特集2018.12

社会とつながる労働組合運動学生と社会人が本音でトーク
働くことの真の姿を伝える場に

2018/12/12
情報労連の社会貢献活動の一環として2006年からスタートした明日知恵塾。節目となる50回目を迎え10月6日、第50回記念シンポジウムを開催した。シンポジウムを振り返りながら、明日知恵塾の目的や意義、活動の成果などを紹介したい。

明日知恵塾とは?

学生と社会人が意見交換することで、働くことの良いことも苦しいことも含めたリアルな情報を提供する場。2006年からスタート。学生3〜4人と労働組合の組合員1〜2人の小グループに分かれ、「働くこと」をテーマにフリートークなどを実施している。職場見学会も実施。

第50回を迎えて

野田 三七生 情報労連中央執行委員長

労働組合は「労働条件の維持・向上」という使命を担っていますが、「社会に貢献する」という使命も担っています。情報労連では、2006年に『情報労連21世紀デザイン』という政策を策定する中で、社会貢献活動を一つの施策に掲げ、その取り組みの一環として明日知恵塾をスタートさせました。

情報労連が社会問題として捉えたのが若年層の早期離職です。働くことの現実を知らないまま就職する学生が多いため、理想と現実のギャップを感じ、早期に離職してしまうという事態を課題視していました。そこで、明日知恵塾では、働く現場のリアルな声を伝えることで、そのギャップを埋めたい、という思いがありました。そのため明日知恵塾では、職場見学やグループディスカッションなどを通して、できる限り働く実像を伝えることに務めてきました。

明日知恵塾は立ち上げから12年が経過し、50回目という節目を迎えました。これまでに学生約1000人、社会人約600人が参加し、働くことの楽しさや苦しさ、光と影について率直に語り合ってきました。今後も持続的な活動にしていくことで、学生の皆さんの就職活動、さらには今後の人生へと生かせる場にしていきたいと考えています。

講演(1)「明日知恵塾第50回記念によせて」

杉山 豊治 連合総研副所長

明日知恵塾という名称は、学生の発案で決まりました。「今日、学んだことが明日の知恵につながる」という意味が明日知恵塾には込められています。学生の発案により名称が決定されたように、明日知恵塾は学生を主役に実施してきたからこそ、50回までこぎ着けられたのだと思います。

明日知恵塾は、法政大学の藤村博之教授との出会いがきっかけで、立ち上がりました。藤村教授が抱いていた「学生に対してありのままの情報、働く姿を伝えたい」という思いに対して、情報労連が共鳴したのです。

藤村教授と出会った2006年当時、情報労連は『情報労連21世紀デザイン』を掲げ、21世紀の労働組合のあるべき姿を議論していました。「労働組合は社会に向けて理解が進まない」という課題があったため、21世紀デザインの中心に据えたのは、「社会と価値を共有できる活動を展開」すること。社会に欠かせない存在として、期待され、共感される運動を展開していくことをめざしました。

社会と価値を共有するためには、組合員が社会と接点を持つ場をつくり出さなければなりません。その活動の場の一つが明日知恵塾です。学生と価値を共有する明日知恵塾という活動が1回1回積み重なり、50回を数えるまでになりました。明日知恵塾の発足当初の思いが、現在までつながっていることに心から感謝しています。

講演(2)「明日知恵塾の魅力」

戎野 淑子 立正大学教授

学生は大学入学時から就職のことが気になり、問題意識を持っています。けれども、何をめざせばよいのか、実際にやるべきことがわからず、揺れ動いている学生が多い状況です。就職活動が迫り、情報を得ようとしても、就職サイト、アルバイト先、親、友達、SNSなどに情報源は限定され、偏った情報も氾濫しています。そのため、情報に振り回され、将来の道筋が見えず、「仕事の決め方がわからない」「やりたい仕事がわからない」などの悩みを抱えている学生が多いのが現実です。

明日知恵塾に参加した学生は、大変なことも含め、社会人のありのままの現実を教えてもらえます。仕事では、失敗がなければ、成長がないことなども理解できます。働くことの実像を真正面から聞ける機会は稀少なため、学生にとって貴重な体験になっています。

社会人の生の声を聞くことで、働くことに対する理解が深まります。働く姿が実感できることで、就職に向けて準備すべきことがわかってきます。明日知恵塾は社会人になる第一歩を踏み出すための貴重な役割を担っていると思います。

パネルディスカッション
「就職して気付いたこと、明日知恵塾に参加して役立ったこと」

[司会進行] 藤村 博之 法政大学教授
[パネリスト] 寺内 慎太郎さん 法政大学OB 三好 宏明さん 立正大学OB 林 知子さん 國學院大學OB

進むべき道を見つめ直す機会に

三好明日知恵塾を通して社会人の本音を聞き、「自分がどのような仕事をしたいのか」「どのような仕事が向いているのか」を見つめ直す機会になりました。就職活動の期間は長いようで、短いものです。どのような業界に進めばよいのか、迷う人は多いと思います。社会人とディスカッションを交わす中で、自分に合った働き方が見えてきます。明日知恵塾に参加することで、社会人として進むべき道が取捨選択しやすくなりました。

社会人は自主的な行動が求められる

大学生の頃、明日知恵塾を通して、働くことについて考えてきましたが、実際に自分が社会人になって実感したのは主に次の2点です。一つ目は、仕事は自らが主体的につくっていく必要があること。社会人は自身で工夫を加え、周りから認められない限り、仕事が広がっていきません。自主的に考えることが求められる点に、学生と社会人の違いを感じました。もう一つは、人に頼れないと仕事は失敗する、ということ。わからないことを抱えたまま仕事を進めると、自分だけでなく、周りにも迷惑が及びます。迷ったら聞く、頼る、それが社会人の基本だと思います。

労働組合が身近な存在に

寺内藤村ゼミに所属していたこともあり、藤村先生からは、「社会人になって先輩から労働組合の役員になることを誘われたら、快く引き受けてほしい」と言われていました。そのこともあり、現在は労働組合の執行委員を務めています。役員になるのを後押ししたのは、明日知恵塾を通して労働組合が身近な存在だったこと。働くことの課題や労働組合の役割など、社会人の生の声を聞いていたので、抵抗なく労働組合の役員を引き受けることができました。

学生と社会人の双方にメリット

藤村大学や学生に向けて、労働組合が自ら発信する明日知恵塾のような活動は、日本では珍しい取り組みです。明日知恵塾の最大の特徴は、学生にとっても、社会人にとっても双方にメリットがあること。学生は、社会人になる前に働く生の姿を知ることできます。一方、社会人は、普段は見つめ直すことの少ない自分の仕事について、考える場になります。学生からも、社会人からも「参加してよかった」という感想が出てくるのが、明日知恵塾です。明日知恵塾が全国へと展開していけば最高ですね。

会場には学生・社会人など約100人が集まった
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