トピックス2018.03

社会基盤の形成に労働組合が果たす役割

2018/03/15
連合総研は昨年9月、「日本における社会基盤・社会組織のあり方に関する研究報告書」をまとめた。主査を務めた篠田教授に聞いた。
篠田 徹 早稲田大学教授

─どのような問題意識から研究会が設置されたのですか。

日本社会はさまざまな意味で疲弊しており、その持続可能性が問われています。社会の持続可能性を維持するためには「社会組織」が重要なのではないかという問題意識から研究会が設置されました。

「社会組織」とは聞き慣れない言葉ですが、英語の「アソシエーション」という言葉を念頭に置いています。「アソシエーション」とはこれまで「結社」と訳されることが多かったですが、イメージしづらいため、今回の研究会では「社会組織」という言葉を使うことにしました。

「無縁社会」に代表されるように、この間、家族や地域といった社会における関係性が機能不全に陥り、社会の持続可能性が低下してきました。その中で、社会組織はどのような役割を期待されているのか、どのような機能を発揮できるのかを分析することが研究会のテーマです。

社会組織というと一般的にNPOをイメージしますが、それだけではありません。労働組合や農協、町内会や中小企業の協同組合も社会組織の一部です。これらの組織は、社会組織の中では「古い公共」と認識されおり、これまで研究の焦点が公共性の観点からあまり当たらない傾向がありました。今回の研究では、これらの社会組織にも焦点を当てました。

─研究会ではさまざまな研究者・組織にヒアリングしていますね。

社会組織の研究者や、先進事例としてのドイツの研究者などから話を聞きました。次には、生活困窮者の自立支援を行うNPOやフードバンク、ワーカーズコープといった「新しい公共」の社会組織から話を聞き、次いで「古い公共」の例として、労働組合や中小企業、農協などから話を聞きました。

─ヒアリングを通じて見えてきたことは?

さまざまな社会組織が、社会基盤形成のために多様な役割を発揮していることがわかりました。

さらにわかったことは、さまざまな社会組織が、お互いの活動を知らないということでした。それぞれの社会組織は、同じ地域の中で同じような活動をしているのに当事者同士の交流がないということです。その意味では、今回の研究会で情報を共有できたことには重要な意義があると思います。

今後の方向性としては、労働組合を含めた「古い公共」である社会組織が、そのリソースを「新しい公共」との連携に生かしながら、社会基盤を形成できればいいと考えています。しかし、それに取り掛かる前に意識変革から始めないといけません。

─どのような意識変革でしょうか。

地域での活動が労働組合にとって有意義であり、重要な仕事だと認識してもらうことです。おそらく、労働組合役員の皆さんにとって、企業内労使関係の維持・発展が主要な仕事で、それ以外のことはプラスアルファと考える意識が依然として強いでしょう。たしかに、その役割が今後も減じることはありません。しかし、これからの労働組合の発展を考えるとそれだけでは不十分です。労使関係を良好な形で発展させるためにも、労働組合は企業以外の社会基盤の発展に寄与しなければなりません。

というのは、職場は社会から隔絶された「真空状態」の中にあるわけではなく、社会や地域の中にあるものだからです。社会や地域が持続可能でなければ、職場も持続不可能な状態に陥ります。企業内の労使関係と社会や地域との連携による社会基盤の形成は、車の両輪です。地域の活動はプラスアルファの活動ではなく、組織の重点課題として意識を切り替えてもらう必要があります。

─具体的にどのようなことをすればいいでしょうか。

具体的には、地方連合会や連合地区協議会の活動に積極的に関与してもらうことです。その活動の中で、連合が他の団体と交流する場所を設定するよう促すことがよいでしょう。さらに言えば、メーデーの機会を利用して、地域と交流する場にするのもいいと思います。

次のステップは、政策・制度要求の活用です。地方連合会などは、すでに地域の審議会や評議会などに多くの委員を出しています。これに積極的に参画すること。同じ人がいくつもの役回りを兼任せず、さまざまな人に積極的に参画してもらうことです。他の団体と交流することで知見が広がり、世界が変わります。

次に、政策・制度要求を地域のNPOなどと一緒に考えることです。連合埼玉はこうした取り組みをすでに始めています。連合は、自治体との太いパイプを持っていますが、NPOなどの「新しい公共」の社会組織は、既存の社会制度への組み込みが弱いのが弱点です。ボトムアップの活動をしているNPOなどと連携して政策・制度要求を組み立てることで、連合は地域との連携を強化できます。お互いにメリットがあります。

このように連合が持つ既存の枠組みを徐々に社会に開きながら、他の社会組織と連携を深めていくことが重要だと考えています。すでに具体的な行動を展開するステージに入っています。

─連携しやすい団体はありますか。

間違いなく連携しやすいのは、労使関係というつながりのある経営者団体です。これまでのように「取った取られた」の関係ではなく、地域活性化に向けて「原資」をどう増やすか、労使で考えていくべきです。その中でキーとなる存在が「商工会議所」や「中小企業団体中央会」だと考えています。経営者団体とともに、地域の産業や福祉などの未来を話し合うことがポイントです。さらには、「生協」や「農協」との連携も進めていくべきでしょう。

─今後、大切なことは何でしょうか。

労働組合は、このような社会基盤をつくるために、時代を先取りしたような要求を掲げてほしいと思います。例えば、組合員が社会や地域で活躍するために必要な労働条件を求める、ということをしてもいいと思います。ドイツの金属労組IGメタルは最近、週28時間労働制を要求しました。理由は、介護のためです。ライフスタイルが多様化する中で、働く人たちが望む働き方をどれほど実現できるかが企業にとっても重要になっています。働く人たちにとっても、自分たちが将来どのような人生を送りたいかをイメージできることが、ワーク・ライフ・バランスの実現にとって大切です。労働組合が次の時代の働き方を切り開く要求を示してほしいと思います。

連合総研『日本における社会基盤・社会組織のあり方に関する研究報告書』
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