災害と雇用・労働・ICT
働く人への影響を考える災害後に労働組合が取るべき行動は?
東日本大震災の経験から学ぶ
災害時の初動対応
近年、自然災害が広域化・激甚化しており、危機管理が必要な事象が発生しています。特に地震などの突発的な自然災害の発生時に混乱や通信の輻輳はつきものですが、これらを極力回避するためにも、日常的に防災・減災を意識した取り組みが重要です。
まず必要なことは、災害の発生状況や被害状況を把握し、組合員・退職者・家族の安否確認内容を把握し、組合員の安否確認・被害状況に努めることです。
東日本大震災時、情報労連はNTT労組と連携し、発災直後の15時30分には「災害対策本部」を設置し、組合員・退職者・家族の安否確認と被災状況の把握に全力を挙げることとしました。
しかし、被災現地では、停電により本部との連絡も取れない状況だったため、自分たちが今できることをやろうということで、2008年に発生した岩手・宮城内陸地震を教訓に、組合員・退職者の安否確認と被害状況の把握に取り組みました。
とはいえ、組合員・社員は当面自宅待機、電話も不通の状態だったため、会社側と連携し被災状況の把握に努めるとともに、安否確認を進めることにしました。会社側は安否確認システムにおいて取り組んでいるものの、連絡が取れない組合員・社員もいるとのこと。労働組合として、連絡が取れない組合員・社員の確認に取り組むこととしました。携帯電話の電池切れなどで、会社からの連絡メールが届いていない可能性があり、翌日出社してくることも想定し、すべてのビルの入り口に役員を配置し、安否確認・被災状況の聞き取りを行うとともに、会社からの連絡事項を伝達するなどし、数日後には、現職組合員の安否確認については終了することができました。
しかし、退職者の安否確認には時間を要することとなりました。退職者の会の各地区協の方々に尽力いただいたものの、被害が大きかった地域では、なかなか安否確認が進まなかったため、往復はがきを発送し、返送のない方には、直接訪問や近隣の避難所を回り呼びかけを行うなどできる限りの対応を行いました。
状況を的確に把握することは、「今何をすべきなのか」「今後どのような対応が必要になるのか」を想定することができますし、復旧・復興に向けた被災者ニーズの把握にもつながることから、迅速な初動対応が極めて重要な取り組みであると認識します。
災害時には、役員自身も被災します。組織として限られた役員で対応せざるを得ない場合も想定し、労働組合としての機能・役割を最低限発揮するための備えや、初動対応として重要な「組合員・退職者・家族の安否・被災状況等の把握」を迅速に進めるための危機管理体制を、日頃から整えておきましょう。
被災者支援、組合員のケア
安否確認と並行して、全国各地の仲間から、支援物資も届くようになりました。これら支援物資については、発災直後から、通信設備・通信サービスの復旧に向け、全国各地から被災地に駆け付けていただいた組合員・社員に対して提供するとともに、避難生活を余儀なくされた組合員・社員へ配布を行いました。
また、被災者相談ダイヤルの設置や、緊急的な生活資金の支援、電通共済生協等の特別措置などを中央本部に要請し、被災者支援に取り組みました。
被災地の状況は一刻一刻変化します。被災者支援にあたっては、状況変化を的確に把握し、現地ニーズを踏まえた対応が不可欠となります。この点、東日本大震災にあたっては、情報収集センターを設置したことにより、情報労連・NTT労組、さらには情報労連中央本部と被災現地の連携が図られ、情報の一元化により、現地ニーズを的確に把握することができたものと認識します。
会社対応
発災直後から、全国の組合員・社員が被災地入りするとともに、被災地の組合員・社員も、自らが被災し、極めて過酷な状況の中、昼夜を問わぬ懸命な努力を続け、通信設備・通信サービスの復旧に向けて尽力していただきました。
被害状況を踏まえれば、復旧作業には多くの時間を要することが想定できたことから、全国各地からいただいた支援物資の提供を行うとともに、健康管理と安全労働を最優先として労基法第33条適用へ対応するなど、復旧作業における環境整備に取り組んできました。
また、被災した組合員に対する社宅の提供を要請するなど、会社側と連携しつつ被災者支援にも取り組みました。
災害時においては、労使で復旧に向けた認識をしっかりと合わせ、それぞれの役割のもとで取り組んでいくことが、通信設備・通信サービスの早期復旧、事業再開につながるものと認識します。
災害時における労働組合の役割
災害による被害を最小限に抑えるためには、一人ひとりが自ら取り組む「自助」、地域で助け合って取り組む「共助」、行政が取り組む「公助」の三つの「助」が必要となります。一般的に災害時の助けとなる割合は、自助=70%、共助=20%、公助=10%といわれており、災害の規模が大きくなればなるほど、「公助」が届くまでには時間が必要となり、「自助」と「共助」の重要性が高まります。
「自助」の観点でいえば、万が一に備えて、日頃から家具の転倒防止対策等、家の中・周りの安全点検やライフラインがストップすることも想定し、非常用持出品・備蓄品の準備が不可欠です。また、災害はいつ来るかわからないので、家族と非常時の連絡方法についても話し合っておくべきだと思います。
そして、「共助」については、地域コミュニティーの重要性はもちろんですが、労働組合が果たす役割は非常に大きいと考えます。私たち労働組合の役割は「助け合い」であり、組合員はもちろんのこと、被災地・被災者に寄り添った活動を展開することで社会的役割の発揮につながります。東日本大震災において、復旧作業に従事する役職員、被災した組合員は、先の見えない中、心が折れそうになっていましたが、全国の仲間からの激励、緊急支援カンパや被災地ボランティアなど、労働組合のスケールメリットを生かした「共助」の取り組みは、被災地の支えとなりました。
能登半島地震の被災地では、今なお復旧作業が続けられています。被災地の復旧・復興には多くの時間が必要となります。少しでも早く復旧・復興できるよう、私たちがその時々でできることを取り組むことが不可欠です。全国の仲間が想いを一つに、被災地に寄り添った息の長い取り組みを行っていきましょう。