特集2017.07

「悪質クレーム」と向き合う悪質クレームへの法的対応のポイントは?行為差し止めを命じた判例も

2017/07/21
悪質クレームに法的な対応を行う場合は何がポイントになるのか。ハラスメントに詳しい新村響子弁護士に聞いた。
新村 響子 弁護士

悪質クレームに関する判例

悪質クレームへの法的対応として最初に考えられるのは、弁護士が介入して悪質クレーマーへ内容証明郵便を送ることです。それでもクレームがやまない場合は、裁判所に行為差し止めの仮処分を申し立てたり、不法行為に基づく損害賠償請求を求めたりします。不当な金銭要求などがある場合は、義務不存在確認という形で裁判を起こすこともあります。また、脅迫や暴行、業務妨害などの犯罪行為に発展した場合は、刑事事件として取り扱うこともあります。

そもそも裁判に発展する例が少ない上、和解に至ることもあるため、裁判例は多くありません。ここでは昨年に大阪地裁で出た有名な判決を紹介します。

この事件は、市民が大阪市役所に大量の情報開示請求を行い、職員の経歴を取得し、それを基に「高卒、大嫌いやねん」「能力がないから辞めてしまえ」などの人格を否定するような発言を繰り返したり、週に2~3回、多い時は1日に連続して5回も電話をかけてきて、1回当たり数時間近く職員を拘束し、罵倒し続けたりしたケースです。

大阪市は、これに対して職員との交渉の強要や、乱用的な情報公開請求を行わないようにする仮処分を求めました。その仮処分は認められたのですが、それでもクレームがやまなかったので、大阪市は本裁判に訴えました。

裁判の結果、裁判所は、市の業務を妨害したとして損害賠償として80万円の支払いと、面談の要求や回答の強要、罵声を浴びせるなどの行為の差し止めを命じました。悪質クレーム対応に関するリーディングケースだと思います。

悪質クレームの判断基準は?

悪質クレームを直接禁止するような法律はないので、法的には民法の不法行為(709条)に基づく損害賠償が基本になります。違法な悪質クレームにあたるかどうかを判断する基準は、明確ではありません。社会通念上の許容範囲を超えた場合は、「受忍限度」を超えたとして違法になりますが、どこまでが「受忍限度」なのかについては、分析できるほどの裁判例が存在せず、ケースバイケースになっています。

悪質クレームとパワハラを同じカテゴリーで考える考え方があります。パワハラの違法性を判断する場合も、最終的には総合判断になりますが、「給料泥棒」とか「会社にいらないから辞めてしまえ」などのように人格を否定するような発言があると、パワハラが認められやすくなります。加えて、回数や時間の長さ、場面などの要素もあります。こういった判断要素は悪質クレームと重複するところもあるでしょう。

一方、パワハラと悪質クレームでは、企業に求められる法的対応が異なる部分があります。パワハラは、加害者が職場内にいることが想定されています。企業は加害者に対して、指導や懲戒処分などを下すことができる権限を持っているからこそ、企業に職場環境配慮義務が課せられています。

他方で、悪質クレームは、加害者が職場の中にいないため、パワハラほど強く、企業の責任を問うことはできません。クレーム対応によって精神疾患になった場合、労災の一つの要素になることはありますが、会社に対する環境配慮義務違反を問うことは、パワハラに比べると容易ではないと思います。

立法措置へまずは実態調査を

パワハラと悪質クレームでは企業の対応の中身も異なります。このため、立法の際は、パワハラ防止措置と悪質クレーム防止措置は、分けて検討した方がいいのではないかと考えています。

悪質クレーム対応では、企業にマニュアルの作成を義務付けるような立法の方向性があり得るかもしれません。とはいえ、悪質クレームは、まだ新しい問題で、どのような実態があるのか社会的な認知も進んでいませんので、まずは実態調査ではないでしょうか。その上で、努力規定やガイドラインの策定といった施策から始めることも考えられます。

「マタハラ」が社会問題化したのも、連合の調査からでした。悪質クレームに関する実態調査も、労働組合が率先して行ってほしいと思います。

特集 2017.07「悪質クレーム」と向き合う
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