特集2025.12

働く人の「ふところ事情」
物価上昇の影響と格差の実情
組合員の生活実感は?
情報労連「生活アンケート調査」から

2025/12/15
物価上昇は、組合員一人ひとりの生活実感にどのような影響を及ぼしているだろうか。情報労連が実施した「生活アンケート調査(正社員/パート・派遣等労働者)」を報告する。
永渕 達也 情報労連政策局
中央執行委員

「生活アンケート調査」を実施

近年の急速な物価上昇は、四半世紀にも及んだ長期デフレの中で賃金水準が伸びない、という課題を抱えてきた私たち労働者の生活を直撃しています。特に、食料品やエネルギー価格の高騰は、家計に大きな影響を及ぼしています。

このような経済状況下で、情報労連が組合員を対象に実施した「生活アンケート調査(正社員/パート・派遣等労働者)」の結果は、物価高騰が組合員一人ひとりの生活実感や家計のやりくり、そして将来への不安にどのような影響を与えているかを定量的に示しています。

今後の生活見通し

まず、現在の生活水準に対する評価と今後の生活見通しを尋ねた設問の結果についてです。現在の世帯家計の状況を見ると、「繰り越しできるくらいのゆとりがある」と回答した人が27.2%(前年比+1.6ポイント)、「収支トントン」が52.8%(同+0.4ポイント)となり、「貯金を取り崩す等しないと、やりくりできない」20.0%(同▲2.1ポイント)となりました(表1)。物価上昇の局面におけるこの結果は、近年の春闘等における情報労連の賃上げの取り組みが、組合員の足元の家計維持にわずかながらも貢献した可能性を示唆しています。

しかし、この「現状の少しの改善」がある一方、「将来に対する強い不安」という課題も横たわっています。今後の生活見通しに対しては、「よくなる」とポジティブに回答した人はわずか5.5%(同▲0.4ポイント)にとどまり、「悪くなる」とネガティブな回答をした人が44.0%(同+0.9ポイント)と増加しています(表2)。この結果は、たとえ当面の生活が維持できていたとしても、物価上昇基調の中で、将来にわたって賃金上昇がそれを上回り続ける(実質賃金上昇の軌道に乗る)という確信を持てていないことの裏返しです。

組合員が将来に期待を持つには、「物価上昇とともに、それを上回る賃上げがあって当たり前だ」という社会的規範(賃金ノルム)を確立し、構造的な不安を取り除くことが必要であり、それが労働組合に課せられた喫緊の課題だと言えます。

表1
表2

雇用形態間にある格差

また、生活実感を脅かす不安感は、特にパート・派遣等労働者──いわゆる非正規労働者に特に重くのしかかっていることが、雇用形態別の分析から明らかになりました。将来への不安を「大いに不安を感じる」と回答した割合は、正社員で31.6%であるのに対し、パート・派遣等労働者では39.2%と、8ポイント近い大きな差があります(表3)。さらに不安の要因別に掘り下げると、構造的な格差がより一層鮮明になります。「自分の雇用」に対する不安は、正社員の14.2%に対し、パート・派遣等労働者では25.0%と、約1.8倍にも達します。「収入や貯蓄」に対する不安は、正社員の40.4%に対し、パート・派遣等労働者では49.4%と、9ポイントもの差が生じています。

これらのデータは、パート・派遣等労働者が抱える「低賃金・不安定雇用」という構造的な課題の存在を示しています。物価上昇局面において、雇用形態間格差の是正に取り組まなければ、正規・非正規という既存の格差構造がさらに拡大し、「生活の二極化」を加速させてしまいます。

表3

出費の抑制

続いて、現下の物価高騰に対して、組合員がどのような行動を取っているかを見ます。家計の「やりくり」のために行ったことを問う設問では、上位項目として以下のものが挙げられました(表4)。

「食費、日用品、衣類などの支出を抑えた」:52.7%

「趣味やレジャーの出費を抑えた」:41.7%

「家具・家電などの購入・買い換えを控えた」:33.2%

特に食費などの日常消費に直結する項目がトップに挙げられていることは、組合員が生活の質を維持するための最低限の出費すら抑えざるを得ない状況を示しています。また、趣味やレジャーといった「精神的なゆとり」を生み出す支出や、家具・家電といった「生活インフラの維持・更新」に必要な出費を抑制している傾向は、単なる一時的な節約を超え、労働者の生活水準の低下、さらには消費行動の停滞によって経済全体へ悪影響を与えてしまいます。

表4

アンケート結果を受けて

アンケート結果から見えた、物価高騰下における組合員の「不安の増大」と「雇用形態による格差」という課題を踏まえ、情報労連は現在、2026春季生活闘争方針を鋭意検討・策定しています。

闘争方針の策定に当たっては、情報労連がめざす「労働者にとって暮らしやすい社会」の実現に向けて未組織労働者を含むすべての労働者の「総合労働環境の改善」につながる複数の取り組みを重点に議論を進めています。

まず、最も優先すべきは、実質賃金上昇に資する賃上げ要求の徹底だと考えています。物価の上昇を上回る賃上げを追求することによって、組合員の購買力を回復させ、持続的な賃金上昇サイクルを確立することをめざす議論が展開されています。

また、パート・派遣等労働者が特に抱える「収入や貯蓄」への根強い不安を解消するため、雇用形態間ならびに企業規模間等における賃金格差の是正も重要です。均等・均衡待遇の原則に基づいた不合理な賃金格差の是正はもちろん、セーフティネットである最低賃金協定の充実・強化に向けた、情報労連最低賃金協定等の締結にも取り組むとしています。

さらに、「老後の生活費」等に対する組合員の将来不安の軽減につながる取り組みにも注力する方向で検討を進めています。具体的には、退職金制度の整備や短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大、そして有期雇用労働者の無期雇用への転換促進など、雇用形態を問わず安心できる生活基盤の構築を推進することをめざしています。

2026春闘へ

そして、これらの取り組みを実効性のあるものとするためには、個別の労使交渉の枠を超えた社会的な環境整備が不可欠です。サプライチェーン間の取引適正化を通じて企業の収益構造を安定させ、それが持続的な賃上げの原資となる経済的な好循環を生み出すことが、情報労連のめざす「暮らしやすい社会」の基盤となるという認識であり、そのためには、サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配、労務費を含む価格転嫁等を徹底し、適切な価格転嫁・適正取引を促進・定着させることが重要であると考えます。

情報労連は、アンケートで示された組合員の切実な訴えに対し、2026春季生活闘争を通じて、物価高の中においても安心して希望を持って働くことができる環境の実現にまい進していきます。

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