社会とつながる労働組合運動視覚障害児のクライミングスクール
ボランティアとの触れ合いが成長の糧に
運動不足の解消
「最初は11時、次は1時ね」「それ!それをつかんで!」「持ち替えて、ぐっと上がる」「ガンバ!」「ナイス!」
平塚盲学校の体育館に大きな声が響き渡る。視覚障害児向けのクライミングスクール「グランぺ」の活動の一場面だ。
「グランぺ」とは、フランス語で「登る(grinper)」という意味。神奈川県の公立盲学校などに通う視覚障害児の保護者たちが2013年に立ち上げた。視覚障害には、障害の特性上、行動範囲が狭くなり、十分な運動量を確保しづらいという問題がある。「グランぺ」はそうした運動不足を解消しようと設立された。現在は土日を中心に月1回のスクール、年に3回は屋外の岸壁でスクールを実施している。小学生から社会人まで18人がメンバー登録している。
活動のきっかけは、視覚障害者向けにクライミングスクールを開催しているNPO法人「モンキーマジック」のスクールに「グランペ」の立ち上げに携わったメンバーが参加したこと。「モンキーマジック」の小林幸一郎代表(視覚障害のあるクラスのクライミング世界選手権で3連覇中)の指導・協力を得て、地元で活動できる「グランぺ」を立ち上げた。
考えるクセづくり
「グランぺ」には、視覚の単一障害の人だけではなく、視覚と知的などの重複障害のある人も参加している。最近では、視覚単一の障害だと学校の部活動なども盛んで、運動する場所に困ることは少ない。ただ、知的障害などの重複障害があると単一障害の場合と比較して活動場所などに大きな違いが出てしまう。クライミングはこうした問題にも対処できる。「クライミングには、それぞれのスキルにあった運動を、同じ場所・時間を共有しながら参加できる長所があります」と保護者の一人・石原史美さんは話す。
子どもたちがクライミングに挑戦する際、ボランティアで参加する「ビレイヤー」(安全ロープを出し入れする人)が、次の「ホールド」の位置を冒頭の場面のように大声で子どもに伝える。これが子どもとの間でのコミュニケーションになる。「グランぺ」では、「ビレイヤー」をボランティアに任せている。保護者とは違う一般の人と触れ合うことが狙いだ。石原さんは、「重複障害のある子どもたちは、『先生』と呼ばれる大人たちに囲まれて育ってきたので、一般の大人の人たちも『先生』と呼ぶことが多いです。『先生』と呼ばない家族以外の人と出会ってほしいという気持ちでボランティアの人たちに任せています」と話す。保護者の一人・杉山香織さんは「うちの子も人と話すことに慣れて、すごく成長しました。社会に出たときに困ったことを人に相談できる力が備わるきっかけになります」と話す。
「グランぺ」の目的は、「カラダづくり」「あきらめないココロづくり」「考えるクセづくり」の三つだ。当日の成績や次回の目標などもボランティアたちと話し合って決めている。こうしたやりとりも子どもたちの成長の糧になっている。
課題の一つは運営資金の確保。用具レンタルやスポーツ保険、ボランティアへの交通費など、参加費以上に運営費がかかる。一般の助成金は、地域制限や高い競争率などから難しいことが多く、「情報労連 愛の基金」からの助成は「非常に助かっています」と石原さんは話す。
もう一つの課題は、ボランティアの確保。これまで大学生などに呼び掛けを続けてきたが定着が難しい。石原さんは「興味があればぜひ連絡してほしい」と話す。
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