「平和四行動」に向けていま知っておきたいこと核兵器は「悪」である
核兵器禁止条約の歴史的意義とは
CAN国際運営委員
かわさき・あきら ピースボート共同代表。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員。著書に『新版 核兵器を禁止する 条約が世界を変える』岩波ブックレットなど。ICANは2017年、ノーベル平和賞を受賞した。
歴史的な条約
核兵器禁止条約は、史上初めて核兵器を完全な形で禁止し、その廃絶への道筋を示した、歴史的な条約です。
核兵器に関する条約はこれまでにもありました。例えば、核兵器不拡散条約(NPT)や包括的核実験禁止条約(CTBT)です。しかし、これらの条約は、核兵器を部分的にしか禁止していません。NPTは、核兵器保有国を認め、CTBTは核実験を禁止するものの核兵器の保有や使用を禁止していません。
これに対して核兵器禁止条約は、核兵器そのものを「悪」とし、国際人道法違反だとして、いかなる場合も例外なく核兵器の保有・使用・威嚇などを禁止するものです。条約は、核兵器を廃絶する道筋も示しました。核兵器禁止が明確な形で国際法の中に位置付けられた画期的な条約です。
さらに、この条約の意義は、被爆者の声が条文にしっかりと刻まれたことにあります。条約は、被爆者の苦しみがあったから、核兵器は違法であると論理立てられています。いわば、被爆者の声が核兵器禁止条約の土台をつくったと言えます。
日本が批准するには?
条約は成立しましたが、現時点で条約は発効していません。条約が発効するためには50カ国以上の批准が必要です。現在7カ国が批准しています。条約の成立には122カ国が賛成し、その後58カ国が署名しています(2018年4月現在)。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)では、条約発効に向けて各国への働き掛けを強めています。
日本がこの条約を仮に批准する場合、次のことが問題になります。核兵器禁止条約には、条約で禁止された行為をいかなる場合でも援助・奨励してはならないと書かれています。日本政府は、アメリカの「核の傘」に守られているという立場です。これは、核兵器の使用や威嚇を援助・奨励していることになります。ここが最大の問題です。アメリカとの同盟関係を維持しながらも、アメリカが核兵器を用いる行為は決して援助・奨励しないと宣言することは可能です。実際、地雷禁止条約では同様の対応を取っています。
核兵器保有国へのアプローチ
核兵器保有国が条約にすぐ加わらないことは私たちも織り込み済みです。保有国が批准しない条約にどんな意味があるのかという疑問もあるでしょう。確かに、条約は批准した国に法的拘束力を及ぼします。しかし、条約の効果はそれだけではありません。条約には第一義的に規範をつくるという効果があります。
NPTは、「5大国」に核兵器の保有を認めています。核兵器の保有は、いわば「大国の証」であり、「力の象徴」です。当然、それと同じものを持ちたいという国が出てきます。北朝鮮はその一つです。
一方、核兵器禁止条約は、核兵器を極めて悪質で、むごたらしい、非人道的な兵器だと位置付けました。核兵器は「力の象徴」から「恥の象徴」へと認識が変わりました。そのため核兵器保有国は、その正当性を叫ばざるを得なくなっています。核兵器保有国が追い詰められている証左です。
経済的なアプローチ
ICANでは、核兵器保有国への経済的なアプローチも進めています。核兵器禁止条約が成立した今、核兵器は非人道的な兵器になりました。核兵器に融資したり、援助したりすることは非人道的な行為です。こうしたアプローチでICANは金融機関に質問状を送るなど、働き掛けを強めています。世界329の銀行が合計55兆円を核兵器製造会社20社に提供していることが今年3月に判明しました。このうち日本では七つの銀行が2兆円を融資していることがわかりました。
核兵器への融資は許されない行為だという言論が効果を持ち始めています。核兵器の維持は高コストで、社会的理解も得にくい。使用されれば、指導者は糾弾され、逮捕・投獄される可能性もあります。核兵器の保持・使用を取り巻く環境は外堀を埋められつつあります。
核兵器禁止条約を通じて、核兵器が「悪」だという認識が世界でもようやく常識になったと感じています。世界ではこれまで、生物兵器や化学兵器、地雷などを非人道的な兵器として禁止する条約がつくられてきました。核兵器がここに加わったのです。
残念な日本政府の対応
日本政府の対応は非常に残念です。核兵器禁止条約の交渉にも参加せず、署名・批准しないことも明言しています。日本政府は、核兵器による抑止力が日本の安全保障に不可欠だと主張しています。核抑止力とは核兵器の使用を前提とした考え方です。広島・長崎の惨劇を繰り返してはいけないと言っている国が、核兵器の使用を前提とした政策をとるのは矛盾しています。
一方、北朝鮮は、自衛のための核兵器保有を正当化してきました。核抑止力が国の安全に不可欠だという主張は、北朝鮮も日本もまるで同じです。日本が北朝鮮に非核化を求める根拠は、本来「核兵器で国を守ることは間違っている」ということだったはずです。
すべての国が自国の生存のために核兵器が必要だと主張すれば、世界に核兵器があふれてしまいます。その危険性は、アメリカの銃社会を例に取れば、日本の皆さんはわかるはずです。私は、日本と韓国、北朝鮮が核兵器禁止条約を批准した方が、北東アジアの安全は高まると考えています。
条約はなぜ成立できた?
「無理」だと言われた核兵器禁止条約が成立した背景には、体力を振り絞って世界中で発信を続けた被爆者たちの力があります。
2007年にできたICANは、さまざまな人や組織の「つなぎ役」になりました。被爆者とNGO、各国の政府、国際赤十字など、さまざまな対話のプラットフォームとして機能しました。参加する組織や個人が同じ目標に向かって、それぞれの特徴を生かして活動し、それをICANがコーディネートできたことが良かったと思います。
政府に異論を唱える人はどの国でも少数派で、国家の壁を打ち破るのは難しいです。でも、国家の外に出ると必ず「仲間」がいます。私もオーストリアやメキシコの外交官にずいぶん助けられました。各国の事情は異なりますが、その中でも共通する課題は必ずあります。その仲間と一緒に国際ルールをつくって、それを国内に持ち帰る。他の運動でも、国際ネットワークの構築は役に立つはずです。
運動の目標を高く掲げすぎないことも大切です。核兵器禁止条約は、核兵器廃絶や恒久平和実現といった大目標の小さな一歩に過ぎません。具体的で低めの目標を設定することで仲間を増やすことができます。それもこの条約の成立から学べる大事な教訓ではないでしょうか。
核兵器は「悪」である
皆さんには、核兵器は「悪」であるという認識を共通の理解にしてもらいたい。これに尽きます。被爆者の数が少なくなり、核兵器が「悪」であるという認識が薄くなりつつあるのではないかと懸念しています。
核兵器禁止条約も、核兵器が「悪」であるという認識をつくる運動の一環です。その運動の先頭に立つべきなのが、広島・長崎を知る私たち日本の市民です。被爆者に代わって、核兵器廃絶を訴えていくときに、核兵器は「悪」であると胸を張って言い切れますか。そう問い掛けながら、平和行動に参加したり、平和について考えたりしてほしいと思います。