トピックス2019.06

ILO設立100周年労働者の声を反映した100年
ILOが果たしてきた役割を知ろう

2019/06/10
国際労働機関(ILO)は、今年設立100周年を迎える。ILOが果たしてきた役割や日本とのかかわりについて、日本のILO理事である郷野晶子さんに聞いた。
郷野 晶子 国際労働機関(ILO)理事
ILOは今年創設100周年を迎えた

ILOの理念

1919年に設立された国際労働機関(ILO)は、今年設立100周年を迎えます。

ILOは第一次世界大戦の反省から生まれました。背景には「世界の永続する平和は、社会正義を基礎としてのみ確立することができる」という考え方があります。戦争の悲惨な体験を経て、こうした考え方が国際社会で共有されるようになりました。

ILOの設立以前から、産業化に伴う労働条件の切り下げ競争は問題視されていました。欧米では19世紀に入ると労働者を取り巻く状況が悪化します。機械設備の導入で労働力の価格競争が進み、低賃金・長時間労働がまん延。労働者は非常に過酷な状況に追い込まれます。

こうした行き過ぎた競争を規制する必要性が共有され、労働条件を国際的に保護する機関を必要とする考え方が強まり、ILO設立につながりました。

その背景には三つの動機があります。一つ目は、人道的なこと。労働搾取をなくし、労働条件を向上させること。二つ目は政治的なこと。労働者が劣悪な環境に置かれ続けると社会不安が起きて革命が起きるかもしれない。三つ目は経済的なこと。労働条件の国際的な最低基準を設けることで、労働条件の切り下げ競争を防ぐことです。

ILOは1944年の第26回総会でフィラデルフィア宣言を採択します。「労働は、商品ではない」「一部の貧困は、全体の繁栄にとって危険である」。この宣言は今もILOの活動の基本方針となっています。

1919年パリ講和会議で常設の国際機関の憲章を起草することを目的に、国際労働立法委員会が設立された

「三者構成」の持つ意義

ILOは、この100年間、多くの役割を果たしてきました。その中で特筆すべきは、国連機関の中で唯一、政労使の「三者構成」を維持してきたことです。労働者団体がILOの正式なメンバーとして国際基準づくりにかかわってきたことの意義は計り知れないほど大きいです。

ILOの総会や理事会の構成割合は、政労使が2:1:1。労働者団体の声は、使用者団体と同じように反映されます。日常的な力関係で言えば使用者団体の方が力が強く、労働者が声を上げるのは難しい。そうした中で、労働者団体が意見を表明し、使用者団体と対等な決議権を持っていることは極めて重要な意味を持ちます。

政府の割合が高いのは、ILOの条約が総会で採択されたのち、条約を批准し国内法を整備するのは、その国の政府の役割だからです。条約の採択には出席代表の3分の2の賛成が必要です。使用者側だけの賛成でも、労働者側だけの賛成でも条約は採択できず、絶妙なバランスになっています。

労働者側にとって、政労使の三者構成を今後も維持していくことが至上命題となっています。国連は、国連の中の機関の効率化・統合化を進めようとしています。国連の中で唯一、「三者構成」を採用してきたILOの意義を今後もいかに引き継いでいくかが課題になっています。

ILOが果たす役割

発展途上国ではILOの存在が労働者の「命綱」になってきました。例えば、労働組合権の侵害があった場合に、その国の労働組合はILOに提訴することができます。訴えは、結社の自由委員会や条約適用委員会および理事会などで審議され、問題が認められるとILOは国に調査を依頼したり、調査団を送ったりすることができます。ILOに強制力はありませんが、こうした措置を取られること自体、国や企業にとって大きな社会的ダメージです。当該国はILOの理事会で説明責任を果たさなければなりません。

これまでにもILOは労働者保護のためにその機能を発揮させてきました。例えば、中東カタール。この国には、「カファラ制度」という雇用者が保証人となって外国人労働者に職を提供し、ビザを発給するという仕組みがありました。この制度の下で強制労働が行われていることが問題となり、ILOは三者構成の調査団を派遣。それらの結果、外国人労働者は原則自由に出国できるようになるなどの改善が図られました。

また、労働法の整備が進んでいない国などは、ILOの条約があると国内法の整備を進めやすくなります。このようにILOの存在が、労働者の救済に役割を果たす事例は数多くあります。

日本とILO

日本とILOとのかかわりはどうでしょうか。日本は中核的労働基準の8条約のうち、「強制労働の廃止に関する条約(105号)」と「雇用及び職業についての差別待遇に関する条約(111号)」の2条約を批准していません。前者は、公務員の労働基本権にかかわります。日本では、公務員のストライキなどに懲役刑を定めていることが条約に抵触するという見方があり、批准できていません。後者は、人種、性別、宗教、政治的見解などの差別を禁止し、雇用、職業での機会・待遇の均等を求める条約ですが、国内法との整合性などを理由に批准に至っていません。

先進国では、中核的労働基準の8条約のうち、アメリカが6条約、日本とカナダが2条約を批准していません。日本は、先進国の一つとして、これらの条約を批准してほしいと思います。個人的な思いとしては、消防職員の団結権は早期に実現すべきだと考えています。

2018年のILO総会では仕事の世界における暴力とハラスメントに関する議論が行われました。今年の総会で勧告付き条約として採択される予定です。現在日本の国会では、企業にパワーハラスメントの防止措置義務を課す改正案が議論されていますが(5月29日に成立)、この内容ではILOで議論されている条約を批准することは難しいでしょう。今年のILO総会で条約が採択されれば、日本国内の法整備を前進させる力になります。

次の100年へ

ILOの存在は、日本で働く私たちにとって身近な存在とは言えないかもしれません。ただ、私たちが普段利用している衣服や製品などを通して、それを感じることはできます。ILOは近年、サプライチェーンの労働問題に非常に力を入れています。ILOは、皆さんが利用している衣服や製品をつくっている労働者の労働基本権を守る活動を展開しています。

日本の労働組合の皆さんには自社のサプライチェーンに目を向けてほしいと思います。多国籍企業なら、海外の取引先の労働環境がどうなっているかなどに注意を払ってほしいと思います。国内のグループ会社にも同様のことが言えるでしょう。サプライチェーンの労働問題が重視される中、問題の責任は発注元にも及びます。ブランドイメージの低下など企業のダメージにもつながります。

ILOは設立100周年を記念する今年の総会で、フィラデルフィア宣言を基盤とする内容の宣言を出す予定です。グローバル化やプラットフォーム経済の進展が進む中で、人間中心の働き方をどのように構築するか。日本の労働者の皆さんにも国際労働基準に関心を持ってほしいと思います。

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