トピックス2018.08-09

基本的人権が守られる
グローバル経済システムに転換を

2018/08/10
4年に一度のUNI世界大会が開催された。世界113カ国523組織、956人の代議員・オブザーバーが参加。日本からは16組織87人(うち情報労連8人)が参加した。グローバル経済を巡る問題などについて活発な意見が交わされた。
齋藤 久子 情報労連中央執行委員(政策局)

4年に一度のUNI世界大会

UNIは、世界のサービス産業で働く労働者を組織するグローバルユニオンであり、世界150カ国、900組織、2000万人以上が加盟している。UNIでは、4年に1回、加盟組織の代表が一堂に会する最高意思決定機関としてUNI世界大会を開催しており、規約の改定や次期大会までの行動計画の決定、役員選挙等が行われるとともに、基調講演や議論を通じ、参加者が相互の政策や活動を示唆し合う場ともなっている。

今年6月17~20日に、英国・リバプールで第5回UNI世界大会が開催され、10の議題に対して熱心な議論が行われた。本稿では、特徴的なトピックに絞ってその模様を報告したい。

英国労働党コービン党首のスピーチ

UNI世界大会開会式の来賓あいさつでは、英国労働党党首のジェレミー・コービン氏が登壇した。コービン氏は、排外的なナショナリズムの高まりや気候変動、難民の窮状、軍事力の行き過ぎた使用、世界におけるとてつもない格差など、人類に対する脅威を挙げ、「国際労働運動は、これらに対抗する代替策として国際協調のビジョンを各国に働き掛けていかなければならない」と訴え掛け、会場全体が共感を深めた。

来賓としてあいさつした英国労働党のコービン党首

労働組合が示すべきビジョンとは?

「持続可能なグローバル経済のための労働組合」の議題においては、既存のグローバル経済が一部の富裕層や権力者のみが得をするシステムとなっていることに対し、すべての人に公平で持続可能な経済へと変革していくことが急務であり、それを担うのはグローバルな労働運動である、という提起がなされた。

世界では、10人に1人が1日2ドル以下で暮らし、世界で最も豊かな米国でも、530万人が絶対的貧困状態にある一方、1%の富裕層が全世界の人類の99%の富を所有している。このように、一部の人に富が著しく偏るということは、経営者や高所得者など、富を持つものが経済と政治のシステムを恣意的に操作可能になるということであり、労働組合の掲げる民主主義と基本的人権にとって、脅威である。

このような脅威にあらがい、持続可能なグローバル経済を実現するためには、経済的利益のみを追求するのではなく、人や環境を中心に据えた包括的な経済ビジョンが必要である。労働組合こそが、そのビジョンを提示する役割を担っており、具体的には、(1)良質な雇用の創出(2)化石燃料から再生可能エネルギーへの移行を通じた気候変動の抑制(3)人と環境を中心に据えた新たな貿易・投資モデルの構築─などを遂行するプラットフォームとして機能しなくてはならない。

税制や貿易協定、環境問題への対応

それでは、既存のグローバル経済システムから転換を図る可能性はどこにあるのだろうか。

世界大会では、労働者の賃上げを勝ち取り、経営者と労働者の間の報酬の配分における偏りを是正していく、あるいは、環境への負荷を減らすために気候変動の抑制を労働組合が主体的に呼び掛け、組合員に対する研修を行う─など、各地域での地道な取り組みが報告された。

加えて議論されたのは、社会をより公平にし、格差拡大に歯止めを掛けるためには、労働組合の立場から税制のあり方をチェックする必要がある、ということである。グローバル企業の中には、税率の低い国や地域に利益を人為的に移行させることによって租税回避を行っている企業もあり、その結果、本来は公共インフラの財源となるはずの税金が支払われない、という事象が生じている。労働組合は、富裕層や企業への累進課税を図り、公共インフラや公益へ適正な投資が行われるよう、法整備等に向け、働き掛けていかなければならない。

また、グローバルな貿易協定についても、労働者の声を反映していくことが重要との主張もなされた。残念ながら、貿易協定の交渉は政府高官を中心に非公開で行われており、貿易協定によって貧困や格差、環境にどのような影響が起こり得るのかが十分に示されていない状況である。貿易協定には、関税のルールと同様に、基本的人権や労働、環境についてもルールが設けられるべきであり、それなくしては、グローバル化の負の側面である貧困や格差の拡大、人為的な気候変動が加速してしまう可能性もある。貿易協定に労働や環境に関する条項が盛り込まれ、それらが最優先事項として扱われるよう、労働組合が主体的に貿易協定の内容をモニタリングしていくことも求められる。

労働組合と労働の未来

「労働組合と労働の未来」の議題においては、ILO事務局長ガイ・ライダー氏が基調講演を行い、「デジタル化の進展は、労働者や社会全体に多大な影響を及ぼすことが懸念されているが、労働組合は、労働者が望む労働の未来を形成できるよう、デジタル革新におけるイニシアチブを取り、その中心的な役割を担わなくてはならない。さもなければ、われわれが過去に勝ち取ってきた労働者の権利、包摂性、社会正義、持続可能な民主的な社会は、将来、その居場所を失うだろう」と訴えた。その後の議論では、このデジタル化が進展する社会において、労働組合が取り組むべき課題について議論された。ここでは、UNIの取り組みの一端を紹介したい。

UNIの主張は、データの価値や重要性はますます増しており、労働者は今まで以上に企業によるデータ収集や自身のプライバシー保護に注意を払う必要がある、ということである。私たちは、ソーシャルメディアを利用したり、インターネットを利用したりして買い物をするたびに、あるいはGPSを使うたびに、データの痕跡を残している。フェイスブック・ケンブリッジアナリティカ事件※によって明らかになったように、それらのデータは企業に収集・分析され、世論操作に使われるなど、利用者の意図せぬことに利用されている可能性もある。そしてそれは、職場においても起こり得る。UNIでは、労働者のデータが収集され、採用や人事評価にますます活用される向きもあることから、個人データの扱いに一定のルールを課すよう取り組んでいる。

その他、デジタル経済の中で急成長を遂げているアマゾンの事業モデルについても取り上げられ、その目を見張る成功とは裏腹に、同社の物流倉庫で働く労働者が、低賃金や劣悪な労働条件の下、不当な扱いを受けていることに抗議し、会場全体でレッドカードを掲げるという一幕もあった。

スピーチする情報労連の野田委員長

情報労連は、UNI世界大会で示された視点を取り入れつつ、第4次産業革命が労働に与える影響に対して労働組合としてどのように対峙し、どのような政策課題に取り組むべきかなどについて検討を進め、今後の政策策定へとつなげていく。


※フェイスブック・ケンブリッジアナリティカ事件
フェイスブックが収集するユーザーデータの一部が研究者を通じて英国企業ケンブリッジ・アナリティカ社に不適切に共有され、政治的利用をされていたとされる事件

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