特集2018.05

「平和四行動」に向けていま知っておきたいこと沖縄の基地の間違ったうわさはなぜ広がるのか

2018/05/16
沖縄の海兵隊が中国から日本を守ってくれる。中国が基地反対運動にかかわっている。こんなうわさがインターネット上にはある。間違ったうわさはなぜ広がってしまうのだろうか。うわさを検証する佐藤教授に聞いた。
佐藤 学 沖縄国際大学教授

米軍が尖閣を守る?

尖閣諸島を守るために海兵隊が沖縄にいる。辺野古に基地がないと中国に対する抑止力がなくなる。辺野古に基地を造らないと中国が有利になる。だから中国が基地反対運動にかかわっている。

こんなうわさがインターネット上にはあります。うわさを信じる人もいます。でも、これは誤りです。

2015年の日米合意は、尖閣諸島を一次的に守るのは自衛隊であると明記しています。また、元自衛艦隊司令官の香田洋二氏は昨年8月、朝日新聞のインタビューに対し、「(尖閣)現場の作戦に米軍が参加すると思っている自衛隊幹部は皆無でしょう」と答えています。記事では、実際に尖閣を防備するのは自衛隊の役割で、米軍の任務は中国本土への打撃だと述べています。

尖閣諸島が攻められたら、米軍のオスプレイが飛んで行って戦ってくれる。そう信じている人もいます。これも同じように誤りです。「ヒゲの隊長」として有名な佐藤正久・現外務副大臣は昨年2月25日の朝日新聞(西部版)の記事で、オスプレイは「弾の飛び交う中には行きません。下から撃たれたら終わりだし」と答えています。オスプレイは輸送機なので甲板が薄く、銃撃に耐えられません。実際、オスプレイは南スーダンで市民救出の際にゲリラに手持ちの小火器で攻撃され、乗組員が負傷し、引き返したという事実があります。

オスプレイは海兵隊の部隊を訓練場に運ぶための「通勤バス」に過ぎません。航空機と地上部隊を運用する際、海兵隊は強襲揚陸艦を使います。けれども、強襲揚陸艦は沖縄から800キロ離れた佐世保にあります。

このように冒頭のうわさは、根拠のない期待に過ぎません。それでも、辺野古に基地を造れば米軍が尖閣諸島を守ってくれると信じる人がいます。事実で反論しても聞く耳を持ってくれません。知りたくない話なのかもしれません。

辺野古と普天間の距離

本当の意味で抑止力になっているのは、嘉手納基地です。沖縄県は、嘉手納基地をなくせとまでは言っていません。これも県外の人には理解されていません。

嘉手納基地の面積は、弾薬庫も含めると、それだけで県外にある兵器や兵士が駐留する6カ所の米軍基地の合計面積の1.2倍の大きさになります。これだけでも重い負担です。

また、普天間基地と辺野古の直線距離は36キロ。これは京王新宿駅と京王八王子駅の路線長しかありません。沖縄本島と札幌市の面積はほぼ同じ大きさです。普天間から辺野古に基地を移すということは、札幌市内にあった基地を市内の別の場所に移すようなものです。沖縄は小さな島です。そういうスケール感で見てください。

沖縄振興予算のデマ

「沖縄振興予算」は基地と引き換えに受け取っているといううわさもまったくの誤りです。国は1972年、沖縄の本土復帰の際、沖縄振興特別措置法という法律をつくりました。これは、沖縄県と各省庁の予算折衝を一括して行うための仕組みです。沖縄は戦後復興が遅れたため、インフラ整備を国が責任を持って行うことになりました。そのため関連予算を一括して計上する仕組みがつくられました。だから、この予算は基地との引き換えではありません。他の県は省庁ごとにそれぞれ予算折衝しています。沖縄の場合はそれが「沖縄振興予算」として一括で計上されているだけです。沖縄の新聞は「沖縄振興予算」と呼ばず、「沖縄予算」と呼ぶようになりました。

沖縄県への国からの財政移転(国庫支出金+地方交付税交付金)は、全国12位。さらに沖縄県の人口一人当たりの国からの財政移転(国庫支出金+地方交付税交付金)は全国5位です。沖縄より財政移転が多い県もあります。

沖縄の経済に占める基地関連収入は2014年度で5.7%です。1972年の15.5%から大きく減っています。沖縄の観光業は好調で、基地が経済成長を阻害しているという指摘があります。一方、有効求人倍率は戦後初めて1倍を超えたものの、非正規雇用率が高く、低賃金の仕事が多いという実態もあります。こうした中で、地域の自治体は目の前の補助金があればほしいというのが現実です。

間違ったうわさはなぜ広がる?

間違ったうわさはなぜ広がるのでしょうか。人々が信じたいことしか見ないからではないでしょうか。知りたいことしか見ないから、それ以外の情報は嘘だと思う。都合の悪い情報はむしろ敵視する傾向すらあります。沖縄に基地を押し付けておきたい人にとって、間違ったうわさは自分の意見を補強するための道具なのです。

私のゼミにはインターネット上のデマを検証するグループがあります。昨年、そのグループが、琉球新報が掲載した嘉手納以南の基地返還後の経済効果の数字(県発表)はデマであると報告しました。論拠を聞くと、ある大学の卒業論文でした。その卒業論文は、インターネット上の匿名のブログを引用している、根拠の不明確なものでした。

そのグループは次に、辺野古で反対運動をしている人たちのことを調べました。最初はインターネットの情報を基に報告してきました。でもその後、別のグループに促されて、実際に辺野古に足を運びました。すると自分たちがインターネット上で調べたことと正反対の現状があることを知りました。

自分たちの知りたくないことは目に入らない。学生たちの事例からは、こうしたことがわかります。異なる情報に目を向けてもらうには、現場に足を運んでもらったり、時間をかけて議論をしたりする労力が必要です。数人の学生と議論するだけでも大変です。インターネット上のデマを正すのには膨大な労力が求められることがわかります。

問題を見たくない人々

在日米軍基地問題を沖縄の問題として見ている限り、本当の問題は見えてきません。日米安全保障条約も地位協定も沖縄だけの話ではありません。でも、沖縄県外の人たちはその問題を見ないようにしているように私には見えます。

東京大学の金井利之教授が今年、『行政学講義』(ちくま新書)という本を出版しました。金井教授はこの中で、「日本はアメリカの『自治領土』である」と規定しました。ショッキングな指摘ですが、話題になっていません。日本の皆さんは、それでも仕方ないと思っているのでしょうか。それとも、自分たちの立場を直視したくないから、見ないようにしているのでしょうか。間違ったうわさが広がることは、こうした現状を見たくないからなのかもしれません。

自分の目に入る情報が本当に正しいのか調べてみることは、基地問題に限らず重要です。間違ったうわさを正していく作業には労力がかかりますが、地道に発信していくしかありません。

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