トピックス2017.06

[覆面座談会] 事故はなぜ起きるのか
現場が訴える「業務多忙」と「単価」の問題

2017/06/14
事故はなぜ起きてしまうのか。通信建設会社で働く6人に本音を語ってもらった。背景に、業務多忙や作業単金の問題が浮かび上がった。

─まず、皆さんの周囲で起きた事故体験を教えてください。

A「サービス総合」のユーザー業務をしています。この業務で多いのは、車両自損事故ですね。ユーザー業務はお客様ありきなので、「急いで来てください」と言われると焦ってしまって、事故を起こしてしまう。大きな事故にもつながりかねません。

B私は「一般工事」を担当しています。山間部で外壁にある支柱を引き抜く作業をしているとき、落石でケガをしたことがあります。小さな石だったので軽傷で済みましたが、大きな石だったら重大事故につながっていました。作業をしづらい場所だったので、早く終わらせてしまおうという気持ちが班の中にあったのかもしれません。

C私は「サービス総合」と「一般工事」を掛け持ちでやっています。最近、「ヒヤリ」としたのは、工事車両の荷台からカラーコーンが落下して、うしろの車にぶつかりそうになったことです。若い人がバンタイプの車の運転に慣れていなくて事故になったり、さらに過積載で視界が悪くなって、ぶつけてしまうこともあります。

D光ケーブルの設計や竣工を担当していますが、「線番」の入れ違い事故が、多々発生しています。確認不足が最大の要因なのですが、その背景には作業単金の問題があると思います。現場は「稼いでナンボ」の世界ですが、工事の単金が低いので、とにかく数をこなさないと食っていけないというのが本音。それが原因で確認不足になってしまうということです。

それから、やるべきことが多すぎて、「これじゃ、仕事が回らない」と感じている人も多いです。現場を回すために手を抜いてしまうとか、そういう要因もあると思います。

E私は一般工事を担当しています。最近の高品質の光回線は、取り扱いがとてもシビアなので、少し曲がっただけでも故障が出てしまいます。

年度末に回線の切り替え工事が増えてくると、連絡ミスなども増えてきます。工事を平準化してもらえると、もう少し落ちついて仕事ができるのですが……。

F私はサービス総合のユーザー業務を担当しています。私の事務所でも交通事故が一番多いです。過去2カ月で4件の交通事故(自損事故)が起きています。

例えば、車止めポールの目の前に駐車していたのに、発車してぶつけてしまったりとか……。運転席に座ってお客様に電話をすると、「早く来い」と言われて、ポールの目の前に停めていたことを忘れて発車してしまうんですね。それくらい切迫しています。

A重大人身事故は一つでも発生すると大きく周知されるのでたくさんあるように見えますが、事故の発生比率からすると交通事故とか設備事故の方が圧倒的に多いんですよね。

─皆さん、業務多忙を要因とした「焦り」が共通していました。働き方の実態はどうなっていますか?

A二次請け・一人親方の場合、例えば、1日3万円を売り上げて、そこから材料費などの必要経費を差し引いて2万円の手取りを確保したいとします。二次請け・一人親方の工事1件当たりの単価を5000円くらいとすると、1日6件の工事をこなさないと目標に達しません。工事1件あたりにかかる時間は2時間と言われているので、1日6件だと12時間かかってしまう。これを作業効率を上げたり、移動ルートの効率したりして1時間30分くらいまでに短縮する。これで何とかやっています。

F1日のスケジュールは、朝7時に事務所に来て、事務所に戻ってくるのは20時とか。それから次の日の準備とかしたら22時くらいまでかかります。これを週休1日でやっています。一人親方の場合は、残業代は出ません。

そもそも、人が足りてないんですよ。人が足りないから「ない袖は振れない」と言っているのですが、工事の注文はどんどん入ります。だから無理な件数を今いる人数でこなすしかなく、だから焦りしかない(苦笑)。

─忙しさの背景には工事の単金の課題もあるようですね。稼ぐためには数をこなさないといけないという。

A本来なら材料費などから細かく見積もりをすべきですが、それをやっていたら、手間がかかり過ぎて現場が回りません。そのため、ある程度まとまった形で単金が設定されているのですが、単金設定は昔からあまり変わっていません。なので、現場はその中でなんとかやりくりするしかなく、数をこなさないといけなくなります。

D会社は利益優先でモノを考えて、現場に発注します。ですが、現場で働く人たちがいなければ、発注する側も経営できません。現場にもっと還元する方法を考えてほしいです。

例えば、電力業界では「日当たり施行量」が決まっていて、稼働量に対して、これくらいの単金がなければできないという仕組みができていると聞きます。通信建設から電力工事へ人が流れているという話も聞いているので、負のスパイラルを止めるためにも、踏み込んでほしい課題ですね。

F現場では、安全に関して言われたことを全部きっちり守っていたら、仕事が回らなくなり、実入りが減ってしまうという意識がやはりあります。危険だから作業できないとお客様に言っても、「昨日のアンテナ工事の人はやってくれたよ」とか言われて、できない理由を説明しているくらいなら、やってしまった方が早い。断ったら、その分の報酬は得られませんから。

D工事の単金が、国交省の定める単価基準の半分くらいの価格でやる場合もあって。それは、発注量が多いからという理由で、そうなっているのですが、仕事の量は昔に比べると減っているので、まとまって儲けを出すことも難しい。単金を上げてもらおうとしても、「昔からこれでやってきたでしょ」と。工事の単金を見直すには、発注側と元請け側の双方が納得できる調査を行う必要があると思います。

─人材確保・人材育成も課題になっていますね。

E現場の二次請け会社では、月曜日から土曜日までみっちり仕事があって、新人を採用して教育するような状態ではありません。新人が入っても、仕事がつらくてすぐに辞めてしまうということもありますし。だから、現場の高齢化が進んでいたりとか、人が足りなくて会社をたたんだりとか、そういうことも起きています。

A人材育成は一朝一夕ではできません。サービス総合では、仕様などに関して新しい情報が毎日落とされてきて、それを覚えたり、教えたりするのは、かなり難しいですよ。

F全部理解している人はいないですよね。

(一同うなずき)

Fだから、現場にとりあえず出て、そこで当たった仕事を覚えていくという感じになっていますね。

A昔は下積み2年と言われていましたが、今はユーザー業務だと3~4カ月で班長(一人親方)になってしまうので、マニュアルに載っていないような、安全意識に関することとかを引き継げていないんですよね。

─事故をなくしていくためには?

Fとにかく時間とお金の「余裕」です。それしか考えられません。余裕があっても事故は起きるかもしれませんが、今よりは間違いなく改善されると思います。

E現場の人たちとのコミュニケーションも大切だと思っています。特にスポットで入ってきた班とは、注意してやりとりしています。

D家族の写真をヘルメットに貼っておくとか、自分の大切なものを見える位置に置いておくこともいいと思います。

C交通事故は焦りが大きな原因なので、余裕のあるスケジュールで働けるようにすることが大事だと思います。それから、やはり、「お金」ですね。工事の単金を引き上げないと余裕もできないし、教育や指導もできません。

B単金の話は必ず出てきます。現場ではそれをどうこうできるポジションにいないので、コミュニケーションを大切にしています。

A安全に関する指導を厳しくするほど、関連する手順は増えるのに、実入りは減るという意見はやはりあります。厳しく指導するだけではなく、安全をなぜ守るのかという根本的なところを考えられる環境になるといいと思います。

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