トピックス2019.03

改正入管法の問題点と今後の展望
人権侵害が最大のリスクに

2019/03/14
改正入管法に基づく新たな在留資格「特定技能」の運用が今年4月からスタートする。拙速な議論で導入に至った改正入管法の問題点と、今後の展望について外国人労働問題に詳しい指宿昭一弁護士に聞いた。
指宿 昭一 弁護士

改正入管法の概要

改正入管法は、新たな外国人労働者の受け入れのため、新しい在留資格を創設した法律です。これまで外国人労働者は、「専門的・技術的分野」に限定するという建前でしたが、それを崩し、熟練していない労働者を含め受け入れることにしたのが大きな特徴です。

新たに創設された在留資格は「特定技能1号」と「特定技能2号」です。「特定技能1号」は、「相当程度の知識または経験を要する」外国人労働者のための在留資格。「特定技能2号」は、「熟練した技能を要する」外国人労働者のための在留資格です。「1号」は、14業種が対象で在留資格の上限が通算5年。家族の帯同はできません。「2号」は、建設と造船・舶用工業の2業種のみが対象で在留期間の上限はなく、家族帯同が認められています。外国人労働者の報酬額は日本人と同等以上であることが条件となっています。

外国人労働者への支援は受け入れ機関および企業が行うことになっていますが、それができない場合は、登録支援機関に委託することができます。

「特定技能」の在留資格を得るためには、「1号」は各業種の所轄省庁がつくった試験に合格するか、技能実習生として3年間の経験が必要です(後者の場合、試験は免除)。「2号」は、さらに水準の高い試験に合格する必要があります。新たな在留資格制度は今年4月からスタートしますが、当面は試験の数も少ないので、技能実習生が「1号」に移行するケースがほとんどで、今後、「特定技能」で在留資格を得る外国人労働者が徐々に増えていくことになりそうです。

「特定技能」を受け入れる分野

問題を残したまま導入

今回の法改正にはいくつかの問題点があります。

一つ目は、ブローカー規制が極めて弱いことです。外国人労働者は来日する際、送り出し国のブローカーに渡航前費用を支払いますが、ここに対する規制がまったくありません。技能実習生や留学生のケースでは、不当に高額な費用を取られる事例が多発し、人権侵害の温床になっています。改正入管法に基づく省政令では、保証金徴収や違約金契約は禁止されましたが、実効性に疑問があります。

外国人労働者の来日後は、受け入れ企業か登録支援機関が生活を支援します。登録支援機関は受け入れ企業からの委託料で運営されますが、委託料に関する制限がありません。登録支援機関への委託料が高額であれば、外国人労働者の賃金に転嫁されるため、実質的な中間搾取となり得ます。送り出し国、受け入れ国のいずれでもブローカー規制を強める必要があります。

二つ目の問題点は、「1号」の労働者の地位が弱いことです。通算5年以上の滞在が許されないという「使い捨て」の状態で、家族帯同も認められていません。技能実習生から「1号」に移行した場合、最大通算10年間、家族と離れて暮らさなければならないケースもあり、非人道的で不適切です。「1号」で認められた14業種のうち、「2号」で認められた業種は2業種のみです。その他の12業種については、いわば「使い捨て」状態なので、「2号」の業種も「1号」に合わせるべきです。

政府は今回の法改正を「移民政策ではない」と強調していますが、国際的には1年以上同一の国に滞在していれば移民と定義されます。そうした中で、日本は移民受け入れを正面から認めたくないのでしょうが、それは実態に合っていないと思います。

唯一の長所

「特定技能」制度の良い点は、同一の業務区分内であれば転職の自由が認められていることです。技能実習生は転職の自由が認められておらず、転職によって労働環境を改善する権利が奪われています。そのため、過酷な労働環境の中に閉じ込められるケースが相次いでいました。「特定技能」で転職という切り札が実際に機能すれば、技能実習生より労働環境は改善するはずです。ハローワークの支援体制がカギになります。

技能実習制度への影響

「特定技能」の在留資格ができたことで、技能実習制度にどのような影響が及ぶでしょうか。「特定技能」制度がうまく機能すれば、技能実習制度から「特定技能」制度に比重が移行していくことが想定されます。外国人労働者にとっては、「特定技能」で来日した方が好条件です。「特定技能」を選択したい外国人労働者が増えるはずです。

一方、受け入れ側はどうでしょうか。受け入れ側の最大のリスクは、技能実習制度の人権侵害にあります。移民労働者に対する人権侵害が国際的に厳しく問われる中、技能実習生に対する人権侵害は受け入れ企業だけではなく、サプライチェーンの発注側企業の責任も厳しく問われることになります。技能実習制度を利用し続けたいのであれば、当然、適法な運用をしなければなりませんが、厳格に運用すれば、企業のメリットは少ないです。運用のしやすさから、受け入れ側が「特定技能」に比重を移すことも考えられます。この点では、技能実習制度で人権侵害がたびたび指摘される縫製業は、「特定技能」の14業種に含まれていません。引き続き、技能実習制度が利用されると考えられるため、注意が必要です。

新たな在留資格のイメージ

最大の欠陥

「特定技能」制度は、技能実習制度という「裏口」での外国人労働者の受け入れをやめ、正面から受け入れることを決めたという点では間違っていません。しかし、政府は強引に議論を進め、欠陥の多いまま制度導入を決めてしまいました。さらには、「特定技能」への人材の供給源として技能実習制度を残したのは、今回の法改正の最大の欠陥です。

技能実習制度の問題点は大きく三つあります。一つは、制度の趣旨が大きくゆがんでいること。技術移転を通じた国際貢献という建前は大きなうそで、実態は安価な労働力の確保です。二つ目は、転職する自由がないこと。三つ目はブローカーによる弊害です。こうした弊害の多い技能実習制度に関しては、廃止の声も高まっています。経済同友会も廃止を含めた大幅見直しを提言しました。技能実習制度での人権侵害を絶対に許さないという声を労使ともにもっと発信する必要があります。

高まる社会的責任

労働組合としては、外国人労働者の組織化に向けて、まずは相談に応じること。すぐに組織化につながらなくても、相談に応じることがその第一歩になるはずです。将来的には、外国人の専従オルグを確保する必要性も出てくるでしょう。

ビジネスと人権に関しては、2011年に国連で企業と人権に関する指導原則(ラギー原則)が採択されたほか、2015年には同じく国連で「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択され、グローバル企業を中心に取り組みが進んでいます。労働組合がこうした原則を活用し、自社の状況をチェックし、環境改善を働き掛けてほしいと思います。

外国人労働者に対する人権侵害を把握したら、発注側企業にも改善を求めることが重要です。発注側企業に、CSR調達の指針を策定させたり、実態調査をさせたりした上で、改善を進めることが望ましいと言えます。すでにJAMが衣料品大手の「しまむら」に具体的な対策を講じるよう要請するなどの動きが出ています。企業の社会的責任が問われることを労使ともに強く意識する必要があります。

外国人労働者の受け入れなくして、将来の日本社会を維持していくことは難しくなっています。外国人労働者はすでに受け入れていますし、これからも受け入れが進みます。外国人労働者も受け入れる側もともに豊かに暮らせるよう、労働組合としての責務を果たしていく必要があります。

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