「吉川さおり」の政策浸透へ
組織内外から応援メッセージ少数与党の国会で生じた変化とは?
変わった議論の質
生じた「数の力」の効果


変わる国会報道のあり方
昨年10月の衆議院議員選挙で、与党の議席が過半数を割り込みました。それにより国会ではさまざまな変化が起きています。
大きな変化の一つは、政府が提出した予算案の修正です。昨年末に開かれた臨時国会では、補正予算案に立憲民主党の提案が反映され、能登半島地震の復興予算として1000億円が追加されました。この出来事をきっかけに国会の風景が変わったと感じた人もいるはずです。
今年の通常国会でも予算案が修正されました。私が最も印象に残っている出来事は、高額療養費の上限額引き上げの見送りです。政府は、医療費の自己負担額を一定水準に抑える「高額療養費」の負担上限額の引き上げをめざしていましたが、患者団体や野党の反対に遭い、それを見送りました。
政府がいったん提出した引き上げ案を見送った背景には、国会報道の変化があると思います。衆議院が少数与党になったことで予算案を通過させるためには野党から一定の譲歩を引き出す必要が生じました。そのため野党の行動にメディアの注目が集まるようになりました。
野党は、これまでも予算案や政府提出法案に対してさまざまな提案をしてきました。しかし与党多数の状況ではそれらが修正されることはほとんどなく、報道も野党側の動きを大きく取り上げてきませんでした。例外は、政府側に動きがあるときです。例えば、「働き方改革」における国会審議で不適切な統計の扱い方が明らかになり、安倍首相が答弁を撤回した際は、報道が大きく取り上げました。とはいえ、当初注目されたのは国会答弁の撤回であり、裁量労働制の適用拡大や高度プロフェッショナル制度の創設の是非そのものではありませんでした。
それが少数与党になり、与党が野党の動きに一定の譲歩をする必要に迫られると、報道は野党側の動きを積極的に報じるようになりました。政府与党側の反応だけではなく、野党側の提案内容や反対の論拠も報じる。これは大きな変化です。
数の力と世論喚起
報道としては、政府与党が野党側の訴えを聞かざるを得なくなり、そのことで情勢が変わるかもしれないという見込みがあるからこそ報じます。一般の有権者はその報道を見て、政府案の問題点や野党の提案の中身を知ることができます。こうした情報伝達のサイクルができた影響は小さくないと思います。
高額療養費の問題では、患者団体が署名活動をはじめ積極的な運動を展開しました。患者団体は与野党を問わず幅広い議員に呼び掛けを行いました。立憲民主党はそうした声を重要な論点として国会で取り上げ、こうした一連の動きが報じられることで石破首相は、上限額引き上げの見送りを決めました。
こうした動きは、石破首相が野党の説得に応じたというより、国会の数の力が変化したことで報道のあり方が変わり、それが世論喚起につながったことで政府側が譲歩せざるを得なくなった結果だと理解することができます。数の力は報道や世論喚起のあり方を変えるという意味で、大きな力を持つのだと感じました。
少数与党国会のリスク
野党の主張が取り上げられ、議論が深まる点は、国会の力関係が変わって生じた良い変化ですが、野党各党が競合状態にあることで議論が深まらないという問題も生じているように思います。例えば、政権が安定していれば大規模減税や控除の大幅引き上げの提案には注目が集まらないかもしれませんが、少数与党の状況では野党側のそうした政策にも注目が集まります。その結果、一部の野党が短期的な人気取りに走るという問題が起きるのです。特定の野党がキャスティングボートを握りやすくなることで、政党間における機会主義的な動きが強まることが懸念されます。与野党はともに、専門的な知見を生かしながら中長期的な視点を持ちつつ、議論を深めてほしいです。
国会内の議論の質も変化
少数与党になって生じた変化は、予算案や法案の修正だけではありません。国会内の委員会の構成が変わった結果、議論の質が変化したことも見逃せません。
事例の一つは、昨年の臨時国会における予算委員会での審議です。立憲民主党の近藤和也議員が、能登半島地震の仮設住宅の供与期間について質問したときのことです。石破首相がうなずいているのを見て、予算委員会の委員長になった立憲民主党の安住淳議員が、石破首相に答弁を求め、必要であれば仮設住宅の供与期間を延長させるとの発言を引き出しました。この結果、石破首相の答弁が議事録に残りました。踏み越えた判断だったかもしれませんが、委員長ポストが変わったことを象徴する出来事でした。
また、自民党旧安倍派のいわゆる「裏金問題」に関しても、安住委員長は委員会での多数議決によって参考人招致を決めました。参考人招致についてはこれまで全会一致が通例だったものを、議決で決めたのです。
また、政府がきちんと答弁しなかったら速やかに速記を止めて、もう一度答弁させるような議事の進め方も、委員長が変わったことで起きた変化です。委員会における委員長の権限は大きく、委員会の中で審議する法案の順番を決めたり、法案の採決の時期を決めたりすることもできます。さらに委員会の理事会における意思決定でも委員長はさまざまな権限を持っています。このような権限を持つ委員長ポストが野党側に代わっただけでさまざまな変化が起きているのです。
今回の通常国会では、予算委員会のほか、法務委員会でも立憲民主党が委員長ポストを確保しました。一方、与党が手放さなかったのが議院運営委員会の委員長ポストです。この委員会は、どの法案をどの委員会に付託するのかを決める重要な役割を担っているためです。例えば、野党が選択的夫婦別姓の民法改正案を提出しても、それが法務委員会に付託されなければ法案としての審議ができません。ただし議院運営委員会の構成を見ると、委員長は与党が確保しましたが、理事会は野党が過半数を確保しました。そのため野党がどれだけ一致した行動を取れるのかがポイントになります。
変化を感じられる伝え方
このような変化は、一般の人には伝わりづらいかもしれませんが、国会内の力関係の変化を知ることのできる出来事です。報道がこうした変化を丁寧に取り上げれば、有権者も選挙後の変化を感じ取れるようになると思います。
また、報道には野党側の質疑者にも注目してほしいです。これまでのニュースでは、「総理がこう言った」「大臣がこう答えた」といった答弁だけが報じられることが多く、その答弁が誰の質疑によって引き出されたのかはあまり報じられていませんでした。どの党の誰の質疑への答弁だったかを報じてくれると、ニュースを受け取る側としても野党議員の役割を認識することができ、それが支持にもつながっていきます。労働組合としても組織内議員の質疑やその結果を丁寧に発信して、何が変わったのかをわかりやすく伝えられると良いと思います。
与党の議席が過半数を割ったことで国会ではさまざまな変化が生じています。こうした変化を感じ取りやすい報道が増えていけば、有権者の政治に対する見方も変わっていくのではないでしょうか。