トピックス2018.04

冠婚葬祭大手「ベルコ」で濫用される「個人請負」
「請負契約」を乱用した働かせ方を許すな

2018/04/16
冠婚葬祭業大手「ベルコ」に結成された全ベルコ労働組合の組合員が、労組結成を理由とした不当解雇や、ベルコとの使用従属関係などを巡って裁判で闘っている。政府が「個人請負」や「雇用によらない働き方」を推進する中、雇用されて働くとは何かを問い直す、重要な裁判になっている。

問題の経緯

業務委託契約の形式を整えさえすれば、企業は実質的に指揮命令を下していても、使用者としての責任を負わなくていいのか─。

政府が「雇用によらない働き方」を推進する中、全ベルコ労働組合の組合員が闘っている裁判は、業務委託契約が乱用された場合の先行ケースとして重要な意味を持ちそうだ。判決の内容によっては、労働法に守られない労働者が増えることにもなりかねない。

そもそも何が問題なのか。経緯を振り返っておこう。

冠婚葬祭大手ベルコの東札幌支社に属する手稲支部(代理店)に雇用されていた従業員らが2014年12月、組合結成の準備を始めた。この動きを察知したベルコは支部長(代理店長)に組合結成を阻止するように指示。主要メンバーの2人が翌年1月に連合北海道地域ユニオン加盟の組合結成に踏み切ると、ベルコは支部長(代理店長)との契約を解除。主要メンバー2人を排除して、他の労働者を新規支部長(代理店長)に雇用させた。

主要メンバーの2人は、2015年7月に不当労働行為や不当解雇などを巡って札幌地裁に提訴。同年6月に北海道労働委員会に救済を申し立てた。また、ベルコに契約解除された元支部長(代理店長)も、自らの労働者性などを巡って札幌地裁に提訴した。

業務委託契約を乱用するシステム

問題は、ベルコが業務委託契約を乱用し、使用者の責任を免れていることにある。ベルコの事業システムは、複雑かつ巧妙だ。ベルコ労組執行部の証言などから説明していこう。

ベルコが求人サイトに掲載している情報によると、ベルコの従業員数は7002人(2017年3月現在)。しかし、このうち正社員はわずか35人しかいない。残りの従業員はパートや業務委託だ。ベルコ内部で働き、支社長・支部長などの肩書きを持つ従業員であっても、ベルコとの契約は「業務委託契約」。「労働契約」ではないのだ。

一般企業における指揮命令の系統は、本社→支社→支部→従業員となる。実際、ベルコの事業システムも外見的にはこれと同じだ。

だが、ベルコの事業システムの複雑かつ巧妙なところは、それぞれの関係で業務委託契約が乱用されていることだ。図表のビジネスモデルを参照してほしい。本社と支社の関係は業務委託契約。本社と支部(代理店)の関係も業務委託契約だ。支社と支部(代理店)の関係にいたっては、何の契約関係もない。違和感を覚える人もいるだろうが、これがベルコの事業システムなのだ。

ベルコのビジネスモデル
業務委託契約の乱用により、巧妙に使用者責任を逃れている

一方、支部(代理店)と従業員の関係は労働契約だ。そのため、従業員の社会保険料などは支部(代理店)の支部長(代理店長)が負担する。今回の事例のように支部(代理店)に労働組合が結成されても、本社は支部(代理店)との業務委託契約を解消すれば、支部(代理店)は営業を続けられないため、労働組合も活動できなくなる。このようにベルコは、業務委託契約を乱用することで使用者の責任を免れている。

実際には指揮命令がある

ベルコの手法が悪質なのは、このような業務委託契約を乱用しておきながら、実際の業務においては、一般企業と同じような指揮命令の系統が存在していることだ。支部(代理店)の業務は支社によって細かく管理されていた。訴訟を起こした元支部長(代理店長)は、「裁量なんてほとんどなかった。何か一つするにも稟議書が必要だった」と証言する。支社は月ごとに会議のスケジュールを設定し、ノルマ達成率などを書かせる報告書を支部長(代理店長)に提出させていた。支部長には「人事異動」もあった。他の実態も含め、現場には、本社→支社→支部(代理店)→従業員という指揮命令の系統があったことは明らかだ。

