トピックス2018.03

真剣さを欠いた「お試し改憲」は危険
自衛隊を明記するだけにはならない

2018/03/15
「お試し」という軽い気持ちで、国の根幹をなす憲法を変えていいのか。自衛隊を憲法に明記するだけというが、それだけで済むのか。憲法学の観点で解説してもらった。
青井 未帆 学習院大学教授

盛り上がらない改憲の機運

自民党の二階幹事長は今年1月、1年以内にも憲法改正の発議をする考えをテレビ番組で示しました。安倍首相も改憲を進める意向を強い口調で示しており、今年の秋・冬の段階で改憲が発議されるかもしれません。だとすれば、今の段階で議論を整理しておくことはとても大切です。

全体的な状況を整理しておきましょう。まず、政治家と国民との間にある意識のズレが指摘できます。政治家は、改憲の機運を盛り上げようとしていますが、国民の意識はそれほど高まっていません。自民党は昨年10月の総選挙で、公約の中に憲法改正の具体的な項目を初めて示しました。その後、12月には党の憲法改正推進本部が「中間とりまとめ」を整理して、改憲論議を進める構えを見せています。しかし、「中間とりまとめ」の内容を見ると、議論が前に進んでいるとは言い難い状況にあります。

議論はなぜ、あまり進まないのでしょうか。それは、国民の意識が憲法改正を真正面から受け止めていないからではないでしょうか。世論調査はそのことを例証しています。例えば、時事通信の昨年12月の調査では、今年1月の通常国会で改憲発議をすべきかという設問に対して68.4%が「反対」していますし、共同通信の今年1月の調査では、安倍首相の下での改憲に54.8%が「反対」しています。

また、2017年3月に行われたNHKの『日本人と憲法2017』では、「憲法9条の改正は必要か」という質問に対して、昨年の調査では「必要ない」が57%に上っています(グラフ1)。さらに「改憲の議論はどの程度深まっているか」という質問に対して、「かなり深まっている」は3%しかなく、「あまり深まっていない」が57%に上っています(グラフ2)。このように憲法改正に対する国民の意識は高まっているとは言えません。

【グラフ1】憲法9条の改正は必要か
出所:NHK「世論調査日本人と憲法2017」
【グラフ2】改憲の議論はどの程度深まっているか
出所:NHK「世論調査日本人と憲法2017」

真剣さを欠いた「お試し改憲」の危険

国民はなぜ、憲法改正を真正面から捉えていないのでしょうか。それは、国民が改憲派の「本音と建て前」「お試し改憲」に気付いているからではないでしょうか。

改憲しやすいところを優先する「二段階改憲論」は、自民党の船田・憲法改正推進本部本部長代行が公にしており、安倍首相も同じ趣旨の発言をしています。安倍首相のブレーンである人たちも以前から主張してきました。昨年刊行された『これがわれらの憲法改正提案だ』(日本政策研究センター)という書籍の中では、現在の憲法を欠陥住宅に例えた話が出てきます。そこでは、本来であれば住宅を一から建て替えるべきだが、こだわりを捨てて部分的なリフォームから取り組むべきという戦略が語られており、とにかく改憲しようという改憲派のスタンスが見えてきます。

このような、本当の目的を隠して「とにかく改憲できればいい」というスタンスは、国民統合の観点から見てとても危険です。国民的な議論を深めず、憲法改正を強行すれば、国民に分断が生じます。それは政治や法体系、さらには安全保障の安定性に影響を与えるため、相当に注意しなければならないやり方です。

また、憲法は長い期間にわたって通用する法律なので、安易に変えることがあってはいけない法律の一つです。「お試し改憲」のように、真剣さを欠いたまま改憲することは、最もやってはいけません。この点については、多くの人がもっと大きな声を上げるべきでしょう。

自衛隊を明記するだけにはならない

ここからは憲法9条に重点をおいて話します。

大日本帝国憲法と日本国憲法を比べたとき、最も大きな違いは、前者に存在した軍に関する規定がごそっとなくなったことです。そのため、日本政府は自衛隊の存在を現行憲法下において行政権の一作用として説明してきました。そして、管理運営の面から見る防衛省という行政組織は、機動面でみると自衛隊であるとしてきました。平たく言うと、防衛省・自衛隊は、文科省や法務省と同じ行政組織であるということです。

軍隊を持つ国は、一般的にその存在を憲法で特別扱いしています。それは軍隊の行動原理が一般の行政組織とは異なるからです。例えば、一般の行政組織である警察は、秩序ある社会の中で行動するので、警察官一人ひとりが適法性を判断し、行動します。しかし、軍隊は秩序のない状態で行動するので、部隊行動が基本となります。そこでは、一人ひとりが適法性を判断するのではなく、上官の命令に従って行動します。軍隊が軍規の維持に細心の注意を払うのはそのためです。従って軍隊には特別な刑法が必要という理解の下、軍法会議という機関が設けられるのが通例です。

このように一般的な軍隊は憲法によって特別扱いされますが、日本は自衛隊を軍ではなく行政組織だと説明してきました。この点を改めて振り返る必要があります。

この観点で指摘したいのは、自衛隊の存在を憲法に書き込むことは、その存在を特別扱いすることに他ならないということです。自衛隊が憲法で特別扱いの機関として位置付けられれば、その機関は強い権限を持つことになります。そのため、どのような権限を持つのか、その権限がどのように作用するのか、他の機関との位置付けをどう調整するのかなど、相当の注意を払って仕組みをつくらないといけません。安倍首相は、自衛隊の存在を憲法に書き込むだけで済むような説明をしていますが、それだけで終わる話ではありません。むしろ、自衛隊の存在を憲法に書き込み、その具体的なあり方を法律に丸投げしてしまうのは、中途半端もいいところで、ちぐはぐさを抱えたまま憲法を改正することになります。

危険な火遊びという懸念

ここでは問題点を三つ指摘しておきます。

1点目は、改憲が与える影響が不明、ということです。自衛隊が憲法に位置付けられれば、軍法会議がないまま自衛隊が実質的に軍になっていくという問題が浮かび上がります。しかし、現行憲法の76条の2項は、特別裁判所の設置を禁止しており、軍法会議を設置するためには、この条文も改正しなければなりません。このように改憲が他の条文・法律などへ与える影響は議論されていません。

2点目は、2015年に成立した安保法制との関係です。自衛隊の存在を憲法に書き込むことは、安保法制で容認された集団的自衛権の行使容認を追認することにつながりかねません。そのような議論がなされないまま、改憲を進めようとすることには問題があります。

3点目は、自衛隊を統制するメカニズムが不明だということです。国会や裁判所が自衛隊に対してどのような抑制機能を持つのかなど全体的な観点の話が欠けています。これは非常に大きな問題で、自衛隊を書き込むだけという言い方は、詭弁だと言わざるを得ません。

また、自衛隊を憲法に明記する議論には、アジア諸国との関係、日米同盟との関係など、国際的な観点が欠けています。現行憲法がこれまで果たしてきた「防波堤としての憲法」の役割も弱まります。憲法を理由に断ってきた外からの圧力に日本の政治家たちは耐えられるでしょうか。政治家の力量を無視して議論することは危険な火遊びだといえます。

最終的にどのような憲法を選択するかは、国民の選択によります。以上のような論点について、ぜひ議論を深めてほしいと思います。

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