若者と労働組合
労働組合の意義を伝えるには?「ルールは話し合って変えられる」
若者にワークルール教育を学んでもらう意義
日本労働弁護団事務局次長
ワークルール教育が少ない現状
日本労働弁護団が行うワークルール教育は、働く人の権利を知ってもらうだけではなく、その権利の行使や実現までを含めて学ぶことを想定したものです。
実際、そこまでの学習機会があるのは、ワークルール教育に熱心な教員に出会った生徒に限られていて、大半の若者がワークルール教育を受けられていないと思います。ワークルール教育の実施状況に関する国や自治体の十分な調査がないことがまず問題ですが、連合の「20代のワークルールに関する意識・認識調査」(2018年)によると、「これまでに、働くときに必要な法律や決まりごとについて学習する機会があった」と答えた人は35.9%しかおらず、ワークルール教育の機会が乏しいことが示されています。
働く人がワークルールを知らなければ、権利が侵害されていることもわかりません。また、おかしいと思うことがあっても、解決のための知識がなければ、行動に結び付けることも難しくなります。働いている人(就業者)のうち約9割を雇用労働者が占める日本において、若者が社会に出る前にワークルールを学ぶ機会がないことは非常に問題です。
使用者にとってのワークルール
ワークルールを守ることは、働く人にとってだけではなく、使用者にとっても重要です。
まず、基本的なワークルールが守られないような職場では退職者が増え、使用者は後継者に知識や技能を伝承できません。日弁連も「ワークルール教育推進法(仮称)の制定を求める意見書」の中で、ワークルールが守られなければ、「次世代を担う労働力の再生産が困難となり,後継者への知識・技術の伝承を断絶させ、ひいては経済の健全な発展や持続可能な社会の形成も阻害することになる」と指摘しています。
また、ワークルールを守らない使用者がいることは、使用者間の公正な競争も阻害することになります。例えば、労基法に反して残業代を支払わない企業が製品を安売りしているようでは、労基法を守る他の企業が不利になりかねず、フェアな競争とは言えません。
さらには、使用者がワークルールを知らないことで無用な労使紛争が生じることもあり、健全な労使関係の構築を妨げてしまいます。
このように企業が健全に発展するためにも、使用者もワークルールを学ぶ必要があります。
過度な自己責任論
ワークルール教育を行っていると、過度な自己責任論が、高校生や大学生に浸透していると感じます。
例えば、職場で物を壊してしまったとか、ミスをしたという場合に、損害賠償を全額しないといけない、クビも仕方ないという答えがかなり出てきます。契約書に書いてあったらそれがすべてだと思っていた、という答えもあります。
そこで、私から使用者の損害賠償請求や解雇には制限があることや、契約書に書いてあっても労働基準法に違反する内容の契約は認められないという話をすると、生徒・学生たちは驚いています。
また、私が行っているワークルール教育では、問題解決のための対処方法を学ぶために、権利を実現するには実際にどのように行動するかを生徒・学生に考えてもらいます。
すると、行政に相談する、裁判で訴えるという意見の他に、同僚や仲間と一緒に交渉するという意見も出てきます。
仲間と協力することについては、私から労働組合について話をし、労働組合が憲法や法律で認められている団体であるという知識のみならず、労働組合が問題を解決した実例を紹介しています。問題解決の方法と労働組合を結び付けて学んでもらうことが重要です。
学校教育で、人に迷惑を掛けてはいけないことや、ルールを守ることが強調されているのに対し、ワークルール教育では、理不尽なことに対して仲間と一緒に行動をしたり、仲間と一緒に話し合ってルールを変えていく選択肢があることを示すことが大事だと思っています。
労働組合への期待
ワークルール教育を広げていくためには、「ワークルール教育推進法」を早期に成立させ、国や地方公共団体の責務を明確にし、境遇にかかわらず全員がワークルール教育を受けられる環境を整備することが必要です。
労働組合もワークルール教育を推進する主体として大きな役割が期待されます。労働組合が職場の環境を改善している姿を見せたり、一緒に取り組んだりすることは最良のワークルール教育です。労働法上の権利などの学習の機会を積極的につくる役割も果たしてほしいと思います。
残念ながら、労働組合は若者にそれほど認知されていないと感じています。労働組合という単語を知っている生徒もいますが、何をする団体か知らない生徒がほとんどです。SNSなどをはじめ、積極的に若者との接点を作ってほしいと思います。そのために組合員以外の一般向けの学習会を企画することも一つの方法ですし、組合員が親子で参加できる学習会があってもいいかもしれません。
労働環境を自分たちで変えていけるという考えを持てなければ、労働組合に加入したいと思うことも難しいのではないでしょうか。過度な自己責任論に若者が固まってしまう前に、ワークルール教育を行い、契約内容やルールは変えられるし、自分たちで決めていけるという発想を持ってもらうことが大切だと思います。