渋谷龍一のドラゴンノート2018.03

【第2編】働く~もう「非正規社会」だって わかっていますか~非正規社会の「本当」の危険性

2018/03/15

非正規労働の賃金が低いとか、雇用が不安定だとか、正社員になれないとか、よく指摘されてます。これらは確かにわかりやすいので、さすがに想像力のない正社員であっても理解できます。でも、もっと大きな危険が潜んでいるのに気付く人は少ないのです。

非正規労働を経験したことがある人なら誰でも身に染みていることです。非正規社会は人間の尊厳を著しく傷つけ続けています。大げさだと思っていませんか。しかし、賃金が低いというデータではなく、その人の生活や心情をとことん想像してみてください。

「こんなに一生懸命働いている。あの正社員よりよっぽど努力している。休みも取らずに働いている」

でも、現実の賃金、待遇はこれっぽっちだ。時給が上がらないどころか会社が厳しいとかで100円下げられた。経済的ダメージが大きいけれど、それよりも、思い知らされる。正社員とこんなに違いがある。

「私って、これだけの価値しかない人間なんだ。他人より劣っている人間なんだ」

会社の待遇がおかしい。いや社会が間違っている。最初はそう気付いていても、実際に給料を手にして一向に好転しないと自分を疑ってしまう。友人も尋ねます。世間も問います。

「なるほどね。いろいろ言いたいことはあるかもしれないけれど、あなたいくら稼いでいるの」

やがて自分の評価を自分で下げて、自分が悪いのだと結論付けるまで悲しい営みが続くのです。非正規社会とは、自分すら信じられない心が折れた労働者たちを大量に生み出し続ける社会のことだとわかりますか。

社会は簡単に、非正規になる人が悪いのだと言い続けます。正社員もそう思っているか、思わなくてもやり過ごします。もう一度言います。非正規問題でもっとも心配すべきは、人間の尊厳を損ない続けているということです。

渋谷 龍一 (しぶや りゅういち) 労働ジャーナリスト
日本労働ペンクラブ会員。主著に『女性活躍「不可能」社会ニッポン 原点は「丸子警報器主婦パート事件」にあった!』(旬報社)がある。
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