渋谷龍一のドラゴンノート2019.05

【第3編】職場~企業と「カイシャ」の違いを知っていますか~「カイシャ」の矛先

2019/05/14

企業は激しい競争の渦中にいますが、同業他社だけでなく同業でなくても、国内外に敵はいくらでもいます。生き残るために勝ち続けなくてはなりませんので、負けそうな気配になると、企業の矛先は敵ではなく企業の内部にも向けられます。企業が「カイシャ」に変わる瞬間です。「カイシャ」が動き始めると照準が定められます。典型的に狙われるのは製品や労働者でしょう。

矛先が製品へ向くのなら品質を落とします。落としておいて落としていないというふりをします。例えば、メーカーなら製品の品質評価のごまかしです。外食ならメニューの食材の偽装です。安上がり策なのに一定の品質や高級品に仕立てる。ごまかしの差額で利益を生み出し、足りない分を埋めようとします。

矛先は労働者にも向きます。雇う側と雇われる側の立場の違いは、何かを奪おうとする側と奪われまいとする側になります。雇用とは「労働者の宿命」の始まりです。正社員は働いたはずの時間を狙われ、非正規労働者は働いたはずの賃金を狙われる。それぞれ宿命が違うのです。この宿命の違いは日本特有で、労働問題を解決しにくくしています。

正社員では常に賃金が問題視されてきたように見えますが、何を狙われているかを見極めると、長時間労働、サービス残業、みなし時間、過労死・過労自殺などが浮上します。労働時間を奪われているのです。非正規は、労働時間ではなく、格差や不払いなど賃金が奪われる。

このように宿命が違うから求めるものが違う。だから同じ労働者といえども、連帯できなかったり、仲間のはずなのにちぐはぐな関係になりがちです。最後は人ごとになるから、ともに問題解決へ進むことができません。

「時間ドロボウ」と「買いたたき」。弁護士たちがよく使う言葉です。労働者が争う「カイシャ」の現場に身を置いているから、「労働者の宿命」を痛感しているのでしょう。

渋谷 龍一 (しぶや りゅういち) 労働ジャーナリスト
日本労働ペンクラブ会員。主著に『女性活躍「不可能」社会ニッポン 原点は「丸子警報器主婦パート事件」にあった!』(旬報社)がある。
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