特集2018.05

「平和四行動」に向けていま知っておきたいこと朝鮮半島の非核化へ合意の積み重ねが大切

2018/05/16
米朝首脳会談が予定されている。朝鮮半島の非核化に向けたポイントは何か。日本はどのような対応をすべきか。識者に聞いた。
遠藤 誠治 成蹊大学法学部教授(国際政治学)

どっちつかずの日本

日本政府は自国の安全保障をアメリカの核抑止力に依存する政策を取っている。国民の中にも、アメリカの核抑止力が必要と考える人は少なくない。

一方、国民の多くは、日本が核兵器を自前で持つべきではないと考えている。過去の戦争と被爆の経験を踏まえて、大量殺りくを可能にする核兵器は、使用はもとより保有も倫理的に認められないと、多くの人が捉えている。

つまり、これまでの日本では、アメリカの核抑止力への依存と、核兵器の不保有をセットにした政策を取ってきた。そのため日本政府の行動は、一面において、国民の中にある反核の姿勢を対外的に採用せず、はっきりしないものであった。他方で、この姿勢の中に肯定できるものがあるとしたら、少なくとも、日本は核兵器を持たないという態度は貫いてきた。日本が核兵器を持てば、周辺諸国は核保有に踏み切るであろう。それを考えると、東アジアでの核拡散の引き金にならないことには、それなりに意味があった。

そして日本は、自分たちが攻撃されなければ相手を攻撃しないし、そのための武器も持たないという姿勢を貫いてきた。日本のこうした「専守防衛」政策は東アジアの安全に貢献してきたと言える。

安倍政権の路線転換

しかし、安倍政権になって、この「専守防衛」に大きな変化が生じている。安倍政権は安保法制を成立させ、集団的自衛権を「部分的」に認めるとした。

そして、昨年11月には、北朝鮮の核危機が深まる中で、アメリカの三つの空母打撃群が日本海に展開し、自衛隊と合同軍事演習も行った。この軍事演習は、明らかに北朝鮮を念頭に置いたものだった。これは安倍首相がよく言う「最大限の圧力」の重要な一部分だ。

だが、軍事演習は、相手に脅威を与えたり、威嚇したりする行為に他ならない。戦争の準備をして相手を牽制するのが軍事演習だ。しかし、日本国憲法9条は、「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と定めている。特定の国に対して、あからさまに威嚇となる軍事演習を行うのは、憲法違反の行為ではないだろうか。安倍政権は、アメリカの核抑止力に頼る範囲を超えて、他国への威嚇に積極的に加担する姿勢を強めている。そして、国民の間でも、それがおかしいと感じる感性が鈍ってきている。

さらに防衛省は、「いずも」型護衛艦をF35B戦闘機が発着できる「空母」に改修しようとしている。政府はこれまで攻撃型空母を自衛隊が保有することは許されないとしてきた。専守防衛の範囲を超えるためだ。自衛隊は、空母化を行うのは米軍の後方支援のためだといっているが、このことは、集団的自衛権行使は「部分的」だという歯止めがますます曖昧になっていることを示している。

こうした路線転換の正当化に、北朝鮮の核の脅威が使われている。だからこそ、日本がこれまでのように東アジアの安定に貢献し続けるためには、当面、北朝鮮の核の脅威を平和的な方法で解消していくことが大きな課題となる。

蚊帳の外に置かれた日本

安倍政権は北朝鮮にどう向き合ってきたか。安倍政権は、北朝鮮に最大限の圧力を掛け続け、北朝鮮が方針転換するまで交渉もしないという方針を取ってきた。トランプ大統領に対しても、冷静な対応を求めることはせず、圧力の強化ばかり訴えてきた。安倍政権のこうした姿勢に対し、アメリカの識者の一部からすら、戦争の可能性を高めるだけで、問題を解決しようとはしていないとの指摘もみられた。つまり、安倍政権の下での日本の政策が不安定化要因になっているという指摘だ。重く受け止めるべきであろう。

南北首脳会談や米朝首脳会談へ向けた動きは、日本の圧力一辺倒とは異なる方法によって可能になった。金正恩政権になって、北朝鮮の平壌周辺の人々の暮らしは、悪化していない、むしろ市場経済の要素が取り入れられ、生活水準が上がったとも言われている。国連の経済制裁が効果を上げ、北朝鮮の金体制が倒れるということは起こりそうにない。短期的には、韓国の文政権のやや前のめりともみえる対北朝鮮政策が、北朝鮮からの積極的な交渉姿勢を引き出す上で効果的であった。この間、日本は蚊帳の外に置かれてきた。

合意の積み上げが重要

すでに南北首脳会談が開かれ、米朝首脳会談に向けて非常によい雰囲気が作られた。朝鮮半島の非核化、完全な核放棄などが、具体的に何を意味しているのかはまだわからないが、南北の首脳が戦争を起こさず、緊張を緩和していくという方向を示したことで、引き続き時間をかけた交渉を行うという了解は作られた。

他方、報道によるとアメリカは、非核化や国交樹立、経済援助などをパッケージとして、さまざまな問題を一気に解決したいと考えているようだ。私は、この点に懸念を感じている。

過去の経緯を見ても、米朝はお互いを信じていない。信じていない者同士が1回の会談を行っただけで、互いに相手を十分信用できるようになる、ということは起こりそうにない。画期的ではなくとも、可能なところから合意を少しずつ積み上げ、履行を確認しながら、信頼を醸成し、核放棄を確実なものとする方が良いのではないか。その方が、平和を維持する仕組みが安定して築かれるからだ。

懸念の源はトランプ大統領の予測可能性の低さだ。米朝首脳会談で思っていたような成果が上がらない場合にトランプ大統領が示す反応には予想が付かない。アメリカ側が態度を突然硬化させ、緊張が一気に高まる可能性も残されている。

他方で、北朝鮮は、米朝会談に備えて、韓国以外にも、中国やロシアとも交渉を重ねている。米朝会談が不調に終わった場合でも、中国やロシアの保証を得ておこうというリスクヘッジ外交だ。そうなると、国連での経済制裁にもほころびが生じるかもしれない。

長い目で見る

東アジア諸国間の相互不信は70年間にわたって積み重なってきた。それを克服するのは容易ではない。朝鮮半島の非核化には10年単位の長い時間がかかるというくらいの心構えが必要だろう。

その間、日本に期待されるのは、信頼関係が醸成しやすい環境を作り出すことだ。そのためにも、日本が「専守防衛」路線をしっかり守ることが大切だ。圧力強化と軍拡の安倍政権とは真逆の方向性だが、安定した東アジアを作り出すために、私たち市民にも果たすべき役割があるということだ。

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