トピックス2017.07

金銭解決制度は労働者の救済にならない
訴訟の支援策などの拡充が必要

2017/07/21
解雇事件を扱っている労働弁護士の視点から、今回の検討会での議論について解説してもらった。岡田弁護士は、実務の面からも新たな金銭解決制度の導入は不要だと指摘する。
岡田 俊宏 弁護士/日本労働弁護団事務局次長

解雇事件の実態は多種多様

解雇といっても、その実態は多様です。労働者にまったく非がなく、労働組合員だから解雇されるようなケースもあれば、労働者に多少なりとも問題のあるケースもあります。解決方法もそれぞれで、一件ずつ事情が異なります。

そうした中で解雇事件は、訴訟や労働審判、労働局によるあっせんなど、トータルで見て、金銭で解決しているケースが多いのが実情です。とはいえ、訴えを起こした労働者が最初から金銭解決を望んでいるかといえば、そうではありません。職場復帰を望む人もたくさんいて、そうした人たちは悩んだ末に金銭で和解するように、常に揺れ動きながら、事件と向き合っています。

解雇には、客観的合理性と社会的相当性が求められ、ケースによって解決水準は異なります。解雇の実態が多種多様な中で、今回の「解雇の金銭解決」のように、一定の枠をはめること自体に合理性があるのかという疑問がまずあります。

機能している労働審判制度

実際、実務として解雇相談に対応していても、現在の労働審判制度は、よく機能していると思います。労働審判制度は、現場の実情に通じた労使の審判員が参加して、法律の権利義務関係を踏まえて調停案を提示し、短期間で解決できる、とてもよくできた仕組みです。

ドイツの解雇訴訟では、まず裁判官による和解の手続きが行われます。そこでは、「月収×勤続年数×0.5」という実務上の算定式をベースに、さまざまな要素を加味しながら解決金の水準が決まります。多くの事件は、第1回期日で和解により終了します。しかし、和解手続きには、労使の裁判官は関与せず、職業裁判官だけで対応しています。日本の労働審判制度のように労使の審判員が関与していないので、現場の実情に応じた解決ができているのか疑問もあります。

フランスは、不当解雇の場合は使用者が補償金(損害賠償)を支払うという法制度で、バックペイも支払われません。このため、使用者の和解に対するインセンティブが働かず、訴訟が長引くという問題点があります。

このように見てみると、日本の労働審判制度は、労使の意見を反映させながら、納得性を高めて、短期間で解決できるというメリットがあることがわかります。短期間での解決は時間的予見可能性を高めています。

真に救済につながる施策は?

解雇の金銭解決制度の導入賛成論として、「泣き寝入りしている労働者の救済につながる」という理由がよく用いられます。しかし、今回の制度は、こうした労働者の救済につながりません。

まず前提として、今回検討された制度では、裁判所によってその解雇が無効であると判断される必要があります。つまり、労働者はこれまでと同じように弁護士費用などを負担して訴訟を提起しなければなりません。現在の労働訴訟の平均審理期間は約14カ月です。これでは、解雇無効時の金銭解決という手段ができたとしても、それに至るまでの労働者の負担が軽減されるわけではないので、泣き寝入りする労働者を減らすことにはつながりません。

泣き寝入りする労働者を減らすのであれば、例えば、弁護士費用の公的支援を拡充したり、勤続年数に応じて解雇予告手当を増額させたりした方が効果的だと言えます。また、労働審判制度を地方でも使いやすくしたり、解決水準が極めて低くなっている都道府県労働局のあっせんの水準に目安を設けたりすることも考えられます。欧州では認められている就労請求権を認めて、職場復帰しやすくするという方法もあります。

こうした理由を踏まえれば、今回の制度が労働者の救済につながるという主張は、まやかしであると指摘できます。

違法行為の助長につながる

使用者が求めるのは、解雇に関する金銭的予見可能性です。解雇にあたって、いくらお金がかかるのか、上限・下限が決まれば、コストの計算ができるというわけです。水準が設けられれば、使用者はその水準を用いて、労働者に退職勧奨してくることが想定できます。金銭解決制度がリストラの武器として使われるのです。

そもそも、解雇無効時の金銭的予見可能性を高めるということは、企業が効率的に違法行為を行えるようになるということです。これは法の順守という観点からも問題があり、裁判所の軽視にもつながる問題です。

また、解雇の金銭解決制度が導入された場合、有効に機能している現在の労働審判制度に悪影響を及ぼす懸念もあります。調停が成立しにくくなったり、使用者側からの異議申し立てが増え、労働審判での解決率が下がる可能性も否定できません。

制度の導入論者の中には使用者申し立てや、訴訟期間中のバックペイの支払いに上限を設けるべきと主張する論者もいます。一見、労働者のためになりそうなことを訴えていたとしても、注意を払わなければなりません。

仮に、使用者申し立てによる解雇の金銭解決制度が導入された場合、真っ先に狙われるのは労働組合員だと思います。解雇の金銭解決制度は、労働組合を破壊する可能性がある制度だということを労働組合はもっとアピールしていくべきではないでしょうか。

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