トピックス2018.05

安倍政権下で民主主義が危機に
安保法制では自衛隊の活動に歯止めかからず

2018/05/16
4月18日、情報労連の役員約100人が集まる会議で、横路孝弘・元衆議院議長による講演が行われた。テーマは「憲法」。講演の概要を紹介する。
横路 孝弘 元衆議院議長

戦争を知らないリーダー

国会議員時代、佐藤、田中、三木、福田、大平などの総理大臣に質問してきました。彼らは戦争経験者で、戦争を二度と行わないという強い信念を持っていました。後藤田正晴さんは官房長官時代、私にこう言いました。「戦争を知っている世代がいるうちは自民党は問題ない。戦争を知らないリーダーが出てきたら何が起きるかわからない」。そのことをいま思い出しています。

歴代の総理大臣は就任後、「自民党は改憲を党是としています。しかし、私の内閣では憲法改正はしない」。こう言ってきました。けれども、安倍首相はそれを言わないどころか、憲法を変えたいと言ってはばからない。憲法99条は、国務大臣や国会議員などの憲法尊重義務を定めています。安倍さんが憲法改正の内容や時期に言及するのを見ると、憲法のことを本当に知らないのだと思います。

日本国憲法の先進性

日本国憲法は、世界で5番目くらいに短い憲法です。国会の統治機構にかかわる部分などを、法律で定めるとしているためです。

日本国憲法のもう一つの特徴は、一度も改正されたことがない憲法としては世界で最も古い憲法であることです。

けれども、日本国憲法はいまも先進的な憲法です。アメリカの法学者たちが世界の憲法をデータ化して分析しました。その結果、日本国憲法は、団結権や女性の権利、移動の自由など基本的人権の規定を数多く明文化していることがわかりました(朝日新聞2012年5月3日付参照)。日本国憲法は古くて、先進的な憲法です。

世論調査では、憲法改正に賛成と答える人の割合は多いです。ただ、どこをどう変えるのかを示して賛否を聞けば、回答は変わってきます。日本国憲法の先進性などを知ってもらえれば、さらに答えは変わってくるでしょう。

基本的人権を守る

憲法は、ライオンを閉じ込める檻に例えられます。権力者がライオンで、憲法が檻です。権力者が、人々の基本的人権を侵害する危険があるので、憲法で権力者を監視しておくのです。これが立憲主義の基本です。

日本国憲法97条を見てください。この条文は、基本的人権を侵すことのできない永久の権利として定めています。

日本国憲法 第97条

この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

基本的人権が守られるためには、独裁ではなく、民主主義が必要です。戦争ではなく、平和でなくてはなりません。そのために日本国憲法は三権分立を定め、民主主義を機能させています。特に前文や9条は、平和的生存権を規定しています。

三権分立のほかにも民主主義をチェックする仕組みはあります。例えば、日本銀行、公共放送であるNHK、内閣法制局などがそれに当たります。しかし、現状を見てください。日本銀行の人事は「アベノミクス」に賛成の人ばかりになりました。内閣法制局も憲法解釈を簡単に変えてしまいました。NHKの経営委員に日本の侵略戦争を否定する人が就任したこともありました。民主主義を機能させる重要な機関の人事を安倍政権が握ることで、憲法が危険にさらされています。

情報公開も民主主義に欠かせない機能です。しかし、「文書がない」「記憶にない」「確認できない」。安倍政権下でこの機能がボロボロになっています。

基本的人権は、人々の闘いの歴史の上に成り立っています。そのことを思い出す必要があります。

安保法制で変わったこと

安倍政権は安保法制を成立させ、集団的自衛権の行使を認めました。これまでの憲法解釈では、日本が自衛権を行使するには、自国に対する急迫不正の侵害があることが第一条件でした。それが、安保法制によって、他国への武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされる場合も含まれるようになりました。自国ではなく、他国に対する武力攻撃でも、自衛権の発動を認める場合ができたということです。

集団的自衛権がこれまで行使されてきたケースを見てみましょう。過去のケースは、大国が自国の利益を守るために行使するケースがほとんどでした。例えば、アメリカは、ベトナム戦争に介入した際に集団的自衛権の行使を主張しました。この事例のように、集団的自衛権は、大国が自国のために起こした戦争の正当化の理由にも使われることに注意が必要です。

安保法制のポイントを見ていきましょう。

重要影響事態法は、日本の平和に深刻な影響を与える事態が起きたときに、他国軍を後方支援できるようにする法律です。日本周辺に限っていた「周辺事態」に代わり、世界中で自衛隊が活動することが可能になりました。

国際平和支援法は、国際社会の平和と安全などの目的を掲げて他国軍が戦争している際、「現に戦闘が行われている場所」以外で他国軍を後方支援できるようにする法律です。

武器等防護は、自国の「武器」が破壊・奪取されることを防ぐため、武器使用を認める自衛隊法の規定です。安倍政権はこれを、他国軍の武器の防護まで可能とするよう自衛隊法を改正しました。

安保法制は、世界のあらゆる形の戦争に自衛隊が派遣されることを認める法律です。安倍政権は、自衛隊が戦争に巻き込まれることはないと答弁しました。しかし、そうではないことは明らかです。

自民党の9条改憲案

自民党の憲法改正推進本部は、9条2項を維持して、「(2項は)必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織」と自衛隊を位置付ける案を軸にしています。「必要最小限度の実力組織」という表現も削除されました。先述した集団的自衛権の行使容認と合わせて、自衛権の名のもとに自衛隊の活動範囲が歯止めなく広がる懸念があります。安倍政権の狙いはここにあります。

憲法に自衛隊が明記されると、財政上のコントロールが利きづらくなる懸念もあります。自衛隊が憲法上に明記された組織になれば、国会や財務省でのチェックが利きづらくなります。防衛予算がさらに増える懸念があります。

護憲的改憲論という意見があります。私は、それならば、国家安全保障法をつくって、専守防衛や防衛予算の上限などを定めればいいと考えています。

日本の安全保障のために

日本の安全保障のためには、軍事力の規制とともに経済交流を含めた相互依存体制を構築することが大切です。フランスとドイツはヨーロッパの安定のために民間交流をはじめとした相互依存体制をつくってきました。

西ドイツのワイツゼッカー大統領は、1985年に「過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目になる」という有名な演説を行いました。日本が太平洋戦争に突入したとき、日本は石油の90%をアメリカから輸入していました。日本はそれでもアメリカと戦争しました。無理だとわかっても戦争に突入し、他国を侵略し、自国に壊滅的なダメージを与えました。当時の指導層は、自分たちの現状を直視していませんでした。現在の安倍政権も現状を直視できていないと思います。

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