「悪質クレーム」と向き合う民進党がパワハラ防止対策法案の中に悪質クレーム対策を盛り込む方向で検討中
時代的・社会的な要請
前回(本誌2017年4月号)、パワハラ防止対策の立法化に向けた取り組みを説明した時に、消費者やユーザーなどからの悪質クレーム対策も法案の中に盛り込みたいというお話しをしました。
その後、参議院法制局と議論を重ね、民進党内でも協議しながら、いかにして悪質クレーム対策を法案に盛り込むかを検討してきました。議論を重ねる中では、連合加盟の多くの産別組織の皆さんや、現場で働く人たちからも、悪質クレーム被害の深刻化についての訴えとともに、ぜひ国レベルでの規制をつくってほしいという要望をいただきました。私もあらためてこの問題の大きさと、何らかの法規制の必要性を認識しています。パワハラとともにモラルハラスメントも社会問題となっている今、悪質クレーム対策を講じていくのは時代的・社会的な要請だと考えています。
事業者への措置義務
今回、労働安全衛生法の改正で悪質クレーム問題に対応しようと考えているわけですが、法制化に当たっての課題は、悪質クレームの定義です。厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」が2012年1月に示したパワハラの定義は、「職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性」という表現が使われています。しかし消費者やユーザーなどは、これまではむしろ守られるべき存在として消費者保護規制が置かれていることも含め、職務上や職場内で一般的に優位な立場にあるとは言えないので、同じ枠内で規定することが難しいわけです。
そのため、パワハラと悪質クレーム対策の規定を分けて考えたらどうかと議論しています。事業主が講ずべき措置はいずれも従業員を被害から守ることなのですが、職業上の優位性・優越性に起因するハラスメントと、消費者やユーザーという新しい形態の優位性・優越性から生じるハラスメントとを分けて規定して、法案に反映しようという考えです。
後者については、事業主が従業員を消費者やユーザーからの苦情などに対応する業務などに従事させる場合に、▼雇用主は従業員が悪質クレームの被害に遭わないよう施策を講じること▼万が一そのような被害が生じた場合には適切な保護措置を取ること─といった措置を事業者に課すことを検討しています。ソウル市の感情労働従事者保護条例など諸外国の事例も参考にしていますが、課題は、業種業態ごとにクレームの内容や適正なクレームの範囲が違うので、統一的な規定を置くのが難しいということです。そのため、法文上はあくまで一般的な規定のみを置いて、あとは業種業態ごとに、例えば学校の先生と生徒の保護者の関係とか、病院の医師・看護師と患者さんのご家族らとの関係とか、コールセンターのオペレーターと相談者との関係など、何が限度を超えた悪質クレームに当たるかを指針やガイドラインを作成して対応していくことを想定しています。
秋の臨時国会で提出めざす
もう一つ重要なポイントは、加害者に対して何らかの具体的措置を講じさせることができるのか、という問題です。先ほどのソウル市の条例は、悪質クレームに関する禁止行為を盛り込み、これに違反した場合は一定の罰を科すようになっています。
今、私たちの検討している法案は、そこまで踏み込んでいません。現時点で悪質クレームに関する法規制が何もない中で、一足飛びにそこまで行くことは困難ですし、それには労働安全衛生法とは違う領域の新たな立法措置が必要になると思います。今回は、この問題を附則の検討事項に盛り込んで、次なるステップで対策を講じる方向で考えているところです。そのほかにも、措置義務違反が生じた時に、労働者が事業主に対して損害賠償請求できるようにすべきかなど、多くの検討課題があります。最終的な法案の内容は今後の議論で固めていきますが、企業や労組、消費者団体などからのヒアリングなどを行い、秋の臨時国会に法案を提出したいと考えています。