特集2025.06

「吉川さおり」の政策浸透へ
組織内外から応援メッセージ
労働組合はポピュリズムの防波堤
「賢い市民」を育成し
健全な民主主義を支える役割担う

2025/06/13
労働組合はなぜ政治活動をするのだろうか。政治システムの中でどのような役割を発揮できるのだろうか。中間団体の縮小と個人化が指摘される中で、労働組合の果たす役割について識者に聞いた。
五野井 郁夫 高千穂大学教授

──労働組合が中間団体として果たす役割とは何でしょうか。

個人が困りごとや問題を抱えたとき、政府や企業に対して一人で立ち向かうことは困難です。そのため労働組合のように個人と企業や政府の中間に位置して、さまざまな意見を調整したり、要求を伝えたりするための中間団体が必要になります。とくに労働組合は、団体交渉をはじめとした権利を憲法で保障されており、労働条件や職場環境を良くするための機能を発揮しています。個人にできることには限界がある現実を踏まえれば、中間団体はどのような社会にも存在します。

労働組合は労働条件の向上だけではなく、社会保障制度などに対する政策提言の機能も持っています。その際も「三人寄れば文殊の知恵」といわれるように、現場のさまざまな意見やアイデアを集め、集合知として発展させることができる組織です。さらには組織同士のヨコの連携や国際交流の役割も担っています。このように労働組合は、中間団体としてさまざまな役割を有しています。

──労働組合の組織率が低下し、中間団体の機能が弱まっています。

労働組合は、戦後直後から高度経済成長期にかけて労働条件の改善や国民生活の質の向上に大きく貢献しました。しかし高度経済成長が終わり、産業構造が製造業からサービス産業へ転換する中で、非正規雇用労働者の組織化が遅れ、組織率が低下してきました。

組織率低下の背景には政治的な背景もあります。中曽根政権下での構造改革の背景には、社会党を支持していた労働組合の力をそぐ狙いがありました。その後も規制緩和の名の下に非正規雇用を使い捨てやすくする法改正が行われました。これらは労働組合の中間団体としての機能を低下させる方向に作用しました。

さらに近年では、労働組合を他の中間団体と同一視して、その組織力を弱めようとする動きも見られます。具体的には、労働組合を極右の宗教団体と同列に扱うことでイデオロギー集団のように語る言説です。労働組合は、働く人の労働条件や生活の向上のためにある組織であり宗教団体とは異なります。それをあえて同様に語ることで偏ったイメージを広げようという動きが政党やSNSの中に見られます。

また、労働組合は非営利の組織であり、経営者団体や企業団体とも異なります。にもかかわらず企業団体献金問題のように、そこを一緒くたにして労働組合の活動を制限しようとする動きもあります。

資本主義の発展に伴い、社会の分断化と孤立化が進み、人々が集まる場所の確保すら難しくなっています。その中で、人々の相互不信も強まり、協働する場も縮小しています。

──中間団体の機能が弱まり、人々がばらばらになる中でどのような問題が生じているでしょうか。

労働組合には、労働者の権利を守り、労働条件を向上させるほかにも、「労働者を賢くする機能」があります。組合員は、労働組合が発行する機関紙を読んだり、組合が主催する学習会に参加したりすることで、自分たちを取り巻く社会情勢や社会問題を理解することができます。このように、労働組合の情報発信や学習の場の提供には、組合員の知識や情報リテラシーを高める機能があります。

その意味で労働組合は、ポピュリズムに対抗する役割を担っています。労働組合が中間団体として集合知を生かして事実に基づく政策提言を行うことは、社会の冷静な議論を促す機能を果たしています。また、組合員同士が意見を交わす場を提供し、知識を蓄積することも、組合員個人が極端な意見に振り回されるリスクを抑制しています。

労働組合の組織率の低下は、こうした機能の低下を意味します。組織率の低下で労働組合の情報が伝わらなくなり、インターネットの極端な情報や真偽不明な情報に踊らされてしまう人が増えることにつながります。労働組合の存在が健全な民主主義を支えているのです。

──労働組合のそうした機能を意識する機会は多くありません。

話は少し遠回りになりますが、例え話をしましょう。農業における水田や畑の役割を考えてみてください。それらの役割は、食料を生産するだけではありません。里山としての防災機能や、地域の文化を支えるといったさまざまな複合的な役割を果たしています。

労働組合もこれと同じように複合的な役割を果たしています。労働組合は、労働者の労働条件の維持・向上を担うだけではありません。労働者同士の議論や学び合いの場を提供することで知識や技能の向上にも貢献しています。このことは、労働組合が「賢い労働者」、言い換えれば「賢い市民」を育てるという、民主主義社会にとって重要な役割を果たしていることを意味しています。

こうした役割は、直接的には認識しづらいものかもしれません。しかし、その機能が発揮されなければ人々が極端な意見や誤情報に振り回されて社会が混乱するリスクが高まります。安定した社会を維持するために必要な組織として、労働組合を認識してもらうことが重要です。

そのためには労働組合の情報発信を強化する必要があります。まずは、事実やデータに基づいた情報提供を強化することで信頼性を高めることが大切です。情報発信をしなければ、人々からは存在しないものと思われてしまいます。

──中間団体に所属することに対する忌避感が強いともいわれます。

組織に所属したくないというより、そのための時間やお金といった余裕がないというのが実態ではないでしょうか。フジテレビの事例が示すように、個人では解決できない問題に直面したときに初めて人々は中間団体を頼りにします。そうした際の受け皿としてドアを常に開いておくことが重要です。

──労働組合が政治において果たす役割についてお聞かせください。

労働組合は、経済的には労働条件の維持・向上を通じて経済成長に寄与する一方、政治的には、「賢い市民」を育成することでポピュリズムの防波堤となり、健全な民主主義社会を支えています。社会のエコシステムを支えるこうした機能を理解してもらうことで、労働組合の政治活動の意義も浸透するのではないでしょうか。労働組合に対する偏見を払拭し、多面的な意義を、多くの人にわかりやすく伝えることが大切になってきています。

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