常見陽平のはたらく道2023.01-02

新年に始めること
やめることを考える

2023/01/18
2023年を「気持ちよく」生き抜くために、何が必要だろうか。年の初めに考えてみよう。

2023年が始まった。穏やかな年になることを祈っている。新年なので、労働問題からはやや離れ、気持ちよく生きる、働くための一工夫を徒然なるままに考えてみる。

新春を迎え、意識高く、何かを始めたい気分になっているかもしれない。ただ、何かを「やめる」ことも立派な挑戦ではないか。ここ数年でさまざまなことをやめてきた。酒、年賀状、ノートPCを持ち歩くこと、財布を使うこと、紙の手帳、圧迫感がある家具、1日8時間以上の労働、上司や同僚に遠慮することをやめた。年末といえば、大掃除だが、「やること」の「整理」に取り組んだ。おかげさまで、身も心もスッキリした。「やらないことを決める」これぞ「働き方改革」ではないか。

逆にここ数年で始めたことと言えば、エレキギター、ジェンダーレスファッション、ピンクなど明るめのヘアカラー、睡眠時間と質の計測、週1のペースでライブハウスに行くことである。教育者としても、一児の父としても、何かを始めることには意義がある。特にエレキギターは完全に趣味なようで、何かを諦めずに学ぶためのポイントがわかった。同時に自分の教え方も変化していった。勉強が得意ではない人、あまり好きではない人が、置いてきぼりにならない教え方を考えるようになった。

やや趣味の話に走るが、かっこいいギターソロを弾けるようになりたいという想いは強い動機になる。その前に、簡単なコードをジャカジャカと弾くという楽しみを大事にした。これを講義でも活かした。とにかく、最初の敷居を下げる、勉強する楽しみを大切にした。教室の雰囲気が変わり、活気に満ちたものとなった。同時に、今まで勉強熱心な学生を前提とした講義をしていたのではないかと猛反省した。

ジェンダーレスファッション、明るめのヘアカラーについては、「多様性」が叫ばれる世の中でありつつも、現実は厳しいことを理解した。「何、あれ?」という視線を感じつつ、今日も生きている。とはいえ、一歩踏み出してみて、自分の中で何かが変わった。

ここ数年でやめたこと、始めたことは、すべて気持ちよく生きるためのチャレンジだった。誰のためでもなく自分のためなのだが、気づけば世のため人のためになっている、と信じたい。

新年を迎え「英語を学びたい」「コーチングスキルを身に着けたい」など、気持ちが高まっている人もいることだろう。さらには「副業」などを考える人もいるかもしれない。どんどんやればいい。ただ、それは、あなたが本当にやりたいことなのか、なりたい自分につながることなのかを冷静に考えたい。「世のため、人のため」は美談だが、いつの間にか会社のためになっていないか。それも否定はしないが、自分はどれだけ気持ちよくなれたのだろう? 最近の「リスキリング」論などは、その危うさを感じる。

気持ちよく生きる。これもまた労働者の権利だ。新年を迎えた今こそ主張しよう。ゆるくエッセイを書こうと思ったのに、結局、労働問題の話をしている私は、もはや職業病で、そんな人が言っても何の説得力もないかもしれないのだけど。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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