特集2018.12

社会とつながる労働組合運動地域社会とのつながりから
労働組合運動の原点を取り戻す

2018/12/12
労働組合が地域社会とつながることで得られることは何か。地域社会が労働組合から得られることは何か。互いのつながりが日本社会を底上げするきっかけになる。
宮本 太郎 中央大学教授

必要とし合う地域と労組

労働組合と地域社会はお互いを必要とし合っています。地域社会には労働組合の貢献が必要ですし、労働組合にとっても地域社会とのつながりが組合員に利益をもたらします。

地方圏と都市圏、異なる形ですが地域社会では、地域での支え合いが難しくなっています。全体のイメージは、「漏斗(ろうと)型」です。間口の広い上部から、下部の小さい穴へと液体が流れ落ちるように日本の人口は減少しています。

地方圏は「漏斗型」の上部で、最初に人口が減少していきます。地方圏は今後、現役人口だけではなく、高齢人口も減少していきます。すでに人口減少が進む中で、現役世代が仕事を見つけて働き、家庭を持つという地域の持続性の基盤が弱体化しています。

一方、都市圏とりわけ東京は「漏斗型」の下部です。「漏斗」の下部に液体が残るのと似て、東京は2015年から2040年にかけて、人口がむしろ増えると予測されています。しかし、東京は出生率が全国で一番低く、費用なども含めて子育てが難しい地域です。地方とは異なる形で課題を抱えています。ただ東京であれ、地方であれ、鍵を握るのは雇用と働き方をどう再構築するかで、組合の出番が大事になっています。

一方の労働組合も高齢化の問題に直面しています。「人生100年時代」と言われる中で、組合員の高齢化・長寿化を前提とした活動が求められています。元日本医科大学の長谷川敏彦さんが言うように、20〜65歳までの就労時間の合計が約10万時間となる一方、65〜85歳の起きている時間も約10万時間と言われています。こうした状況では、組合員の退職後の生活の充実や居場所づくりは、現役組合員のための活動と並ぶ重要性を持ってきます。そのためには、組合員が現役時代から地域とつながり、労働組合が地域社会に開かれた組織になっておくことが必要です。こうした点を一つとっても労働組合と地域社会は互いを必要とし合っていると言えます。

労働組合の「資源」

地域の市民団体やNPOなどから聞き取りをすると、多くのケースで労働組合の「資源」が重宝されています。とりわけ、組織人としての段取りの付け方が、地域社会で貴重な「資源」になっています。労働組合の役員は、企業社会の中で段取りや基本的な会計処理などのトレーニングを積んでいます。その経験は地域活動で強く求められているものなのです。さまざまな人に配慮しながら組織を動かす労働組合の組織運営は、地域社会の活動を進める上でも大切です。労働組合の皆さんが思っている以上に、労働組合の地域社会における出番はたくさんあります。企業経営にとっても地域に貢献し評価されることはプラスの影響をもたらします。

まず大切なのは、地域社会に労働組合がどのように「デビュー」するかです。UAゼンセンでは加盟労組の多くが「買い物難民対策」に労使で取り組んだり、地域づくり委員会を立ち上げたりしています。JP労組も郵便局という地域に根差した特性を生かして、さまざまな地域活動を展開しています。こうした活動を「陰ながら」の貢献にとどめず、自分たちの活動をホームページでもっと紹介するのもいいし、市民団体と連携して募金を集めるのでもいい。地域社会に労働組合という「資源」があることを知ってもらうことが重要です。

分担して荷物を背負う

労働組合の活動を振り返ると、さまざまな労働組合が地域社会と連携した活動を積み重ねてきました。災害復旧支援や難病支援の募金活動、地域でのボランティア活動などもそうです。そうした活動は、うまく実施できれば、参加した組合員に実に後味の良い、心が温まる感覚を提供できます。これは組合員の心のエネルギーになる可能性があります。

ボランティアや社会貢献活動というと、バイタリティーのある人の活躍が目立って、周りの人たちは「自分にはできない」と遠慮してしまう場面が見られがちです。しかし、大事なことは分担して荷物を背負うこと、誰でもかかわることのできる「プチ貢献」の枠をたくさんつくること、そして何より、そんな活動の気持ち良さをみんなに味わってもらうことだと思います。そういう細分化の工夫を労働組合が行うことが大事だと思います。例えば、青年海外協力隊に行けなくても、フェアトレードの商品を広げるというかかわり方もあります。地域活動でも、突出した活動ではなく、日常生活の中で少しずつ時間やお金を出せるようなフレームを労働組合が組合員に提供することが大切ではないでしょうか。

雇用のハードルを下げる

現代社会には、(1)国(2)市場(3)地域・家族(4)非営利組織─という四つのセクターがあります。非営利組織にはNPOや生活協同組合、労働者協同組合などがあります。近年、就労支援活動に取り組む協同組合やNPOなどが増えてきています。高齢者や障害者、貧困家庭など、さまざまな問題に取り組む非営利セクターが雇用の場とのつながりを求めています。それぞれの問題に対処する中で、雇用の場とつながることが問題の解消・解決に必要となるからです。

しかし、日本社会は福祉と雇用が分断された社会です。雇用の場はハードルが高く、そこからはじき出されると戻ることが難しい。行政が行う支援も、福祉と雇用の部局で切り離されてきました。この両者をつなぐのも労働組合の重要な役割です。図はこれまでお話ししてきたことを踏まえて、四つの部門の中での労働組合の位置を示しています。労働組合は、市場における雇用と非営利組織、そして地域をつなぐポジションにあるのです。

ではどのように雇用と福祉をつなげるか。一つは、職場の間口を広げること。雇用の場のハードルを下げることです。さまざまな人が職場で働けるように仕事の負担を減らしたり、業務を切り出して分担したりといった取り組みが考えられます。ユニバーサル就労はその考え方の一つです。

日本の雇用の場は、福祉を必要としない人々の世界でした。しかし、誰にとっても育児、介護、病気、失業などのケアを必要とする時期があります。人間、誰しもケアを必要としているのです。そして、ケアをされると誰もが力を発揮できるようになります。このようなケアをテコにして人々を雇用につないでいくことも重要です。それは社会全体の活力を底上げすることにつながります。

地域社会と労働組合がつながり、非営利組織などと連携して市場における雇用と地域社会をつなげることが社会に力をもたらすのです。

図 4つの社会部門と労働組合の位置
出典 V. ペストフのモデルに手を加えたもの(宮本教授提供)
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