トピックス2016.04

全ベルコ労働組合の闘い
業務委託契約の乱用に対して労働組合や代理店主が「使用者性・労働者性」を訴え提訴

2016/04/22
2月の第46回中央委員会で情報労連に加盟した全ベルコ労働組合の組合員が、労組結成を理由とした不当な解雇撤回や、代理店と契約を結ぶベルコとの雇用関係などをめぐって裁判を闘っている。労働者性や使用者性とは何かを問う重要な裁判だ。

2月2日、情報労連が開いた第46回中央委員会で、全ベルコ労働組合(高橋功委員長)の加盟が承認された。

組合に対応する株式会社ベルコは冠婚葬祭大手。連合北海道地域ユニオンにも加盟している全ベルコ労組の仲間は、組合結成に対する不当労働行為や不当解雇などをめぐって裁判を闘っている(=経過参照)。組合執行部の2人は、昨年5月に地位保全などを求めた仮処分を札幌地裁に申し立て、7月に提訴した。6月には解雇取り消しなどを求め北海道労働委員会に救済を申し立てた。また、ベルコと契約解除された元代理店主も、自らの労働者性などをめぐって訴訟を起こしている。

〈経過〉

冠婚葬祭大手ベルコの東札幌支社に属する手稲支部に雇用されていた元従業員らが2014年12月、組合結成の準備を始めた。この動きを察知したベルコは代理店主に組合結成を阻止するように指示。2人が翌年1月に連合北海道地域ユニオン加盟の組合結成に踏み切ると、ベルコは代理店主との契約を解除。労組結成の主要メンバー2人だけを排除して、他の労働者は新規の代理店主に雇用させた。

問題の所在

裁判における争点は、業務委託契約を多用するベルコが、代理店主や代理店従業員の使用者に当たるかどうかだ。

「ベルコは、業務委託契約を多用して、労働関係諸法令の適用を免れる仕組みを考案し、雇用責任を代理店主に押し付け、自分たちは利益だけを享受する体制を構築している。こうした手法が許されるなら、契約書さえ業務委託契約にしておけば、労働法の適用をいくらでも免れることができる。まさに労働法の存在意義が問われている事案です」と代理人弁護士の淺野高宏弁護士は強調する。

淺野弁護士や労組執行部の説明によると、ベルコの事業システムは次のようなものになる。その仕組みは極めて複雑かつ巧妙だ。ポイントは淺野弁護士が指摘するように業務委託契約の多用にある。

ベルコの事業システム

ベルコには全国に28の支社がある。支社とベルコとの関係は「業務委託契約」。その支社の下に代理店がある。ベルコと支社の関係が「業務委託契約」になっていることも見逃せないが、代理店と支社の間には「業務委託契約」も含め契約関係は一切ない。代理店はベルコ本社と直接「業務委託契約」を交わしている。これでは支社の下に代理店があるという表現は的確ではないだろう。しかし、代理店の業務は支社によって、かなり細かく管理されている。支社は月ごとに会議のスケジュールを設定し、ノルマ達成率などを書かせる報告書を代理店に提出させている。「実態は一つの会社組織で事実上の指揮命令関係がある。にもかかわらず、ベルコは業務委託契約を多用することで、雇用責任を回避している」と淺野弁護士は指摘する。

前述のとおり代理店はベルコと直接「業務委託契約」を交わしている。代理店の下には主に葬儀を担当するFA職(フューネラルアドバイザー[互助会営業])と呼ばれる従業員がいる。FA職は代理店と雇用契約を結ぶ労働者だが、ベルコの労働者とは扱われない。しかし、「代理店主は単なる個人に過ぎない」と淺野弁護士は指摘する。FA職に対する雇用責任は、労働契約だけ見れば代理店主が負う。代理店主が労災保険料やFA職の社会保険料、消費税などを個別に引き受けることになる。資力のない代理店主には重い負担だ。

