。自分が何かをしても変わらないという声を、多くの若者から聞きます。
──「Z世代」の社会運動が盛り上がっているという話も聞きますが。
日本の場合、運動に取り組んでいるのはごく一部の層にとどまっており、一般的な層に運動が広がっているわけではありません。取り上げられるケースも、東大や慶応、早稲田のような高学歴層の人が多く、その活動がメディアにフォーカスされることで大きな声のように聞こえるという側面もあります。
そうではない若者は、新聞やテレビのニュースを見ていないので、政治のニュースを見ても、与党と野党の政策の違いがわかりません。どの政党も同じように見えるので、ジェンダー平等や環境問題に関心のある子でも自民党に投票したという話を聞きます。知っている政党じゃないと投票しにくい、と。その点、自民党は若者の目に触れる場所での情報発信にたけています。
ジェンダー平等や家族の問題に対する若者の意識は、野党の考えに近いので、接点をどう増やすかが問われていると思います。
──労働組合のような集団行動に参加することへの忌避感はあるのでしょうか。
現在20歳前後の大学生は、かつての左翼運動もオウム真理教事件もよく知りません。労働組合に対する色眼鏡もありません。忌避感よりもまずは知らないことがあるのではないでしょうか。
それよりも今の若者は、「批判」がとても嫌いです。今の若年層は、「ソーシャルメディア・ネイティブ」です。小中高生のうちからSNSで友達などとつながっています。ツイッターでフォローするのは、現実の知り合いや「推し活」でつながる人たちで、基本的に仲間内のコミュニケーションです。その中で誰かを批判するようなことをしません。目立つことを避けるし、相手を傷つけないようにとても気を使っています。
表のアカウントでは公共的なイシューについて議論しないし、そこで実名で他人を批判するような人は敬遠されます。政治の話をするのは変わった人。思想のある人は避けたほうがいいという感覚を持つ若者もいます。
ただ、その中で、本当に気を許せる仲間とは裏アカウントでつながっていて、そこで不満や悪口を言ったりします。就職後も会社や上司に対する不満や悪口は言います。
授業をしていると労働に対する関心はとても高いです。就職活動やワーク・ライフ・バランスのことはとても気にしますし、若者を使い捨てるような企業には入りたくない。働くことを切り口にすれば、工夫次第で若者の参加も増えるのではないでしょうか。オンラインなどを活用して参加のハードルを下げるといいと思います。
──どのように接するのが良いでしょうか。
SNSの傾向もそうですが、今の若者は、年齢や育った環境など、バックグラウンドが自分と似た同質性の高い人とつながって、狭い範囲で信頼関係を築く傾向があると指摘されています。そのため、バックグラウンドが異なる人との交流への心理的ハードルが高い。
ただ、一方で親とは仲がいい。上司と部下、先輩と後輩という上下関係より、例えば、親と一緒に「推し活」するようなタイプのフラットな関係をつくれればいいのではないでしょうか。
とはいえ、踏み込みすぎれば嫌がられます。相手を尊重しつつ、威張らない感じで接するのがいいと思います。
今の若者は、友達同士でも相手に踏み込みません。クラスやゼミが一緒でも、相手の就職先を知らないこともよくあります。ソーシャルメディアで見せたい自分は見せているので、そこで見せていないものはあえて聞かないほうがいい、下手に聞いて相手を傷つけたくないというのがその理由です。
年上の年代からすると今の若者に呼び掛けても手応えがないし、反応が薄い、と感じるかもしれません。でも、若者の人間関係のつくり方に合わせれば相手も乗ってきます。つながることは好きだからです。
若者に限らずですが、人が自己開示をするのは信頼した相手です。まずは信頼してもらうことが大切です。それが、組合活動や政治活動への理解を促すことにもつながるのではないでしょうか。