特集2024.03

災害と雇用・労働・ICT
働く人への影響を考える
災害時のSNS活用とフェイクニュース
情報通信企業に求められることは?

2024/03/13
SNSは災害時において避難情報や支援情報を得るための有益なツールだが、一方でフェイクニュースや救助要請が大量にコピーされるという問題も浮かび上がってきた。情報通信企業に求められることはあるだろうか。
藤代 裕之 法政大学教授

フェイクニュースとSNS

フェイクニュースや陰謀論は、世間の注目が集まる話題で広がりやすいです。例えばアメリカでは政治がそうした話題の一つです。他方、日本ではフェイクニュースが災害に結び付けられることが多いです。例えば、動物園からライオンが逃げ出したとか、石油タンクが爆発したとか、最近では生成AIを使った偽画像が出回ったこともありました。フェイクニュースが発生しやすい条件としては、重要なテーマなのに情報がはっきりしないとか、わかりにくいとか、不安定とか、そうしたことが挙げられます。

SNSの特徴は、見ている情報が人によって異なることです。人によってフォローする情報が異なるため、見る情報がばらばらになります。その上、情報を管理するプラットフォーム事業者がビッグデータを活用してその人におすすめの情報を提供するため、「フィルターバブル」や「エコーチェンバー」のような現象が起こりやすくなっています。欧米では、ソーシャルメディアのこうした特徴が、党派性の分断を促し、論争を過激にさせていると指摘されています。

一方、日本ではこうした指摘はあまりされてきませんでした。というのはマス・メディアが欧米に比べて強かったことがあります。アメリカには日本のような全国紙やいわゆる「キー局」はなく、多くの人がソーシャルメディアから情報を入手しています。ヨーロッパでは、社会階層によって接するメディアが異なります。一方、日本は多くの人が主要なマス・メディアから情報を入手してきたことから党派性の分断が比較的抑えられてきたといわれています。

しかし、こうした環境は変わりつつあります。マス・メディアから情報を取得する人が少なくなり、インターネットを経由したソーシャルメディアから情報を得る人が増えているからです。そのことが日本でも党派性の分断を助長している側面があります。情報を入手する方法がマス・メディアからソーシャルメディアに変化することで社会も変わりつつあるということです。

「インプ稼ぎ」の弊害

災害時のSNS活用に注目が集まったのは東日本大震災の時でした。当時、黎明期だったツイッターが、マス・メディアではカバーしきれない避難や支援に関する生活情報を得るためのツールとして活用されたことで、災害時のSNSの活用が注目されるようになりました。その後も熊本地震では市長や行政が被害状況などをツイッターで発信したことでその有益性が認識されるようになりました。

しかし、今回の能登半島地震では変化がありました。私が熊本地震や西日本豪雨の災害に関するツイートを分析したところ、救助などを求める発信の多くは発信元にたどりつくことができ、実際の救助や支援に結び付けることができるものでした。ところが、今回の能登半島地震ではまったく異なる現象がみられました。つまり、大量のコピー情報が出回って、同じ投稿がいたるところから何度も繰り返されるということが起こりました。そればかりかフェイクニュースも大量にコピーされ、拡散されました。これではどれが本当に助けを求めている情報なのかがわかりません。大量のコピー情報やフェイクニュースが情報源を汚染してしまいました。

この背景には、いわゆる「インプ稼ぎ」(インプレッション稼ぎ)という現象があります。X(旧ツイッター)が投稿の閲覧回数(インプレッション)に応じて収入を得られるようにしたことで、インプレッションを稼ぐために大量のコピーが出回るようになってしまいました。今回の能登半島地震では、その弊害がもろに出たといえるでしょう。

信頼できる情報への誘導

こうした問題にどのように対応できるでしょうか。

大切なのは、フェイクニュースを減らすというよりも、信頼できる情報をどう広げられるかです。フェイクニュース対策はそれを減らす方向に目が向けられがちですが、発信自体を減らすのはとても困難です。なおかつ個人がフェイクニュースに惑わされず情報を選ぼうとしても、大量の不確実な投稿から正しい情報を常に見分けるのは困難です。

そのため、信頼できる情報をより広く、途切れることなく伝える方向に対策を転換することが大切だと考えています。

具体的には、ニュースをつくるメディアとニュースを流通させる情報通信事業者が協力して災害情報プラットフォームを一緒につくるようなイメージです。情報通信事業者にとって情報の中身をチェックするのは通信の秘密の関係から難しいでしょう。しかし、テレビや新聞などのマス・メディアなどの組織が取材や確認をした信頼できる情報を届けるということなら役割を発揮できるはずです。災害時に信頼できる情報をどのように伝えていくのか、メディア側だけではなく、情報を流通させる情報通信企業にも一緒になって考えてほしいと思います。例えば、チェックされた情報が集約されて、発信される仕組みを情報通信事業者が用意するということも考えられます。

情報通信企業とメディア企業の連携

今後は、情報通信企業とメディア企業の連携が重要になると思います。これまで、情報通信事業者は、情報を流通させるインフラを構築するのが仕事で、そのインフラでどのような情報が流通しているのかに関心をあまり持ってきませんでした。これがインターネット上における情報発信の気軽さにつながり、フェイクニュースや「インプ稼ぎ」が横行する原因の一つになっていると思います。

一方、メディア企業はコンテンツをつくってインフラの上に載せて流せばよいと考えてきたため、互いの連携が不十分だったところがあると思います。どのような情報がインフラの上を流れ、どのように伝わっているのかについて、情報通信側とメディア側が連携することができれば、信頼できる情報が伝わる社会に近づくのではないかと思います。そのためにも情報通信企業とメディア企業が一緒になって訓練したり、研究会を開いたりできればいいと考えています。

他方、より大きな課題としては、SNSのプラットフォーム企業がほとんど国外の企業で占められていることも問題です。国内民間企業による情報プラットフォームの構築は、災害に強い情報インフラのためにも重要だと思います。

企業としては災害時の情報取得や発信の仕方について、従業員に対して事前にルールを設けておくのもいいと思います。企業がSNSのアカウントを運用している場合、災害時は特に複数の担当者で確認し合いながら運用することが重要です。

情報通信企業とメディア企業が連携して、より信頼できる情報を伝えることが災害に強い社会につながります。情報通信企業の皆さんの一歩踏み込んだ取り組みに期待しています。

特集 2024.03災害と雇用・労働・ICT
働く人への影響を考える
トピックス
巻頭言
常見陽平のはたらく道
ビストロパパレシピ
渋谷龍一のドラゴンノート
バックナンバー