ベルコ闘争(1) 労働委員会で画期的勝利命令実態を詳細に事実認定して不当労働行為を認定
ベルコは命令履行と誠実団交を
日本労働弁護団幹事長
業務委託契約を濫用したビジネス
今回の北海道労働委員会(以下、道労委)の命令は、斬新かつ画期的な判断に基づく、日本の労働委員会の命令史上、歴史に残る命令です。
ベルコは、全従業員が約7000人の大企業ですが、正社員はわずか約35人。どうなっているのかというと、業務委託契約を活用し、直接雇用する労働者を抱えないようにしているのです。例えば、「支社長」と呼ばれる人も、ベルコとの関係は業務委託関係。「支部長」もベルコとの関係は業務委託契約関係です。「支部長」の下には、FA(フューネラル・アドバイザー)と呼ばれる人たちがいますが、この人たちの位置付けは「支部長」に雇用された人で、ベルコとは形式上、雇用関係がありません。ベルコはこのように組織を支える労働者と直接雇用契約を結ぼうとせず、雇用責任を免れています。これがベルコの組織戦略です。
全ベルコ労働組合の委員長と書記長は、「支部長」に雇用されたFAですが、実質的にはベルコの指揮命令下で働いていました。彼らが、あまりにひどい労働環境を改善しようと労働組合を結成しようとしたところ、ベルコはその動きを察知して2人を排除しました。こうした一連の行為が不当労働行為に当たるのかが、今回の闘いの最大の争点です。
地裁判決と道労委命令
全ベルコ労働組合は現在、裁判と労働委員会の両方で闘いを展開しています。昨年9月、札幌地裁は2人の解雇を有効とする判決を下しました。不当労働行為を認め、原職復帰などを命令した道労委とは正反対の内容です。
道労委命令と札幌地裁判決の決定的な違いは、労働委員会の審査員と裁判所の裁判官との質の違いだと思います。道労委は、ベルコという会社の異常性をしっかりと認識し、事件の本質が不当労働行為にあることを見抜いていました。まさに不当労働行為を救済する機関として、労使紛争に対する深い理解があったと言えます。一方、裁判所は契約書の形式など、表層的な部分にこだわり、事件の本質を見ませんでした。
道労委は非常に詳細な事実認定を行いました。認定した事実は命令書の8ページから62ページまでに及びます。徹底した証拠主義です。
FAの業務内容については、労働時間やノルマ、指揮命令の系統まで細かく事実認定しています。FAの賃金体系やお金の流れも細かく認定。ベルコによる「代理店(支部)」に対する指示の実態も一つずつ丁寧に認定しています。従業員の募集・採用・研修に関しても、例えば「支社」が「代理店(支部)」のノルマ達成についてチェックしている事実や、ベルコがFAに対し筆記試験や実技試験を行ったことなども認定しています。このほか、従業員の賃金決定や雇用の終了、資金管理、人事管理などについても事実を認定。「支部長」の「人事異動」があったことも認定しています。
圧巻は、労組結成メンバー排除の経過を録音データを最大限駆使して認定した箇所です。本社から来た営業部長が、労組結成メンバーの所属する「代理店(支部)」を訪れて「支部長」と交わした会話や、「支社長」と結成メンバーとの会話が証拠として採用され、事実認定されています。
画期的なポイント
道労委の命令が斬新で画期的だと評価できるのは、次の箇所です。道労委は上記のような詳細な事実認定を踏まえた上で次の通り述べています。
「以上によれば、代理店主は、全体会議や支部長会議において指示された事項を会社の指示どおり忠実に実行することが求められ、会社の要求をFAに正確に伝えることを主要な業務として担ってきたことが認められるところであり、会社、支社、支部、FAら従業員は、実質的に一体の組織を形成していたということができる」
特に重要なのが、ベルコが「実質的に一体の組織を形成していた」とした部分です。建前は業務委託契約だとしても、実態を踏まえればベルコの組織は、実質的に一体だと判断したのです。
さらに道労委は、「これらの事実関係からすると、代理店主(注・支部長)の実態は、独立の事業主であったとは言い難く、会社としては、あくまでも会社組織の一部たる『支部』の長として代理店主を位置づけていたといえる」と判断しました。ここまで踏み込めたのは、詳細な事実認定があったからです。形式ではなく、実態が認められたと言えます。
使用者性判断
加えて、道労委の命令には使用者性の判断でも注目すべきポイントがあります。道労委は労働組合法上の使用者を「労働契約関係ないしはそれに近似ないし隣接した関係を基盤として成立する団体的労使関係の一方当事者を意味する」と定義しました。これは、コンビニオーナーの労働者性に関して中央労働委員会(中労委)が出した命令を意識した内容です。中労委は労働組合法によって保護される労働者を「労働契約に類する契約で労務を供給し、収入を得る者」と定義しました。道労委は「近似ないし隣接」という言葉を使って使用者性を幅広く定義したと言えます。
また、ベルコの使用者性に関して、(1)不利益取り扱いと支配介入(2)団体交渉拒否──という二つの観点から個別に検討し、(1)に関しては、ア代理店を会社の組織上の一部門とみなし得る実態があり、イその代理店に属するFAも実質的には会社の指揮命令下にあり、ウその結果、会社がFAを代理店に配属させる権限を有している──の三つを判断要素とし、その上で使用者性が認められるとしました。今後、類似の事例を検討する際にも影響を及ぼすと考えられます。
救済方法も画期的
道労委命令が優れているもう一つの点が救済方法です。解雇された2人が所属していた「支部」はすでに閉鎖されており、原職復帰をさせるにしても、どこに戻すかが課題でした。ここで先ほどの「実質的一体論」が効いてきます。道労委は、ベルコの支部は「実質的には会社の組織上の一部門」だから、札幌市内の別の支部に原職相当職で復帰させろと命じたのです。非常に画期的な内容です。バックペイについても「バックペイの義務主体は、不当労働行為を行った使用者であると解するほかない」と判断し、ベルコに支払いを命じました。ベルコと労働契約があるとまでは踏み込んでいないものの、不当労働行為を行った主体が支払うべきだとしたのです。
世論形成が重要 拡散を
今回の道労委命令は、労組側にとっては完璧とも言える勝利命令です。まずは、ベルコに対して原職復帰や誠実な団体交渉などを実施するよう働きかけを強めていきます。一方、裁判闘争では高裁に今回の道労委命令の内容をすでに提出しています。不当労働行為というこの事件の本質を見るように裁判所に強く訴えかけていきます。中労委にも同様の訴えをしていきます(注・ベルコは6月19日に中労委に再審を申し立てた)。
また、世論形成も大切です。ベルコのように業務委託契約を濫用し雇用責任を免れる働き方を許してはいけないという声をもっと広げていく必要があります。ぜひ注目して、拡散してください。