特集2017.07

「悪質クレーム」と向き合う悪質クレームの日伊比較

2017/07/21
イタリアでは悪質クレームは問題化されていない。なぜならイタリアでは、労働者の立場が強いからだ。働く人々は誇りを持っているのだ。
タカコ・半沢・メロジー 東京生まれ。1985年、フランス人のメロジー氏と結婚。86年からイタリアはミラノの隣県ベルガモ郊外に居住。ファッション、料理から生活習慣、人間関係までイタリア文化に関する著書多数。近著に『イタリア式健康生活』(郵研社)『イタリア キレイに生きる秘訣』(中公文庫)など多数。

日本滞在どき、公共機関、病院、一般の会社や店舗などに問い合わせの電話を入れると、まず、次のような音声テープが流れてくることが多くなった。

─ご確認とサービス向上のため、録音させていただきます。

これは、イタリアだとまず耳にしない。なぜだろう?つい最近まで理解できなかったが、ひとつには過激なクレーム電話への対策ではないだろうか、と感じ始めた。

というのも、先日、旧知の出版社勤務夫妻と懇親。クレームをテーマに盛り上がったからだ。まずは、広報担当のご主人がこう嘆いた。

「どうも、嫌がらせ的な電話がすごく多くて。例えば、『オマエのとこで出してるDVDの質が悪い。そんなのを売るなんて許せない』と言いまくる。時には機械との相性的なこともあっての不調発生、と説明してもダメ。より高圧的になって、『社長を呼べ!今すぐ出せ!』と怒鳴る。そういった類いのクレームがやけに増え、頭を抱えている」

ハラスメント発言にストレス

「そう、そう」と奥さん。児童学習書のパイオニア的出版社の編集長である。

「最初からケンカ腰で電話をしてくるのは、圧倒的に男性。ページ上部のほんの一部が破損していただけで、責任を取れ、弁償しろ、謝罪金を出せ、と怒鳴り続ける。揚げ句の果てには、ブスだなんだとハラスメント発言を重ね、攻撃的になるばかり。少数ケースじゃないだけに、ストレスが増す一方」

では、そういったモンスタークレーマーには、どう対処しているのか?夫妻の勤務する出版社では、このように対応しているそうだ。

(1)「いろいろ調べさせてもらい、改めて電話をさせてもらうので、そちらの連絡先を教えてください」と伝える。

(2)「この件をしっかり検討、今後の参考のためにも、今から録音させていただくので、よろしいですか?」と告げる。

(3)新しいDVDなり、書物なりと交換する旨申し出る。

(1)と(2)の場合、多くのクレーマーが、ガチャンと電話を切ってしまう、とのこと。そうか!それでなんだな、日本の各所で「録音させてもらいます」の音声テープが流れるのは、と納得いく思いである。

(3)の申し出だと、文句を言い続けつつも、合意に至ることが多い、とか。「交換する必要がなくても、面倒なのでしてしまう」と夫妻は苦笑していた。

プロとしての大きな誇り

今月号の特集が「悪質クレーム」と知った時、正直なところ、よく把握できなかった私である。なぜなら、イタリアでは問題化されていない事柄だからだ。

消費者から働く人に対するしつこい嫌がらせ、およびハラスメント、と聞かされた。人格を否定する発言をしたり、金銭を要求したりする行為、とも知り、いささか驚いたものだ。いったい、なにが面白くてそのようなことをするのか?日本の社会は、そこまで低俗、かつ悪質化した人物が増えてしまったのか、と閉塞ムードを感じざるを得なかった。

悪質クレームがイタリアでは皆無、などと言うつもりはない。たぶん、似かよった例もあるだろう。だが、基本的に労働者の立場が強いイタリア。むしろ、消費者よりもはるかに上だったりすることが少なくないのだ。

いい例が、薬局や各種の店舗。決して客にこびたりしないのがイタリアである。希望するビタミン剤やサプリメント、あるいは服や靴、その他を購入したくても、「お売りいただけない」ことすら多々ある。店主、あるいは店員から、「あなたには必要ない」とか、「あなたには似合わない」とピシャリ。「無駄遣いはやめなさい」と説教までされてしまう。今はだいぶ慣れてきたが、当初は、ショックさえ受けたものだった。

つまり、彼らにはプロとしての大きな誇りがあり、決して「消費者ファースト」にはならないのがイタリアなのだ。

結局、と私は思う。広きにわたっての民主主義が日常化しており、労使関係はあくまで対等。「客が上」などということは意識下にすらないのだろう。お互いの立場を尊重しながら生活しているからこそ、日々のストレスも少ない、と実感する。

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