特集2018.12

社会とつながる労働組合運動アメリカの労働組合と社会貢献活動
日本とは桁違いの大きさ 政治変革も

2018/12/12
アメリカの労働組合の活動は、地域活動と一体的で、規模も日本より桁違いに大きい。地域と連帯した新たな運動から政治変革も生まれている。躍動感あるアメリカの地域運動とは。
山崎 憲 独立行政法人 労働政策研修・研究機構
主任調査員

世界最大級の非営利団体

アメリカにはユナイテッド・ウェイ・ワールドワイド(以下、ユナイテッド・ウェイ)という世界最大級の非営利団体があります。ユナイテッド・ウェイは1年間で約4000億円という巨額の寄付金を集めます(編集部注:日本全体の個人寄付総額7756億円、2016年、日本ファンドレイジング協会調べ)。貧困家庭への食事の提供やフードバンクの運営など、さまざまな社会貢献活動を展開しています。

日本ではあまり知られていませんが、ユナイテッド・ウェイと労働組合は表裏一体の関係といっても過言ではありません。アメリカの各都市に行くとユナイテッド・ウェイの支部が必ずあります。支部の理事会に顔を出すと、ほとんどの場合、労働組合の役員が参加しています。ミシガン州の州都ランシングという地域にあるユナイテッド・ウェイの支部を訪問した際は、全米自動車労働組合(UAW)の組合役員が活動の中心を担っていました。労働組合はユナイテッド・ウェイの寄付金集めも行います。

他方、労働組合は、地域の職業訓練学校やコミュニティーカレッジの運営にも参加しています。アメリカには徒弟訓練法という法律があり、職業訓練学校やコミュニティーカレッジへの労働組合の関与が義務付けられています。

このようにアメリカでは、地域での活動と労働組合の活動が一体的に存在しているとも言えます。アメリカの労働組合は、産業別に組織されていますが、実態は事業所別で組織されており、企業別組合が中心の日本に近い側面があります。こうした事業所別に分かれた労働組合をつなぐ役割を果たしているのが地域の社会貢献活動です。

地域を巻き込む運動

しかし、労働組合が地域から離れていく時代もありました。1950〜60年代以降の職住分離を背景に、人々の関心は、職場のある地域ではなく、自分の住む地域の問題へと移りました。

人々の関心が向けられたのが、自分の住む地域の貧困や教育レベルに関する問題です。レーガン政権以降、労働組合バッシングが起こり、規制緩和と緊縮財政で教員の労働条件が引き下げられました。その結果、教育現場が荒廃し、地域が貧困化するという事態が生じています。また、地域で働く人たちの労働条件が劣悪化しました。対象は、小売業やレストラン、ファストファッション、ケアワークなどのサービス業で働く人たちです。地域で働いている人たちの労働条件の劣悪化は、地域の貧困化を招きました。

このような状態で労働組合は、地域住民を巻き込んで、教育・貧困問題を解消するための運動を展開し始めました。特に教員やサービス業などの労働組合が活発な運動を展開しています。公民館に地域住民を集めて教育に対する意見を募ったり、最低賃金引き上げのデモをしたり、地域住民とともに運動を展開するようになったのです。アメリカでの大規模な教員のストライキや「Fight for $15」のような最低賃金引き上げ運動は、こうした運動が発展したものです。

政治変革につなげる

このような地域運動の広がりとともに地域での政治活動も活発化しています。最低賃金や教育、医療、介護などについて集中的に活動する政治組織が生まれています(編集部注:Working Family Party, Justice DemocratsやBrand New Congress)。こうした組織に後押しされる形で、ニューヨーク市のようにリベラル派の首長が各地で誕生しています。ニューヨーク市では最低賃金の引き上げが実現しました。先般の中間選挙で当選したアレクサンドリア・オカシオコルテス氏もその一人です。

一方、単に地域に縛られるだけではない運動も起きています。例えば、アマゾンの社員が顔認証技術を警察や移民局に売らないように求める抗議書簡を提出したり、グーグル社員がドローンの軍事利用に反発して大規模な署名活動を展開したりした事例がそれです。倫理的な問題に関して働く人が声を上げるという現象が起きています。実はこうした運動の背景には、労働組合が保有するアマルガメイテッド銀行(Amalgamated Bank)の存在もあります。銀行が資金面で支援しているのです。

日本はどうすべき?

1980年代以降、アメリカの労働組合は強烈なバッシングを受け、影響力や組織率を低下させてきました。今も、保守派や「オルト・ライト」による反組合的な草の根運動が展開されているのも事実です。しかし、そうした中で、アメリカの労働組合は地域での活動に活路を見いだした運動を展開している、ということです。

日本の労働組合はアメリカの事例から何を学べるでしょうか。日本の労働組合は、アメリカの労働組合ほど、企業からのバッシングを受けていません。むしろ、大企業では企業から必要とされる存在です。地域での社会貢献活動も企業を通じて行っていたりします。労働組合もさまざまな社会貢献活動を行っています。ただ、それでも地域の貧困などに関する問題に深く関与できていません。このような場合に日本社会で一つの参考になるのが、「生産性運動に関する三原則」ではないでしょうか。この三原則では、「生産性向上の諸成果は、経営者、労働者および消費者に、国民経済の実情に応じて公正に分配される」としています。日米の労使関係の違いを踏まえれば、この原則に立ち戻るのも一つの手法だと思います。

アメリカにおける社会貢献活動は日本と比べ物にならないくらい規模が大きいです。日本で、より恒常的に資金や人材を地域活動に提供できる組織をつくっていくことも、一つの選択肢ではないでしょうか。

AFL-CIOとUnited Wayの連携75周年を祝うポスター
特集 2018.12社会とつながる労働組合運動
トピックス
巻頭言
常見陽平のはたらく道
ビストロパパレシピ
渋谷龍一のドラゴンノート
バックナンバー