特集2018.12

社会とつながる労働組合運動地域と出会い、つながり、支え合う
「ネットワークSAITAMA21運動」

2018/12/12
埼玉では、連合埼玉や埼玉労福協、NPOなどが連携した「ネットワークSAITAMA21運動」が展開されている。労働組合と地域のNPOが連携する取り組みだ。運動の概要について聞いた。
佐藤 道明 連合埼玉事務局長
ネットワークSAITAMA21運動事務局長

地域プラットフォームの構築

連合埼玉は、1997年の第5回定期大会で、新たな自主福祉運動の構築をめざす運動方針を決定しました。当時は、右肩上がりの経済成長システムが終わり、労働組合はどのような役割を発揮できるかが課題となっていました。そうした中で、企業依存型の生活保障システムからの脱却や、社会的生活保障システムの構築を検討しました。

そのためには、地域に目を向ける必要があります。労働組合の組合員も、地域に戻れば市民であり、家に帰れば家庭人です。市民や家庭人の生活を豊かにするためには、地域社会と連携することが不可欠です。そのため、企業や労働組合、NPOなどがネットワークでつながるプラットフォームの構築を構想しました。

このような議論を経て、連合埼玉は2003年の第8回定期大会で「ネットワークSAITAMA21運動」をスタートさせることを決めました。この運動のキーワードは、「出会い・つながり・支え合い」です。「ネットワークSAITAMA21運動」では、連合埼玉と埼玉労福協を推進母体として、地域の多様なNPOや市民(団体)と連帯・協働する、新しいネットワーク型の労働運動を展開することにしました。

ネットワークSAITAMAの活動

具体的な運動は、2004年4月からスタートさせました。現在、三つのプログラム((1)ライフサポートプログラム(2)ボランティアサポートプログラム(3)NPOサポートプログラム)と一つの特別事業(東日本大震災被災者・避難者支援活動)に取り組んでいます。

(1)のライフサポートプログラムは、「暮らし応援セミナー(出前講座)」と「生活困窮者支援」を行っています。「出前講座」は、労働組合の支部や関連組織が、時間や場所、講演テーマなどを準備してくれれば、講師を派遣するという取り組みです。講師料と派遣料はネットワーク側で負担します。2017年度は23セミナー679人が受講しました。

「生活困窮者支援」では、フードバンクや子ども食堂などに助成金を寄贈しています。

(2)のボランティアサポートプログラムでは、「シニア人財バンク制度」という取り組みを実施しています。これは、ボランティア活動をしたい人に人財バンクに登録してもらい、連携するNPO団体の情報を年4回配信して、活動への参加を促すという取り組みです。また、「自然環境ボランティア促進事業」では、尾瀬や埼玉県ときがわ町で自然体験教室を実施しています。

(3)のNPOサポートプログラムには、「NPO応援・物品助成プログラム」と「NPO応援・少額(物品等)助成プログラム」があります。前者は、推薦・応募方式で運営委員会の審議を経て対象となったNPOにパソコンを寄贈する取り組みです。2007年度から現在まで121台のパソコンを寄贈してきました。後者は、年間予算20万円で1団体につき4万円以内で、NPOが活動する上で必要な物品─例えば、DVシェルター関連のNPOで洗濯機が壊れた場合の購入代の補助─に対して支援する取り組みです。2011年度から現在まで18団体に約60万円を助成してきました。

さらに、NPOサポートプログラムでは、NPOとの交流促進を展開しています。例えば、2006年度から2014年度までは、労働組合の役職員を3日間NPOに派遣する「NPOインターンシップ」に取り組んだり、2009年度から2014年度まではインターンよりも簡易な形で実施する「NPO訪問ツアー」に取り組んだりしてきました。昨年末には、県内のNPOと労働組合が顔合わせする場を設けました。今年度と来年度にかけては県内を四つの地域に分けて、より地域を絞った形でNPOと労働組合の交流会を実施する予定です。

特別事業の東日本大震災被災者・避難者支援活動では、子育て支援の「ママランチ会」や「バーベキュー交流会」などを行っています。

こうした活動は主に、組合員などからの寄付で成り立っています。「ネットワークSAITAMA21運動」では、500円の「ボランティアカード」を発行しています。このカードの購入代から、福利厚生などの契約料を差し引いた額がファンドに寄付され運動の財源になります。2018年度の寄付金は約270万円になる予定です。

このカードには、福利厚生の機能もあります。福利厚生を提供する企業などと連携して、カードを提示すれば、さまざまなサービスを割引で利用できる仕組みを設けています。中小企業の加盟組合の福利厚生として機能しています。このほかにボランティアカード協賛企業からの寄付が2017年度は23企業から約88万円ありました。

互いに大きなメリット

「ネットワークSAITAMA21運動」を通じて、地域のNPOや市民団体とのつながりは深まっています。NPOの人からは、労働組合がさまざまな社会貢献活動をしていることを初めて知ったと言われることもあります。交流をして初めてお互いの活動が見えてきます。

NPOは、その領域に特化した知識やノウハウを持っています。一方、連合はそのスケールメリットなどから行政や政治に一定の影響力を発揮しています。連合埼玉が行政に対して行う政策・制度要求にはNPOの意見を生かしています。NPOと連合がタッグを組めば、実態を反映したよりよい政策がつくれ、実効性を高めることができます。NPOと労働組合、お互いに利益があります。また、組合員にとっても労働組合の役員がNPOとのつながりを持つことは、問題解決のツールが増えることになります。労働組合とNPO・市民団体がともに考え、行動するメリットは大きいです。

労働組合とNPOでは、組織運営のあり方に違いがあり、戸惑うこともあるかもしれません。そこは互いにぐっとのみ込むことも必要です。顔を突き合わせる中で、互いの理解が深まっていきます。

ネットワークSAITAMA21運動のHP:https://www.net-saitama21.jp/

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