トピックス2016.11

沖縄に米軍基地は必要か?
辺野古新基地建設の合理性はない
「抑止力」の具体的な検証を

2016/11/14
沖縄に海兵隊が駐留しているのはなぜか。海兵隊は本当に駐留し続ける必要があるのか。あいまいな「抑止力」に惑わされず、具体的な機能を検証する取り組みが求められている。
植村 秀樹 流通経済大学教授
専門は国際政治学、安全保障論。著書に『暮らして見た普天間─沖縄米軍基地問題を考える』(吉田書店)、『自衛隊は誰のものか』(講談社現代新書)など多数

米軍が日本にいる理由

沖縄の米軍基地問題を理解するためには、歴史をさかのぼって考える必要があります。

まず、米軍が日本に駐留しているのはなぜかを考えましょう。この問いに答えるためには、日米安保体制がどのようにできたのかを振り返らなければなりません。

戦後、米軍部は対日講和条約の早期締結に反対でした。講和条約を締結すると軍部が日本国内の基地を自由に使えなくなってしまうからです。そのため、講和条約を締結し日本を西側陣営に引き込みたいと考えていた米政府としては、軍部をなだめる必要がありました。対日講和交渉にあたってダレス国務省顧問が「軍部が、望むだけの部隊を、望むところに、望むだけの期間、日本に駐留する権利」を重視したのはそのためです。

アメリカは日本を西側陣営に組み込むために受け入れるという寛大な処置をする一方で、安保条約で日本に基地を提供させるという不平等な条約を締結させました。当時の吉田茂首相は、主権回復の代償として安保条約を受け入れたのです。

日米安保条約だけが問題ではありません。条約に書き込めないような不平等な内容は、日米行政協定(現在の日米地位協定)に盛り込まれました。そこにも書けないことは密約として秘密にされたのです。

このように、日米安保体制は、講和条約と安保条約およびそれにかかわる密約までもセットで認識する必要があります。米軍が日本になぜ駐留しているのかという問いに一言で答えるとすれば、「アメリカの戦略」と言うよりほかありません。

軍隊という官僚組織

次に日本の防衛にとって米軍が必要かどうかを考えましょう。

かつて小沢一郎氏が民主党代表時代に「軍事戦略的には第七艦隊がいれば米国の極東におけるプレゼンスは十分」と発言し、自民党議員などから強く批判されました。しかし、結論から言えば、小沢氏の言う通りです。必要とされる優先順位は、「1に海軍、2に空軍、3,4がなくて、5に海兵隊」。海兵隊の順位はそれくらい低いものです。

では、なぜ海兵隊の優先度は低いのか。海兵隊の歴史をさかのぼって考えてみましょう。

海兵隊はもともと海軍の船に同乗し、水兵の反乱を取り締まる警察部隊でした。そのような部隊ですから、海兵隊の歴史は存続のための戦いの歴史でした。海兵隊不要論が何度も持ち上がり、海兵隊はそのたびに反対運動を展開してきました。

第二次世界大戦が終わってトルーマン大統領が海兵隊を陸軍に吸収合併させようとすると、海兵隊は猛烈なロビー活動を展開し、これを阻止しました。そのあまりに強烈な政治運動にトルーマン大統領が「海兵隊はスターリンにも匹敵するプロパガンダ機関をもっている」と漏らしたほどです。海兵隊は他軍に比べて小規模です(陸軍100万人、海軍・空軍50万人弱、海兵隊20万人)。しかし、連邦議会の出身議員数は他軍より多い。それほど政治力がある組織です。そうしなければ存続できない組織なのです。

沖縄に駐留する海兵隊は、1950年代前半まで山梨県と岐阜県にいました。山梨と岐阜に来る前は米本土にいましたが、この2県にいた陸軍が朝鮮戦争への対応で前線に移ったのをきっかけにその穴埋めとして移転してきました。

その海兵隊がなぜ沖縄に来たのか。背景は少しずつ研究が進んでいますが、はっきりしていません。当時のスティーブス米総領事は、「海兵隊が沖縄に駐留することになれば、深刻な事態に陥っている土地問題は、解決できなくなるだろう」と述べていました。沖縄では1950年代後半、「島ぐるみ闘争」と呼ばれる、基地反対運動が起きていたので、そこに海兵隊を移転させれば、問題はさらにこじれてしまうということです。陸軍も海兵隊の沖縄移転に反対していました。

それでも、海兵隊が沖縄に来たのはなぜでしょうか。軍隊も官僚組織であり、どこの国でも見られるように、予算、ポスト、権限、天下り─で動きます。当時は日本本土でも米軍基地反対運動が盛んでした。そのため、陸軍に代って山梨と岐阜にやってきた海兵隊でしたが、そのまま駐留し続けるのは難しいと判断した。しかし、日本での足場は確保したい。そこで米軍が施政権を握る沖縄への移転を考えた。このような判断がなされたのではないでしょうか。つまり、軍事的合理性があって海兵隊が沖縄に移転してきたのではないのです。

抑止力というご本尊

ここからは在沖海兵隊の抑止力について考えたいと思います。

米海兵隊は、米国東海岸、西海岸および沖縄に三つの部隊を配置しています。沖縄の部隊は唯一国外に配置された部隊で、最前線の部隊というイメージがありますが、まったくの誤りです。

沖縄の海兵隊基地には、戦車もありませんし、兵士を運ぶ船もありません。その船は佐世保にあります。佐世保に配置された強襲揚陸艦は、1万8000人いるといわれている在沖海兵隊のうち2000人しか乗せられません。この部隊の任務も、朝鮮半島有事の際に非戦闘員を避難させることであり、戦闘部隊ではありません。有事の際には、沖縄の海兵隊がまっさきに駆けつけて戦闘するというのは、まったくの誤りなのです。

にもかかわらず、沖縄の海兵隊が抑止力として語られるのはなぜでしょうか。元防衛官僚の柳澤協二さんは、抑止力に関して「一種の宗教なんかじゃないかと思うくらい、つまり抑止力という『ご本尊さま』に疑いを差し挟むことがけしからん」「そういうことを議論すること自体がけしからんという雰囲気」があると吐露しています。つまり、役に立つか、立たないかわからない「お守り」と同じで効果の検証が行われないまま、なんとなく使い続けている。在沖米軍基地の約75%は海兵隊です。海兵隊の抑止力をきちんと検証すれば、大幅な整理縮小が可能になるでしょう。辺野古の豊かな自然を破壊して、1兆円規模と言われる予算を投じて、新しい基地を建設する合理性などどこにもないのです。

戦争体験と9条への依存

最後に、平和の問題を論じる際に大切だと考えている私論を述べたいと思います。これまでの平和運動は、戦争体験と憲法9条維持への依存が大きすぎたのではないでしょうか。これらへの依存が大きすぎると、海兵隊の機能とは何か、地域の安定をどう図るべきか─といった具体論が出てきづらくなります。そのため、議論が両極端となり、こう着してしまうのです。

変化は少しずつ起きています。今年、ジャーナリストの屋良朝博さんらが『沖縄と海兵隊』という本を出版しました。この本は沖縄と海兵隊の関係を歴史的にさかのぼって研究した本で、「抑止力神話」の一角を切り崩す内容となっています。ご利益があるかどうかわからないご本尊を拝み続けるのではなく、具体的な議論を展開し、国民に広く知らしめていく。そうした活動が問題を解決へと導いていくはずです。粘り強い活動をしていくしかありません。

(本稿は10月21日に開催された勉強会の内容を編集部が構成したものです)

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