これらに加えベルコと代理店主との間には特殊な関係が存在する。代理店主は互助会の会員から預かったお金をすべてベルコにいったん納入、その互助会手数料が収入となる。だが互助会の会員は預けたお金を冠婚葬祭に使わないで中途解約する場合などがある。また会費の払い込みが中断されることもある。こうした場合、ベルコは過去に払い込まれた互助会手数料を差し引いた金額を代理店主に振り込むのである。代理店主からするといったん売り上げとして計上したお金が、後からこのように相殺されることになり、確定的な収入が見通せないリスクに直面する。こうした行為は「マルペケ」と呼ばれている。

代理店主には「人事異動」がある。本社の掛け声一つで他の代理店に「異動」するのである。代理店主が「異動」するたびにFA職は雇用契約を結び、社会保険に入り直していたという労組委員長の高橋功さんの証言も指摘しておきたい。訴訟を起こした元代理店主は、「裁量なんてほとんどなかった。何か一つするにも稟議書が必要だった」と振り返る。

ベルコと代理店主の関係性は、コンビニのフランチャイズ制にも似ているが、淺野弁護士はそれよりも従属性を強めていると指摘する。淺野弁護士は「ベルコは社会保険料の支払いなどを代理店に押し付けて、利益だけは確保する“絶対に損をしないシステム”をつくっている。企業の社会的な責任の観点からもこうした事業運営を許していいのかが問われている」と訴える。

FA職の働き方

FA職は雇用主である代理店主の指揮命令に従って業務に従事するはずだ。しかし、ベルコの場合はそれだけではない。冠婚葬祭業を営むベルコは全国に斎場施設を保有する。その管理・運営を任される館長は、ベルコと「業務委託契約」を結んでいる。館長とFA職の間に雇用関係は存在しない。だが、「FA職の仕事の8割は斎場での仕事だった」と全ベルコ労組書記長の豊田義久さんは証言する。これでは雇用関係に基づく指揮命令の雇用責任があいまいになる。いわゆる「偽装請負」とも指摘できる。

FA職の業務内容は、実際はベルコ本社が決めた方針が支社→代理店→FA職という順序で降りてくる。ベルコは代理店に対しFA職の履歴書や雇用契約書、誓約書などのコピーを提出させている。

また、FA職の賃金は、ベルコからFA職に振り込まれている。こうしたベルコからの賃金支払いは、あくまでベルコによる賃金支払いの代行とされ、ベルコとFA職には雇用関係はないとベルコ側は訴える。ベルコはFA職にその旨を記載した確認書を書かせている。

裁判の争点

裁判の争点は二つある。一つはFA職とベルコとの間で労働契約の成立を認めることができるか。二つは、代理店主がベルコの労働者であることを立証することでFA職とベルコとの労働契約関係を肯定できるかだ。淺野弁護士は、「いずれの争点でも問題の本質は代理店主が独立した事業者なのか、ベルコの一従業員に過ぎないのかという点です。これによりFA職を雇用する真の使用者が誰なのかが問われています」と訴える。

委託請負労働者の労働者性や使用者性を問う争いは、2011年4月に重要な最高裁判決が下された。個人事業主であるオペラ歌手と、業務委託契約で製品メンテナンスを行う技術者は、労組法上の労働者であるとの判断である。

しかし、今回の事件は「この先を行く事案」と淺野弁護士は評する。「業務委託契約を乱用して労働法規を潜脱するやり方が許されるのかどうか。人事に介入され、異動もあり、契約打ち切りをちらつかされる代理店主は経営者と言えるのか。さまざまな問題が問われています」

従来に類似したケースが少ないだけに、裁判や労働委員会の判断の行方は見通せない。淺野弁護士は「新しい判断を出すため裁判所にも迷いが生じます。それだけに世論の後押しが重要になる。働く人を使い、利益を得る人間が雇用責任を負わなくてもいいのか。そうした社会のあり方が問われている」と強調する。

労組委員長の高橋さんは、「皆さんの力がなければ、闘いは展開できません。皆さんに本当に感謝しています。このままのやり方を続けていては、働く人にとっても、ひいてはお客さんにとってもマイナスになる。変えなければいけない時期を迎えていると思います」と話す。

連合は本部に全ベルコ労働組合対策委員会を設置。裁判や労働委員会での闘いを支援していく。

ベルコ本社と代理店の関係
「(元従業員らは)ベルコに雇用された従業員である」(訴訟から)
引用:北海道新聞
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