特集2025.06

「吉川さおり」の政策浸透へ
組織内外から応援メッセージ
重要性高まるSNS選挙
負の側面にどう向き合うべきか

2025/06/13
SNSを投票の参考にする有権者が増え、政治家も発信を強化するなどSNS選挙の重要性が高まっている。一方、フェイクニュースや誹謗中傷など負の側面も指摘されている。規制はどうあるべきか、有権者はどう行動できるのか。
有権者のリテラシーも問われる(写真:sayu/PIXTA)
藤代 裕之 法政大学教授

──有権者とSNSの関係はどのように変化しているのでしょうか。

昨年11月の兵庫県知事選挙が大きなターニングポイントになりました。NHKの出口調査によると、投票の際に最も参考にした情報源として「SNSや動画サイト」と答えた人が30%に上り、「テレビ」や「新聞」(いずれも24%)と答えた人を上回りました。これは大きな変化だといえます。

2013年にインターネットを用いた選挙運動が解禁された当時、SNSは票にならないといわれていました。しかし今では多くの有権者がSNSの情報を参考にしているため、政治家も対応せざるを得ません。近年は「X」や「YouTube」などで発信する政治家が増え、政治家自身のフォロワー数も多くなりました。SNSの利用拡大と政治家の発信増加が掛け合って、情報がさらに拡散するというスパイラルが生まれています。SNSは、街頭と同じように、政治家が自分の存在を知ってもらうための主戦場の一つになっています。

この背景には、アルゴリズムの変化もかかわっています。従来のSNSはフォローしている人の投稿がタイムラインに表示されるのが基本でしたが、最近ではフォローしていない人の投稿であっても、「バズった」投稿であれば広く表示されるようになっています。

その結果、情報のつながり方も変化しています。これまでのSNSでは、自分と似た考えばかりが表示される「フィルターバブル」が課題でしたが、「バズった」投稿が優先的に表示されるようになった結果、そこから関連した情報へとつながり、それが入り口となって新たなフィルターバブルが生まれるという動きが見られるようになりました。

こうした状況で強い影響力を持つのが、「バズる」投稿を発信できるインフルエンサーです。こうした人は、情報の入り口としての機能を発揮しています。

──フェイクニュースや誹謗中傷など、SNS選挙の負の側面も指摘されています。

インターネット選挙運動は「票にならない」と見られていたため、その規制は解禁後もあまり真剣に議論されてきませんでした。そのため規制の網をくぐって制度を「ハッキング」するような動きが生まれました。

一番の問題は、選挙を金もうけの道具として利用する手法が拡大したことです。人びとの注目が集まりやすい選挙というイベントを利用して、フォロワーの獲得や金もうけに利用する動きが広がったことが最大の問題です。

そもそもインターネット選挙運動が解禁されたのは、選挙にかかる金銭的な負担を減らしてお金のない人でも選挙に参加しやすくするためでした。しかし今では、選挙でバズれば金もうけができるようになってしまったため、選挙とは関係のない過激な主張やポスターが横行するようになりました。当選を目的とせず、自身のSNSの宣伝を目的としている人にとって、公費でポスターを掲示できたり、政見放送に出たりできるのは、これ以上ない宣伝システムです。選挙制度が金もうけのためにハッキングされてしまったことが大きな問題です。

──どのように対応できるのでしょうか?

相手の主張を厳しく批判したり、落選運動を展開したりすることはこれまでの政治活動にもありました。政治的な主張自体を規制することは、表現の自由の観点からも困難です。

そのため、選挙制度のハッキングを防ぐためには、選挙を金もうけの手段として利用させないことが重要になります。具体的には、広告のあり方を見直すことです。現在は、誹謗中傷やフェイクニュースを含む投稿であっても広告がついてしまうため、それが金もうけの手段になっています。そうした投稿に広告がつかないようにプラットフォーム事業者が考査をしたり、広告会社がそうした投稿に広告がつかないように抗議したりすることが必要です。また、広告の内容自体も業界として一定のルールを設ける必要があると思います。こうした規制は、テレビや新聞などの既存メディアで従来行われてきたものです。インターネットメディアに適用することはできるはずです。

──有権者として取れる行動は?

重要な情報に関しては、信頼性の高い媒体を選ぶことが大切です。授業での調査ですが、テレビや新聞を普段利用しない大学生でも、選挙の際はそれらを参考にしようとしています。SNSでは伝聞情報ではなく候補者本人の発信を参考にすべきです。

問題は、選挙に関するテレビや新聞からのニュースが少ないことです。既存メディアは、公職選挙法や選挙の公平性に配慮して、選挙期間になると情勢分析を除いて候補者の情報などをほとんど発信しません。これでは有権者は信頼性の高い情報を得ようとしてもインターネットに頼らざるを得ません。

しかし、こうした状況も昨年の兵庫県知事選挙を受けて変化しているようです。既存メディアからのニュースが増えれば、それを活用することが信頼性の高い情報を得る手段の一つになります。

他方、候補者本人の主張を確認するには、選挙公報の活用が有効です。選挙公報は候補者自身が発信した情報であり、その意味で情報に確実性があります。候補者とは意見が異なる場合でも、その主張を一覧的に把握できるところにメリットがあります。

ただそれだけでは比較が難しいので、メディアのファクトチェックをあわせて活用するのが理想的です。ファクトチェックは本来、候補者の公約の実現性や実績をチェックする役割を担っています。有権者はそれによって初めて、候補者の主張の実現性や公約の達成度などを客観的に評価できます。候補者本人の主張を知るための選挙公報と、実現性や実績を検証するファクトチェック。この二つが両輪となって機能すると、選挙は非常に充実したものになります。

──労働組合の情報発信はどうあるべきでしょうか?

労働組合がSNSを自分たちの主張を発信するツールにしようとすると、「アテンション・エコノミー」にのみ込まれてしまうリスクがあります。注目を集めるために発信が過激になることは望ましくありません。そのため、労働組合がSNSを使う場合、社会の意見を広く聞く「ソーシャル・リスニング」の手段として利用した方が良いでしょう。例えば、アジェンダを立てる際に意見を募ったり、労働者が今抱えている疑問や不安を拾い上げたりするなど、意見を聞く手段としてSNSを活用することが有効です。

今のSNSでは、真面目に意見を主張したり、批判に反論しようとしたりするほど、それをやゆしたり、あげつらったりする人たちの“ビジネスの餌”にされるリスクが高まります。だからこそ、SNSでは発信よりも「聞く」ことに徹し、丁寧なコミュニケーションを積み重ねることが大切です。

その点、労働組合は職場集会や機関紙、掲示板など、職場を起点とした情報伝達の手段をすでに持っています。こうした仕組みをあらためて活用し、コミュニケーションの回路を開いていくことが重要です。そうした日々の積み重ねが信頼性の高い情報発信につながり、SNSに負けない情報伝達手段になるのではないでしょうか。

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