トピックス2018.12

岐路に立つ日本の情報サービス産業
DXの推進が発展の基礎に

2018/12/12
情報労連は11月8日に大阪で、11月15日に東京で、それぞれ「情報サービスフォーラム」を開催した。今回は、「情報サービス産業の未来とAI時代の働き方」をテーマに、技術革新の進展に合わせて、企業や働く人たちがどのように対応すべきかについて考えを深めた。

主催者あいさつ

柴田 謙司 情報労連中央本部
書記長

情報サービス産業はあらゆる産業の発展に寄与することが期待されている。少子高齢化・労働力不足といった社会的課題の解決にも情報サービス産業の役割が期待されている。

こうした重要な産業であるにもかかわらず、この産業は一般の人からイメージしづらい産業になっている。多重下請け構造や長時間労働といった課題もあり、それが業界全体の魅力度を下げ、人材不足に陥るという負のスパイラルに陥っている。

競争力強化の源泉としてソフトウェアの役割が高まっている。そこで働くエンジニアにとって、働きがいのある、魅力ある職場にしていくために、皆さんとともに考えていきたい。

協賛・後援団体あいさつ

廣瀬 毅 一般社団法人
情報サービス産業協会(JISA)
常務理事・事務局長

JISAとして、デジタルトランスフォーメーション(DX)をテーマにした国際フォーラムを開催した。IT分野におけるアジアの勢い、熱気を痛感するフォーラムとなった。デジタルトランスフォーメーションでは、新しい技術に視点を当てるだけではなく、顧客の新しい価値を創造することに視点を当てることが大切。そのためにイノベーションを生み出す人材が必要だと訴えている。そうした人材には、(1)感性(2)技術力(3)パッション─の三つの要素が求められる。情報サービス産業に携わる一人ひとりが、こうした要素を身に付けるための取り組みを進めていきたい。

講演

和泉 憲明 経済産業省
商務情報政策局
情報産業課 企画官

私たちは、第四次産業革命の分岐点に立っている。現状のルートのままでは日本の情報サービス産業はジリ貧になってしまう。世界のリーダーになるために今、かじを切ることが求められている。

経済産業省は今年9月、「DXレポート 〜ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開〜」というレポートを公表した。日本の情報サービス産業の問題点を指摘しているので、ぜひ参照してほしい。

情報サービス産業の将来の売り上げ・予算の伸び率の見通しは、製造業やインフラ産業でIT化が進むと考えられているにもかかわらず、2015〜2020年よりも2020年以降の方が低くなっている。エンジニアは人手不足なのに賃金が上がらないという指摘もある。どこに問題があるのか。

改革を実行する際の大前提は、最新のテクロノジーを使いこなすことだ。新しい技術を使って生産性を高めないといけないのに、同じ働き方を続けて情報がアップデートできないのではないか。ITエンジニアが、目標とすべき未来を見据え、そこから逆算して今何をすべきかのバックキャスティングができているかが問われている。

情報サービス産業に対する問題意識として三つの課題を上げたい。(1)クラウド化の加速(外資系企業の国内進出)(2)質・量両面でのIT人材不足(3)現行システム維持・保守ビジネスへの依存と技術革新への遅れ─だ。

(1)に関しては、アマゾンやグーグルなどのメガクラウドベンダーの成長率が、国内企業に比べてはるかに高い。中国のIT企業はさらに急成長を遂げている。

(2)の人材不足に関しては、2030年には中位のシナリオで約59万人のITエンジニアが不足すると言われている。足りていないのは情報セキュリティーや先端ITを利活用できる人材だ。だが、言い換えれば、今いるITエンジニアがスキル転換できなければ、IT人材の不足は続く。厳しいことを言えば、ITエンジニアがスキル転換できなければ、今いる人材は自動化によって必要とされなくなってしまうかもしれない。ITエンジニア自身が、環境の変化に対応していかなければならない。

(3)について見ると、日本企業のITコストのうち80%が現行システムの維持・運営コストに当てられている。本当の成長領域で技術者を育成する機会も少ないということだ。国内IT企業は、目先の好景気のため現行システムの維持・運営に注力していて、クラウド化やAIの導入、IoTによるビッグデータの収集・解析といった新技術への投資、新規のビジネス・サービスの提案が十分にできていない。アメリカでは「攻めの投資」が目立つ。成長するために何をすべきなのかを考えないといけない。

「2025年の崖」とは、新たなビジネスモデルを創出するためのデジタルトランスフォーメーションを進めなければいけないのに、既存システムが過剰なカスタマイズ化などにより複雑化・ブラックボックス化しているために、対応しきれないという問題だ。世界のIT企業が成長する中で、政策担当者として日本の情報サービス産業の現状に強い危機感を抱いている。新しい技術にシフトしていかないと日本の情報サービス産業は成長できない。今こそかじを切らなければいけない。

講演

佐藤 雅浩 株式会社FRONTEO
ビジネスソリューション本部
ソリューション3部
アシスタントマネージャー

私たちは人工知能(AI)を独自に開発してサービスを提供している。もともと法務支援の会社だったが、膨大な資料の中から必要なデータを引き出してくる作業を効率化する中から、自然言語に特化したAIを開発した。自然言語データの解析は、テキストマイニングやテキスト検索ツールとは異なり、文章の意味をくみ取り、仕分けすることができる。

このAIを採用・人事に生かすサービスを提供している。人事にはさまざまなデータが集まり、ビッグデータ化しており、このデータを分析する必要性が高まっている。例えば、弊社ではエントリーシートをAIで分析するサービスを提供している。集まったエントリーシートを定量・定性的に分析することで、面接回数の削減、志望する部署への適正配置、途中辞退者の減少、優秀な人材の確保─といった効果を得られる。

離職防止にもAIを活用できる。面談で使ったアンケート用紙をAIで分析することで、従業員へのフォローアップを的確に行うことができるようになり、離職率を下げることができる。長時間労働に関するデータを分析し、人事マネジメントに活用することも可能だ。ハラスメント検知やメンタルヘルス対策にも応用できる。

AIの活用は、人間が気付かなかったり、見落としていたりしていたことに気付きを与えてくれる。そこには記録に埋もれた、リスクとチャンスがあり、それを見逃していたことによる損失は大きい。導入コストだけではなく、そうした視点で考えてみてほしい。

AIは現状では、目的を決めて決断することはできない。人間が目的設定と決断を行う必要がある。AIは分析と実行を助けるツールだ。AIの活用に当たっては、AIを活用する目的や取り込みたいデータ、AIの限界などを考慮する必要がある。

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