トピックス2019.04

統計不正問題の深層都合の悪い数字は見ないで
国民生活は置き去りに

2019/04/12
国会を揺るがしている統計不正問題。国民生活に直結する重大な問題だ。問題点を識者に聞いた。
上西 充子 法政大学教授

2004年からの不正調査

昨年12月、厚生労働省の毎月勤労統計調査で不正な調査が行われていたことが発覚しました。本来、東京都の500人以上の事業所は全数調査とされているのに、厚生労働省が2004年から抽出調査に勝手に切り替えて実施してきたことが明らかになったのです。抽出の場合に必要な補正も行っていませんでした。

厚生労働省は2018年1月のサンプル入れ替え時に、このことを隠したまま、データを補正しました。その結果、大企業の割合が増え、2018年1月の実質賃金の伸び率が急に上振れしました。

この問題が昨年12月に明らかになったことで、雇用保険や労災保険の過去の給付で、537億5000万円に上る支払い不足があったこともわかりました。

官邸の介入疑惑

他方、この問題が国会で追及される中で、政府が統計のあり方に不正に介入しているのではないかという疑惑が持ち上がりました。2015年3月に当時の中江元哉首相秘書官が、毎月勤労統計の調査手法に関して「問題意識」を伝えていたことがわかりました。厚生労働省はその2カ月後、調査手法を検討する検討会を設置します。検討会は中規模事業所の調査対象を従来通り「総入れ替え」する方式で素案をまとめかけたものの、取りまとめの直前で方向性が急きょ変わり、引き続き検討するとの報告書がつくられました。そこに中江首相秘書官の関与が強く疑われています。2018年1月からは「部分入れ替え」方式に切り替えられます。

介入があるとすると、動機はどこにあるのでしょうか。「総入れ替え」から「部分入れ替え」に変更しても、数値が上振れするわけではありません。サンプルの入れ替え自体は、むしろ下振れの要因になります。しかし、ここが重要なのですが、厚生労働省は2018年1月の「部分入れ替え」方式への切り換えの際、過去のデータにさかのぼってデータを補正する遡及改定をしませんでした。「総入れ替え」方式では、サンプルの入れ替え時に段差ができるので、過去にさかのぼってデータを補正していたのですが、「部分入れ替え」に切り替えたことで、段差が小さくなるとして、遡及改定を行わないことにしたのです。

ここに官邸の問題意識があったのではないかと考えています。つまり、サンプル入れ替えに伴い遡及改定を行うと、実質賃金の過去のデータがマイナスになってしまう。それは賃金上昇を重視する安倍政権にとってダメージになります。「アベノミクス」の実績がマイナスになるのを避けるために「部分入れ替え」方式を採用し、遡及改定をやめたことが狙いだったのではないかと見ています。

一方、2018年1月にデータが大きく上振れした理由は、大企業の数字を勝手に補正したことのほかに、(1)日雇い労働者を調査対象から除外したこと、(2)調査の基準となるベンチマークを更新したこと─などが挙げられます。

このように2018年1月の段階では、さまざまな変更が同時に行われたのですが、適切な説明が行われませんでした。

都合の悪いことは見ない政府

野党の追及に対して、政府は真相を明らかにしようとしていません。2004年からの不正に関する『特別監察委員会』は、利害関係者によって構成され、第三者委員会制度に詳しい弁護士から「Fランク」と批判されています。報告書の内容も、隠ぺいの定義を狭くしたことで、「組織的隠ぺいはなかった」と結論付け、「お手盛り」との批判が高まっています。また、2015年以降の政府の介入に関しても、参考人招致が認められなかったり、招致されても中江氏が「記憶にない」と発言するなど、問題を明らかにする姿勢がありません。

こうした結果、私たちは「アベノミクス」が賃金に及ぼしてきた影響が把握できない事態に追いやられています。実態として2018年の実質賃金はマイナスになっているようですが、政府はそのことを認めようとしません。

「アベノミクス」は、企業活動が活発になった結果、人々の賃金が上昇し、消費に波及するという好循環を想定していました。実質賃金が上がらない事態は、それが失敗したことを意味します。けれども政府はその現実を直視しようとせず、「『アベノミクス』の暖かい風がいつか届きます」と言い続けています。

これは結局、政府が国民生活の苦しさに目を向けていない、ということです。多くの国民が景気回復を実感していないのに、政府は都合の悪いことは見ないという姿勢を続けています。

立憲民主党の逢坂誠二議員が、統計不正を健康診断に例えていました。診断結果に問題が現れないので治療の必要性に気付けないのと同じ状態だと。秀逸な例えだと思います。適切なデータ公表を怠り、適切な手当てをしなければ状態は悪化するばかりです。

「お上任せ」にできない問題

今回のような問題がなぜ起きたのか、厚生労働省の利害関係者が絡まない事故調査委員会のようなものを立ち上げてきちんと検証すべきです。専門家の育成も人員増強も大切ですが、官邸の介入で統計がゆがめられるようなことがあっては元も子もありません。時間をかけてでも真相を追及し、統計の信頼性回復に努めるべきです。

毎月勤労統計の実質賃金のデータは、消費税増税の判断要素の一つにもなる重要なデータです。今回の問題を「お上任せ」にしておくわけにはいきません。有権者の皆さんが、自分たちの生活に直結する問題として、隠ぺいを認めず、関心を持ち続けることが大切です。

毎月勤労統計をはじめデータ不正問題で厚生労働省の信頼が揺らいでいる
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