特集2018.12

社会とつながる労働組合運動地域の貧困問題と労働組合
連携がますます重要に

2018/12/12
地域の貧困問題に取り組むNPO法人「ほっとプラス」。貧困問題は労働問題と密接にかかわっている。労働組合に期待されることは何か。代表理事の藤田孝典さんに聞いた。
藤田 孝典 特定非営利活動法人
ほっとプラス 代表理事

地域の貧困問題

私たちが活動している埼玉県さいたま市は人口約130万人。都心に通勤する人のベッドタウンです。地域には、低所得者世帯も一定数います。ホームレス状態の人や、ネットカフェで生活している人、刑務所から出てきた人など、10代から80代まで、私たちのNPOには、さまざまな人から相談が寄せられます。

20〜50代の就労世代の相談は、日本型雇用の崩壊に起因する事例が多いです。非正規雇用で職を転々としたり、ブラック企業で長時間労働やパワハラに遭って精神疾患を患ったり。それが原因で家賃を払えなくて、路上生活になったり、友人宅を転々としたりする人から相談が寄せられています。

50代以降になると健康問題が顕在化します。さまざまな事情で病気になってしまい、フルタイムで働けないため、就労収入が減少し、生活苦に陥るというパターンです。60代以降はやはり低年金の問題が多いです。もともと低年金で貯蓄を切り崩しながら生活していると、体調を崩した場合に生活苦に陥るリスクが一気に高まります。

また、最近では「8050問題」や「7040問題」のように、親の年金に頼って生活する40〜50代の子どもの問題も目に見えて増えています。

労働問題に接近する貧困

リーマン・ショック後の「年越し派遣村」などで貧困問題に社会の注目が集まりました。今はどうかというと、問題の本質は変わっていません。私たちの元に寄せられる相談件数は横ばいで高止まり状態です。有効求人倍率が高いと言っても、この地域での求人は介護や保育、飲食などがほとんど。そうした業界の仕事は、不安定で低賃金です。雇用の質という意味で、根本的な問題は解消されていません。

私たちの団体は、ホームレス支援からスタートしました。それは今も変わりませんが、河原で生活するようなホームレスの人からの相談は減り、不安定な労働に従事し、家賃支払いが難しいとか、友人宅を転々としているとか、そういう人からの相談が増えるようになりました。要するに不安定な住居、不安定な労働に従事する人からの相談が増えています。

ワーキング・プアの相談が増えるにつれて、労働相談や労働組合と連携する必要性がますます高まっています。私たちは、生活困窮に陥った人たちの生活保護申請に付き添うなどして、相談者を社会保障制度に結び付ける活動をしてきました。ただ、それだけでは問題の根本的な原因を解決できないことも見えてきました。

「年越し派遣村」のケースもそうでした。「年越し派遣村」の背景にあったのは、派遣労働者の雇い止めです。「年越し派遣村」では、労働の現場で起きた問題を社会保障や福祉の分野で解決しようとしました。もちろん、苦しい目に遭った人を社会保障などを用いて救済することは大切です。でも、問題の本質は労働の現場で起きたことです。労働の現場で起きている問題は、労働の現場で解決しなければ、問題の根本を解決できません。貧困を生む原因となる場所で声を上げ、働く人の処遇を上げていく。社会保障の領域から労働の領域に活動の重点を押し戻すことが必要だと思います。企業の問題を焦点化しなければ、人を使い捨てにする企業は反省しないまま、同じことを繰り返してしまいます。

地域の接着剤に

こうした観点から、貧困問題と労働問題の結び付きが強くなっていることがわかります。私たちはすでに連合埼玉をはじめ労働組合の皆さんと連携していますが、さらに、労働相談や生活相談などで連携した取り組みができればいいと思います。

地域の貧困問題を解決するためには、地域のさまざまな構成員が手をつなぐことが大切です。今は個々の組織が個別課題に向き合っている段階ですが、ヨコのつながりをもっと強めていきたいと考えています。地域の自治会もPTAも労働組合がどのような活動をしているのかよくわかっていません。地域の貧困は、教育や治安の問題などにも影響します。貧困問題をキーワードに地域を横通しする接着剤の役割を果たしたいと考えています。

そのためには、やはり顔の見える関係をつくることが大事です。さまざまな活動に参加する人がいるとわかるだけで、関係性は変わります。私たちの活動にボランティアで参加した公務員の人は、夜回り活動に参加したことで初めて貧困問題に特有の背景があることがわかったと感想を寄せてくれました。私も、シェルター事業を展開した際に労働組合が宿泊施設を保有していることを初めて知りました。交流があって初めてさまざまな事情がわかるようになります。

私は、日本における共助の基軸は労働組合だと訴え続けています。誰かが何か困ったことがあったら、地域の労働組合の支部に行く。そこには、労働相談だけではなく、弁護士や市民団体の人もいて、困りごとを解決できるノウハウが蓄積されている。そのような助け合いのハブ的機能を労働組合に担ってほしいと期待しています。

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