若者と労働組合
労働組合の意義を伝えるには?若手とどう接したらいいかわからない?
世代間ギャップを埋めるコミュニケーション術とは
アサーティブジャパン代表理事
コミュニケーションの失敗談
コロナ禍で、新入社員とのコミュニケーションが難しくなったという企業が増えています。懇親会はもちろんのこと、ちょっとした声掛けをすることも減ってしまいました。世代間ギャップという課題がもともとあった上にコロナ禍という新たな課題が加わりました。
若手とのコミュニケーションに関する企業の失敗談を聞いていると、大きく二つのタイプに分類できます。
一つは、「自分の若い頃はこうだった」というように、自分の経験を相手に押し付けてしまうタイプです。時代の変化が速くなり、それまでの経験が必ずしも通用しなくなっています。自分が経験したから相手もわかると思ってしまうと、すれ違いが起こります。
「言えばわかる」「見ればわかる」と考えてしまうのは、飲み会や雑談を含めて会社にどっぷりつかった人間関係が前提になっていました。そういう関係性が希薄になっている現状では、その考えは通用しないと思っておくべきです。
もう一つは、ハラスメントを恐れるあまり注意できない、一歩踏み込んだ人間関係をつくれないというタイプの失敗です。仕事をする上で伝えるべきことがあるのにもかかわらず、言ったら萎縮するんじゃないかとか、傷つけるんじゃないかと腫れ物に触れるようになってしまったり、また、言うべきことを言えなかったり、先回りして自分が仕事を引き受けてしまう、というケースも少なくありません。こうしたコミュニケーションでは、表面的には仲の良い関係をつくれるものの、一歩踏み込んだ関係性にはなれません。特に30代までの世代にこうした傾向がみられます。
技術系の人によく見られる例としては、「正しいことを言っているのになぜか相手に伝わらない」と悩むケースです。確かに言っていることは正しいのですが、価値観や利害の異なる相手とぶつかった時にうまく対処できない。むしろ、「自分は正しいことを言っているのに、なぜ伝わらないのか」といらいらを募らせてしまい、攻撃的な言い方になって関係をこじらせてしまう。これは、自分が正しいという立場を捨てられず、相手に対する想像力が欠如した結果起こります。ロジックを振りかざすだけでは、必ずしも対立を乗り越えることはできません。お互いの状況を理解し協力しようという姿勢がないと、コミュニケーションはうまくいかなくなるのです。
若手に思いを伝える
そこで活用できるのが、「アサーティブ」という手法です。「アサーティブ」とは、自分も相手も尊重した自己主張・自己表現の方法です。表面的な関係性や一方的な物言いではなく、信頼関係を作る際に活用できます。
例えば、相談してこない若手に困っている、という悩みがあるとします。仕事を抱え込んでしまって、結果的に遅れにつながってしまう。そんなときにどのように対処できるでしょうか。
単に叱るだけや、ねちねち言うだけでは、ますます相談されなくなってしまいます。一方、若手の仕事を自分が引き受けるだけでは問題の根本的な解決につながりません。
ここでは、信頼関係を築くという目に見えない問題を解決する必要があります。まず、若手社員が相談しない結果、仕事が遅れてしまうという問題は、きちんと伝える必要があります。ただし、そこで「相談しないあなたが悪い」ではなく、起きている事実にフォーカスをして伝えることが大切です。そして、相談がないことを心配しているという自分の思いを伝え、なぜ相談が難しいのか、相手の言い分を聞く。本人の良いところはきちんと評価してあげる。そういうコミュニケーションが求められます。
大切なのは、これからも話し合いができる関係性がつくれるかどうかです。人間関係は1回切りだけではなくて、継続して続くものです。特に職場の人間関係とはそういうものです。信頼関係は一夜にして生まれません。職場の心理的安全性を高めることは、企業の発展につながります。
自分から信頼の種をまく
若手社員も、先輩と良い関係を築きたいし、相談したいと思っています。会社に入ったからには、その中で成長を後押ししてもらいたいし、会社に必要な人材だと思ってもらいたいと考えています。そうした気持ちに応えることが大切ですが、その方法はかつてと同じではありません。
さらには、リモートワークが普及し、関係性の希薄化も心配されています。そうした中では、1回のコミュニケーションの質を上げていく必要があります。1回の仕事のやり取りの中にも、感謝やねぎらいの言葉を含めていくような工夫が求められます。
日常の関係性の中に信頼の種をまき、関係性を作っておけば、何か問題が生じたときに一緒に問題を解決することができます。だからこそ、日ごろから信頼関係を作っていくことが大切なのです。
労組役員に求められる力とは?
労働組合の役員の皆さんには、若手社員が「自分もこの職場にいていいんだ」と思えるような相談相手になってほしいと思います。
これまでの労働組合役員に求められる資質は、「正しい答えを持っている自分」が相手を説得する能力、だったかもしれません。これから大切なのは、相談される存在や信頼される力ではないでしょうか。答えのない中で、話に耳を傾け、一緒に解決策を考えてくれようとする、そんな頼りになる存在になること。この人と一緒に仕事をしたいと思える信頼される力が求められていると思います。