副業も絡めた業務委託契約

業務委託契約の乱用はこればかりではない。ベルコには、冠婚部、葬祭部、営業部という部署がある。営業部は、ここまで説明してきた支部(代理店)のこと。葬祭部は葬儀を担当する部署だ。この中に、葬儀の運営を担う葬儀会館が属する。葬儀会館の館長は、ベルコと業務委託契約を結ぶ個人事業主という扱いだ。

複雑怪奇なのはここからだ。葬儀の際、ご遺体を寝台車で搬送するには、いわゆる「緑ナンバー」が必要となる。実は、葬儀会館の館長は、「さくら運輸」というベルコ関連会社の従業員でもある。葬儀会館の館長は、ベルコの業務を請け負いながら、「緑ナンバー」を持つ、さくら運輸の従業員として寝台車を運転する、ということだ。さらに館長は、さくら運輸の従業員に葬儀の業務を再委託という形で発注していた。

さくら運輸側の主張はこうだ。さくら運輸の従業員たちは、ご遺体を乗せた寝台車を運転している時間だけが労働時間で、その他の時間は、ベルコから業務委託を受けた個人事業主として働いている時間だというのだ。さくら運輸は副業を認めているので、ベルコから業務委託を受けても問題がない、と。

これに対して労働組合は、「さくら運輸」の就業規則に基づく、始業・終業・所定労働条件の明示を求めるなどしてきた。

ベルコの葬儀館長も、支部(代理店)の支部長(代理店長)と同じく、ベルコが細かく業務管理をしている実態がある。このように見ると、ベルコが業務委託と指揮命令を巧妙に使い分け、使用者の責任を回避してきたことがわかる。

裁判の争点

裁判の争点は、(1)支部(代理店)の元支部長(代理店長)が、ベルコの商業使用人であるか(2)仮に元支部長(代理店長)がベルコの商業使用人ではなくても、全ベルコ労組の高橋委員長ら支部(代理店)従業員とベルコの間で、黙示の労働契約が成立しているか─という二つだ。(1)において、元支部長(代理店長)がベルコの商業使用人である場合、高橋委員長ら支部(代理店)従業員もベルコの従業員ということになる。

原告代理人の淺野高宏弁護士は、こう解説する。

「今回の裁判でベルコの業務委託契約を乱用する手法が認められれば、契約書の形を整えさえすれば、企業は労働法の適用を受けなくても済むようになります。ノルマを課して長時間労働をさせることも、解雇という言葉を使わず契約を解除することも簡単にできてしまう」

「ベルコの場合、どの角度から見ても実態は雇用です。それを業務委託契約という形式に書き換えています。これでは雇用が雇用ではなくなってしまう。もっと根源的に言えば、雇用されて働くとは何か、労働者とは何かという問いをこの事件は突きつけています」

全ベルコ労組の高橋委員長は「組合を立ち上げたのは、あくまで職場の働き方を改善して、良好な労使関係を築くためです。私はこの仕事を人の最期を見守る大切な仕事だと思って、一生懸命働いてきました。ベルコの手法は葬儀業界にまん延しています。業界のあり方を見直すべき時期に来ています」と訴える。

今年3月9日、札幌地裁で全ベルコ労組の組合員が起こした裁判の証人尋問が行われた。原告側の証人は、自分たちがベルコの従業員であると主張した。裁判は6月に結審し、8〜9月にも判決が出る見通しだ。労働委員会も4月と5月に審問を行い、夏には判断を下す見込み。連合は、「全ベルコ労働組合裁判闘争支援対策チーム」を発足させ支援している。政府が「雇用によらない働き方」の議論を進める中、ぜひ注目してほしい。

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